新国立劇場「神々の黄昏」(6回公演の4回目)
○2017年10月11日(水)14:00〜19:55
○新国立劇場オペラパレス
○4階1列48番(4階1列目下手側)
○ブリュンヒルデ=ペトラ・ラング、ジークフリート=ステファン・グールド、ハーゲン=アルベルト・ペーゼンドルファー、グンター=アントン・ケレミチェフ、グートルーネ=安藤赴美子、アルベリヒ=島村武男、ヴァルトラウテ=ヴァルトラウト・マイヤー他
○飯守泰次郎指揮読響
(16-14-12-10-8)
○ゲッツ・フリードリヒ演出


ブリュンヒルデに希望を託す

「飯守リング」もいよいよ最後の「神々の黄昏」。オケがさらに変わって、初めて新国のピットに読響が入る。ほぼ満席の入り。

 序幕、中央に手前から奥へ続く長い道。下手手前に立方体状の椅子。中央に半孤型の小舞台。金属の棒が林立し、その周りに赤い綱が巻かれている。竹本節子(第1のノルン)の歌い出しで舞台が引き締まる。ノルンたちは綱を持ったり引っ張ったりしながら歌う。後半からブリュンヒルデが奥に登場。3カ所に離れて歌っていたノルンたちは次第に中央に集まり、横1列に並んで何とか綱を結い続けようとするが、棒が2,3本倒れ、綱も3人の間で切れてしまう。真ん中のノルンは切れ端を力なく地面に落とす。ノルンたちは手を取り合って上手手前へ退場。綱と棒は第1幕第1場までそのまま残る。
 第1幕第1場、ブリュンヒルデは綱の切れ端を拾い上げるが、すぐ地面に置く。逆三角形の板が小舞台の上に下り、頂点が地面に付く。そこに白い光が当たって床に白い影ができる。下手奥からジークフリート登場。2人は小舞台の上で歌っているが、終盤の二重唱では上手手前へ。
 ジークフリート上手中央から旅立つ。見送ったブリュンヒルデは床に倒れるが、ジークフリートの角笛で立ち上がり、奥へ退場。彼女を追うように下手手前からハーゲン登場。黒布がフワッと下りて舞台転換。横に伸びるレーザーの線が数本、ライン川を表す。
 第2場、ホリゾントに金属製の手すりが横に渡されている。半狐は青いシーツで覆われ、ベッドに。その後ろには赤い綱が床に残っている。凸レンズ付の正方形の板が下手手前に1枚、中央奥に2枚吊されている。ベッドに並んで座り、見つめ合ってゆっくりキスするグンターとグートルーネ。下手手前の椅子にハーゲン座る。
 下手奥からジークフリートが登場し、まずレンズの奥で止まってから手前に進んでくる。犬のようにグートルーネの匂いを頭から足までかぎ回る。隠れ頭巾を無造作にハーゲンに投げ渡す。角笛型の容器の忘れ薬を飲むとベッドに倒れ、顔が白塗りに。
 グンターとジークフリートが義兄弟の誓いを立てると、間に立つハーゲンは、グンターの腕に包帯を巻く。こういった何気ない仕草がたまらない。
 グンターとジークフリートが旅立った後、ハーゲンは下手手前の椅子に座って歌うが、歌い終わるとレンズの後ろへ移動。
 第3場は基本的に第1場と同じだが、逆三角形の板に光が当たらない。しかし、床に白い電球の丸い形が反射している。下手手前のレンズは残っている。ブリュンヒルデは小舞台の上で横たわっている。
 ヴァルトラウテが近付いてくると、まず4階下手側、次に上手側から声がきこえる。続いて上手奥からヴァルトラウテ入場。せわしなく動きながら歌うヴァルトラウテに対し、手前に立ってぼんやり聞いているブリュンヒルデ。
 ジークフリートのテーマが鳴ると、両端から白煙、手前に炎が横一線に現れる。下手手前から頭巾を被ったジークフリートがレンズの奥に立つ。そこから中央へ進み、小舞台の上でブリュンヒルデから指環を奪う。ブリュンヒルデはうなだれて下手中央からゆっくり退場。ノートゥングを前に突き出したポーズでジークフリートもゆっくり後を追う。

