バイエルン国立歌劇場「魔笛」(4回公演の3回目)
○2017年9月27日(水)18:00〜21:25
○東京文化会館
○1階L10列10番(1階下手サイド後方から2列目)
○タミーノ=ダニエレ・ベーレ、パミーナ=ハンナ・エルザベス・ミュラー、パパゲーノ=ミヒャエル・ナジ、ザラストロ=マッティ・サルミネン、夜の女王=ブレンダ・ラエ、モノスタトス=ウルリヒ・レス、弁者=ヨハン・ロイター、パパゲーナ=エルザ・ベノワ他
○アッシャー・フィッシュ指揮バイエルン国立歌劇場管
(10-8-6-4-2)、
同合唱団、テルツ少年合唱団員
○アウグスト・エヴァーディング演出


国立歌劇場の使命

 バイエルン国立歌劇場来日公演2作目はモーツァルトの「魔笛」。サヴァリッシュ時代からビデオなどでお馴染みのエヴァーディングによる演出。ほぼ満席の入り。

 第1幕第1場、舞台手前両端から木の枝が内側にはみ出している。ホリゾントの星空に夜の女王のシルエットが映った満月。舞台奥両端に山々、その間から侍女たちが覗いている。山の間をタミーノ、続いて大蛇(人1人が長い胴体を引きずりながら動く)。が登場。タミーノは舞台前面中央のプロンプター・ボックスの上で気絶。侍女たちが下りてくると月は上がる。侍女たちは相当タミーノに未練があるようで、三重唱の後奏でもまだ舞台に残り、タミーノが起き上がりかけたところでようやく下手に退場。
 パパゲーノは下手側の山を歩いて登場。前奏では空に赤い鳥が数羽飛ぶ。アリアの3番を歌う間に下手に下がっていたタミーノがパパゲーノの背後に登場。
 タミーノとパパゲーノのやりとりの間、左右の山の間に侍女たち登場。水は陶器の瓶で渡す。タミーノには覆いを被せた絵姿を渡す。上手手前で覆いを取って絵姿を見たタミーノ、思わず覆いを落とす。
 山々が左右に分かれ、侍女たちとは別の3人の従者を引き連れて夜の女王登場。アリアを歌い終わると、中央の切り穴から退場。続いて、舞台前方3分の1あたりに紗幕が下りる。侍女たちとタミーノ、パパゲーノはその前でやりとり。笛を渡されたタミーノ、袋は下手の方へ床伝いに投げ捨てる。童子たちは上手から雲に乗って登場。3人が赤いひもを1本ずつ下ろし、タミーノはそれをつかんでパパゲーナとともに下手へ退場。侍女たちは上手へ退場。
 第2場、紗幕の裏側に並ぶ奴隷たちが幕を巻き上げる。その下をくぐって上手に1人の奴隷が笑いながら登場。奴隷たちが幕を巻き上げて下手へ運ぶ間、笑っていた奴隷は他の者にパミーナが逃げたことを話す。しかし、上手からモノスタトスがパミーナの腕を掴んで登場、両手首を縛って下手の天蓋の中へ押し入れる。
 上手花道からパパゲーノ登場、天蓋の前でモノスタトスとぶつかると、互いにカーテンで身を隠しながら二重唱。モノスタトスは下手へ、パパゲーノは上手へ逃げるがパパゲーノはすぐ戻ってくる。パパゲーノとパミーナの二重唱の間に手首のひもはほどける。2人は歌い終わると上手へ退場。
 第3場、ホリゾントはエジプトの平原から山々の画像へと上手から下手へ動いてゆく。それとは逆方向に、雲が下手から上手へ移動し、赤いひもを持ったタミーノ登場。童子たちはひもの端を離し、上手へ退場。
 ホリゾントの中央は神殿の入口に。中央の入口から弁者登場。弁者が歌い終わって神殿に入ると、絶望するタミーノの問いに神殿内の僧侶たちの合唱が答える。ホリゾントの紗幕が透けて奥の僧侶たちが見える。
 気を取り直してタミーノが笛を出すと、吹き始める前に動物たちが集まってくる。パパゲーノの笛が笛で答えると、タミーノは下手へ退場。入れ違いに上手からパパゲーノとパミーナ登場。モノスタトスに捕まるが、パパゲーノが鈴を鳴らすと奴隷たちだけでなく動物たちも再登場して一緒に踊る。
 ファンファーレが鳴ると下手から民衆たちが登場。続いて輿に乗って下手からザラストロ登場。下手手前で輿を下り、中央へ。パミーナの罪の告白の後、下手からタミーノが奴隷たちに連れられて登場。モノスタトスが鞭打ちの刑で連れ去られると、しばらくして下手裏から悲鳴が聞こえてくる。
 試練を受けることになったタミーノとパパゲーノは僧侶たちに連れられて中央の扉から神殿に入る。パパゲーノが出てきてザラストロに詰め寄るが敢えなく諦め、再び中へ。

