エリソ・ヴィルサラーゼ(P)+アレクサンダー・ルーディン指揮新日フィル
○2017年11月23日(木・祝)15:00〜17:05
○すみだトリフォニーホール
○3階5列9番(3階5列目上手側)
○モーツァルト「ピアノ協奏曲第15番変ロ長調」K.450(約24分)、ベートーヴェン「ピアノ協奏曲第2番変ロ長調」Op19(約29分)
(8-7-5-5-3)
 ショパン「ピアノ協奏曲第1番ホ短調」Op11(約39分)
(10-8-6-4-4)
〇下手から1V-2V-Vc-Va、CbはVcとVaの間の後方

室内楽的な緻密さと繊細さ

  ヴィルサラーゼはジョージア出身だがネイガウスにも師事するなど、ロシア・ピアニズムを現代に継承する数少ないピアニストの1人。最近ようやく来日の機会が増えているのが嬉しい。この日は協奏曲3曲を弾き通す意欲的なプログラム。7割程度の入り。

 前半は奇しくも変ロ長調の協奏曲で揃える。弦は小編成だが、中央上手寄りに座るVc4人から少し離れて5人目のVcが座り、その後方にCbが4人。前半の曲ではVcとCbが分かれて書かれていないので、このような編成にしたのか?

 モーツァルトの15番の協奏曲、第1楽章から端正なフレージングが心地よい。pとmfくらいの間の音量の幅をきっちり守りながらも、その中で巧みに表情の変化を付ける。例えば、再現部の第2主題、233小節目のフレーズが音域を変えて繰り返される237で実に愛らしい表情を見せる。
 第2楽章、オケとピアノの問答が変奏曲風に複雑化して穏やかで豊かなハーモニーが発展してゆくが、終盤の95〜98の和音の変化で一瞬不気味な雰囲気になる。
 第3楽章、軽快に音楽が流れてゆく。細かい音符も粒が揃っていて心地よい。繊細の極みと言うべき演奏。

 ベートーヴェンの2番は彼が最初に書いたピアノ協奏曲で、古典の様式がまだ守られている。
 第1楽章、90のピアノ出だしはpだがモーツァルトよりは芯のしっかりした音。しかし、107の和音の連打の音量は控え目。179以降のオケのffに応えるピアノのpのフレーズがこれまた優雅。カデンツァはフーガ風で各声部をしっかり聴かせるが全体的な響きは重くならない。
 第2楽章、終始穏やかな響きが保たれ、モーツァルトのときよりむしろ表現は抑え目。
 第3楽章、右手のアクセントをさりげなく活用してリズミカルな雰囲気を作る一方、24以降のオケの全奏に対する27以降の合いの手はさほど強調しない。気品に満ちた演奏。

 ショパンでも弦の数はあまり増えない。オケとピアノが対決するのでなく、むしろ室内楽的な緻密なアンサンブルを目指している。
 第1楽章、139のピアノの出だしでこの日初めての豊かな和音が鳴り響く。142以降の下降フレーズの柔らかい響きとのコントラストが見事。
 テンポは速めだが、どのフレーズも大河のような音楽の流れに乗っかってくる。203以降もガチャガチャしたところが全くなく、258以降の下降音型も実に自然。
 少々ミスタッチが目立って心配させたが、終盤621以降の長丁場にはホロリと来た。ここは右手の16分音符4つの塊を一つ一つ区切りながら弾くピアニストがほとんどなのだが、ぜーーーんぶつなげてレガートで弾き切った!
 第2楽章、あっさりと言っていいほど淡々と進んでゆくが、安心して響きに身を委ねられる。自分の気に入ったフレーズを強調して悦に入るピアニストとは対極の弾きぶり。Fgとはしばしば奏者の方を向きながら慎重に合わせてゆくが、Hrがしばしば大き過ぎて台無しになりかける。
 第3楽章は意を決したような速いテンポに戻り、一気呵成に。痛快な演奏。

 ルーディンは時折独自の解釈を織り込みながらも、きびきびした指揮ぶりでピアノを支える。

 ヴィルサラーゼはもちろんチャイコフスキーやラフマニノフも立派に弾けるのだが、1日3曲となるとその中に含めるのは難しかったのだろう。伝統的なロシア・ピアニズムを受け継ぎながら、そこに独特の抒情性をブレンドするのが彼女の持ち味ではあり、この日の選曲はその持ち味を発揮するには最適だったと思う。次回はまたロシア物をじっくり聴きたいものだ。

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