 第2幕、中央の道の両端に沿って槍が並ぶ。下手手前、上手中央、中央奥に直方体の柱、中程に怪しく青と白の光がともる。
 下手手前の椅子に座るハーゲン、奥からアルベリヒが足を引きずりながら近付く。指環を取り戻すことを約束するようアルベリヒがハーゲンの右腕をつかむと、ハーゲンはそれを払いのける。念押ししながらアルベリヒは奥へ退場。
 朝になると柱の明かりは消える。舞台最手前に__| ̄ ̄ ̄の形で赤い綱。
 奥からジークフリートが先に帰還、上手からグートルーネが現れて出迎える。
 ハーゲンは水牛の角が横に2本付いた兜を被り、細長いラッパを鳴らして家臣たちを集める。彼らは順次槍を取って持ち、両側に整列して出迎える。
 グンターはブリュンヒルデの左手首を掴んで連れて来る。ブリュンヒルデは逃れようとするがかなわず、代わりに羽織っていたマント(表は白で裏は黒)を投げ捨てる。上手からジークフリートがグートルーネと手をつないで出てくる。ブリュンヒルデはジークフリートの姿を認めると、駆け寄って抱き付く。
 ブリュンヒルデが赤い綱をまたいで神々に訴えると綱は切れる。彼女が舞台中央に戻ってジークフリートを非難する間、彼は上手手前にしゃがんで綱を持つ。
 ブリュンヒルデが誓いを立てるよう求めると、ハーゲンは下手端に立ててある自分の槍を抜いてくる。刃先に手を置いて誓うジークフリートに対し、それを押しのけ頭の上で槍を両手でつかみ、ジークフリートに対して今にも突き出そうとせんばかりのポーズで誓うブリュンヒルデ。
 絶望するブリュンヒルデは下手手前端へ。その直ぐ側で呆然と立つグンターにジークフリートが近付き、ひそひそ声で釈明。グートルーネはブリュンヒルデにマントをかけてやる。
 一同が去った後緞帳が下り、その手前でブリュンヒルデ、グンター、ハーゲンの三重唱。
 歌い終わると緞帳が上がり、一同再登場。ジークフリートとジークルーネは結婚式の衣装。グンター、ブリュンヒルデを含めた4人は手をつないで輪になろうとするが、ブリュンヒルデはジークフリートと手をつなぐのを拒否。ジークフリートとグートルーネが手を取り合って奥へ向かい、続いてグンターとマントの白い方を表に向けて被ったブリュンヒルデも奥へ向かうが、途中からグンターだけ先へ行き、ブリュンヒルデは振り返って手前にいるハーゲンを睨みつける。