 第2幕第1場、前奏の間に幕が開く。ホリゾントに神殿の柱が並ぶ。手前に「最後の晩餐」のような長テーブル。中央手前に弁者が客席に背を向けて立ち、入ってくる僧侶たちに礼をしたり握手をしたりする。最後に上手からザラストロが登場するのと入れ替わりに弁者退場。ザラストロたちは長テーブルの向こう側に座って協議。
 上手からパミーナ、下手からタミーノとパパゲーノが連れてこられ、ザラストロと別れの三重唱。タミーノたちが退場した後「おお、イシスとオシリスの神よ」が歌われる。
 第2場、舞台手前3分の1あたりに石壁の紗幕が下り、その手前にタミーノとパパゲーノが連れてこられる。侍女たちが現れ、2人を連れ戻そうとするが、紗幕が透けて奥に並ぶ僧侶たちが合唱で追い払うと、侍女たちは中央の切り穴から退場。
 第3場、月夜の平原。下手手前で横たわるパミーナ。モノスタトスがアリアの後パミーナに言い寄ろうとするが、すかさず後方から夜の女王が登場し、モノスタトスは一旦下手へ退場。従者たちとともに女王が退場した後、改めてモノスタトスが登場するが、またも口説く間もなくザラストロが背後に現れ、上手へ退場。ザラストロ、アリアを歌い終わると後奏の間にパミーナとともに上手奥へ退場。
 第4場、神殿の中庭。中央から下手へ伸びる階段、その手前に向かい合う獅子像1対。下手に長いメガホン状の水差しを持ち、マントを被った女性像。タミーノとパパゲーノが上手から連れてこられる。パパゲーノが水を求めると、女性像が動いて水差しの水をかける。台座にパパゲーノも座って話し出すが、雷が鳴ると一瞬暗転に。再び明るくなると本物の像に。
 童子たち上の通路を上手から登場。笛と鈴を2人に返す。タミーノが笛を鳴らすと、同じ通路の上手からパミーナ登場、下に降りてくる。アリアを歌った後階段を昇って下手へ退場。
 ファンファーレが鳴ると、タミーノ上手へ退場。パパゲーノはまだ食事をしている。すると催促するようにライオン像が動くので、タミーノ戻って笛で鎮める。2人で上手へ退場。
 僧侶たち上を上手から下手へ移動しながら合唱。その途中からタミーノが戻る。最後尾を歩くザラストロ、階段の上からタミーノを励ます。タミーノ退場後、パパゲーノ1人戻る。ライオン像の口や上手に置かれた台からワインが噴水のように出てくる。鈴を鳴らしながらアリアを歌うと、ライオンも動く。後奏で中庭は下手へ移動し、その先にパパゲーナが待っている。結婚を誓うとマントの中から若いパパゲーナが登場。しかし、すぐ僧侶に連れ去られ、怒るパパゲーノは切り穴から退場。
 第5場、ホリゾント中央に大きな木、根元に童子たちが座り込んでいる。下手からパミーナ登場。3人、後から近付き、相談しながらパミーナの自殺を阻止。花で飾られた舟に乗せて下手へ退場。
 第6場、紗幕が入れ替わり、兵士2人が登場。タミーノが上手から登場。パミーナと話すことが許されると、下手から童子たちが連れてくる。火の試練では下手から入り、上手から出てくる。水の試練は逆の動き。水の試練の最中でタミーノがつまずく。演技かハプニングか?
 第7場、ホリゾントに鳥の巣がいっぱいの大木。パパゲーノはオケピット上手端から登場し、舞台に上がる。下手端の枝に縄をかける。上手から童子たちが登場し、しゃがみながら近付き、パパゲーノの自殺を阻止。鈴を鳴らす間に上手からパパゲーナが登場するが、童子たちに言われるまで気付かない。
 パパゲーノとパパゲーナの二重唱の間に、両端から子どもたちが次々に登場。童子たちが木製のリヤカーを持ってくる。子どもたちはその上に乗り切れず、パパゲーノが1人をおぶり、1人は右手でつまみ上げ、さらにパパゲーナも1人だっこして下手へ退場。
 第8場、暗い空間を下手から女王たちが身をかがめながら登場。雷で退場。
 第9場、中央手前にザラストロ、タミーノ、パミーナ。僧侶や民衆が彼らを囲む。途中から夜の女王たちやパパゲーノ一家も登場。女王は弁者が銀の球が入ったガラス張りの箱(太陽の環?)をタミーノに渡そうとするのを阻止しようとするが、果たせない。

 べーレは澄み切った声質がタミーノにぴったり。力強さも兼ね備えている。ミュラーはさらにすばらしく、母との関係に悩みながらも自立した女性というパミーナ像を声で見事に表現。ナジは明るい声でコミカルさも十分発揮。サルミネンは中高音の張りは健在だが、低音が弱い。70歳を過ぎてよく頑張っていると思うが、往年の声を知る者としては寂しさも禁じ得ない。ラエは超高音はきちんと出ているが、線が細い。レスはベテランらしい手堅い歌いぶり。童子役のテルツ少年合唱団員たちがこの日も素晴らしい出来。第2幕、パミーナとの四重唱は全編の中で最もドラマチックな場面に。
 フィッシュは2000年の新国立劇場「ドン・ジョヴァンニ」を振っているが、むしろワーグナー指揮者として評価されているようだ。全体的には速めのテンポでどんどん物語を進める一方、ここぞの聴かせどころでは思い切ったブレーキもかける。ただ、「タンホイザー」のときよりオケの響きは乾いた感じ。

 現在DVDで観れる「魔笛」は1983年の公演である。そこから35年近く、エヴァーディング演出のプロダクションは現役として行き続けている。「タンホイザー」のように新しい演出による公演を制作するのも、一つのプロダクションを長く上演し続けるのも、いずれも国立歌劇場の使命である。今回のバイエルン国立歌劇場の来日公演は、この2つの使命をしっかり果たしていることを、聴衆に明確に示すことができたと言える。

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