 第3幕第1場、横に渡された青と薄紫のレーザー各3本が上下。舞台中央に斜めに置かれた長方形の板を挟むように両脇が下がって川に。白手袋の片手が3本だけ見える。やがてラインの乙女たちが姿を現す。黒い下着に黒のレザーコート、水色の長いショールを首に巻いている。
 奥からジークフリート登場。乙女たちは橋の下で打合せ、橋に座るジークフリートに向かって指環を返すよう求める。
 第2場、乙女たちが去ると川の部分がせり上がって平らになるが、橋の形の板は床より少しだけ高い状態で残る。奥からハーゲンたち登場。部下の1人が板の手前に白布をかけ、その上にビンを2本、コップを2個置く。ジークフリートは酒を混ぜ合わせるうちにこぼしてしまい、布に染みができる。その布をグンターは丁寧に畳む。
 ノートゥングを見せながらミーメを殺した話をするジークフリートに対し、ハーゲンは「自ら切れ味を味わったわけだ」と歌いながら後ろから近付き、ノートゥング取り上げてしまう。
 ジークフリートは話の続きを手前中央で歌い、板の上へ戻って客席側を向いたところで背後から刺され、倒れる。グンター以外の男たちは後ろを向く。ハーゲン1人、先に奥から退場。
 葬送行進曲の途中で下手手前にブリュンヒルデが登場し、ジークフリートの元へ。紗幕が下りる。
 第3場、紗幕の手前で上手からジークルーネ登場。ブリュンヒルデを探しに下手に退場してまた出てくる。奥からハーゲンたちがジークルーネを呼ぶ。部下数人が懐中電灯を回しながら彼女の方を照らす。
 紗幕が上がると、下手中央と中央奥に柱、灯りはついている。レンズが中央奥に2枚、上手手前に1枚。
 グンターは上手手前でハーゲンの槍に倒れる。ブリュンヒルデが奥から現れるとハーゲンは下手端へ。
 グートルーネは歌い終わるとグンターの手前に倒れる。グンターの死体が運ばれるのに従って退場。
 ブリュンヒルデは右往左往する群衆に混じって自己犠牲の歌を歌うが、スポットライトが当たらないので、よく探さないと見失う。
 奥から4,5人が松明を持って登場。ジークフリートの死体と一緒に奥へ移動するが、下手に1人残る。ブリュンヒルデはその松明を奪って歌い続け、奥へ。松明を置いて中央へ戻り、歌い終わるとマントを被って消える。ホリゾントは燃え盛り、柱は折れ、レンズも地面に落ち、手すりも崩れる。床が下がって乙女たちに指環が返される。下手手前端に立っていたハーゲンはそれを奪おうと川に入るが乙女たちに沈められる。
 一同退場し、舞台は廃墟に。下手手前からアルベリヒ登場、ブリュンヒルデがマントを両手で張って立て膝付いた状態でポーズを取る。その様子を見届けてアルベリヒ、上手へ退場。

 フリードリヒとしては、あくまでブリュンヒルデの自己犠牲による世界の救済を尊重し、明日の希望の象徴と位置付けているようだ。4部作全体に言えることだが、さりげない仕草に登場人物の性格を反映させる演出が心憎い。
 
 ラングは声が響くようになるまで少し時間がかかったが、至福のひとときと絶望のどん底を行き来するブリュンヒルデを熱演。役柄上仕方ない面もあるが、特に第2幕以降は力で押す場面が目立つ。グールドはこの日も抜群の安定感。第3幕で仲間の呼びかけに答えるハイCが意外にもあっさりしていたが、力強い響きを終始保つ。ペーゼンドルファーは開演前に「軽い気管支炎」とのアナウンスがあったが、全くそんな様子を感じさせない堂々たる歌いぶり。ケレミチェフ、安藤も役柄相当の存在感。島村は迫力ある声だが、崩して歌う癖が耳に付く。マイヤーの美声と歌唱力も健在で安心。

 飯守は終始遅めのテンポだが、遅さを感じさせない流れを創り出している。2012年の二期会「パルシファル」で振った読響が気に入ったようで、開場20年で初の新国ピット入りとなった。読響も今年度だけで二期会「薔薇の騎士」、そしてこの後「ルサルカ」「アッシジの聖フランチェスコ」(演奏会形式)とオペラの演奏が続く。
 シンフォニー・オーケストラとしての実力は申し分ない。弦は厚く、管楽器は力強く響く。ただ、声とのバランスを考えたときに、さすがに鳴り過ぎる場面が目立つ。もちろん音楽の流れでどうしても声を消しがちになってしまう場合があるのは理解するが、そうであっても歌手に負けまいとする雰囲気が残っているように感じる。もっと歌手に寄り添ったり、背中を押したりする場面が増えてほしい。
 作品とオケの実力を照らし合わせて最適のオケを選ぶこと自体を否定はしない。ただ、歌劇場付きオーケストラを育てることも新国の重要な責務であるはずだ。そして指揮者出身の芸術監督ならなおさら、そこを一歩ずつでも進めることを止めないでほしい。

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