広上淳一指揮京響
○2017年9月18日(月・祝)18:00〜20:30
○サントリーホール
○2階LA2列11番(2階舞台下手バルコニー2列目)
○武満徹「フロム・ミー・フローズ・ホワット・ユー・コール・タイム」
(14-12-10-8-6)
 ラフマニノフ「交響曲第2番ホ短調」作品27(約60分、第1楽章提示部繰り返し実施)
14-12-10-8-7)
+チャイコフスキー「組曲第4番」(モーツァルティーナ)より第3曲「祈り」
〇下手より1V-2V-Vc-Va,CbはVcの後方)

感謝と平和の音楽 

 第46回サントリー音楽賞は、近年目覚しい充実ぶりを見せている広上淳一と京都市交響楽団に決定した。その受賞を記念するコンサート。8割程度の入り。
 リニューアルしたサントリーホールだが、ホール内部に変わった様子はない。その一方でトイレの数が増えるなど聴衆向けのアメニティが大幅に改善。

 武満の作品はカーネギーホール100周年記念の委嘱作品。偶然だが私はカーネギーでの初演(小澤征爾指揮ボストン響)を聴いている。青、赤、黄、緑、白の5色のリボンがステージから上手と下手の両方向に伸び、バルコニーの手すりに結び付けられていた風景を思い出す。この日ももちろんリボンが張られているが、ステージと反対の端は壁の切り穴につながっている。
 武満特有の響きに始まり、しばらくすると5色それぞれの衣装を着た5人の打楽器奏者が客席からクロタル(アンティーク・シンバル)を鳴らしながらゆっくり舞台へ近付き、上がってゆく。これから授賞式でも始まりそうな、静かな中にも厳粛な雰囲気。
 ステージに上がった打楽器奏者たちは、上手と下手の奥、上手と下手の手前、指揮者のすぐ上手側に分かれ、アドリブも入れながらカデンツァを織り交ぜる。彼らが演奏している間、広上も身体を小刻みに動かしてその世界に溶け込もうとしている。ティンパニの上に置かれた小さな鈴(りん、仏壇の前に置かれている鐘)がさらにホールを静謐な世界へ誘う。

 後半はラフマニノフの2番。木管奏者を2VとVcの2列の後ろに置くなど、管楽器をかなり前に出して弦との一体感を狙っている。
 第1楽章、冒頭から広上の全身を使った踊るような指揮が全開。速めのテンポで導入部から濃厚な響きを聴かせる。第1主題はほぼ標準的なテンポだが、VがGの音を伸ばすところで、着物を広げて「ほらきれいでしょう?」と誰かに見せるような仕草でためを作る。上がっては下がるラフマニノフ節をどのパートも存分に歌っている。しかし、展開部の練習番号13(カルムス版のスコアによる)から、Vaが16分音符のフレーズで苛立ちを見せる。
 終盤のクライマックスへ向けても緊張が保たれ、最後は1Vの方を向いたまま、左腕を大きく振り下ろしてVcとCbに最後の音を弾かせる。
 第2楽章、テンポはほぼ標準的。Hrの主題は端正な響き。Moderatoに入ると第1楽章の濃厚な弦の響きが戻ってくる。トリオではVがヒステリックな響きに。練習番号37以降で主部に戻るまでの畳み掛けるような盛り上げが見事。
 第3楽章、少し速め。ここでも存分に歌うが、甘ったるくならず、かと言って意外とはかない感じはない。6小節目以降の長いClソロも、明るい音色で穏やかだが、芯のしっかりした歌いぶり。練習番号51の9小節目の頂点に向かう息の長い盛り上げにもじーんとくる。
 第4楽章、一転してお祭り騒ぎに。5小節目以降しばしば登場する3連符と2分音符のGis-A-Ais-Hのフレーズだが、Hrが少し弱いのでメロディラインが不明瞭に。ただ、何回か繰り返すうちにそこもだんだん整ってくる。
 練習番号63から5小節目Con motoでお祭りが一段落すると、しっかり間を取ってからがらりと雰囲気を変えてロマンティックな世界へ。
 この主題がホ長調になって再現する練習番号87以降、弦の歌に合いの手を入れる6〜7小節目のTpは控え目だが、他のパートがffなのにTpだけfになっているので、スコアに忠実な解釈ということか。
 終盤、広上は指揮棒を落とすが気にせずオケを引っ張ってゆく。最後は両手を肩幅に広げ、玉手箱にしまうような仕草で曲を閉じる。

 熱狂する聴衆を静め、受賞への感謝の言葉、そして演奏会が当たり前に開かれる平和の大切さを訴える。アンコールは「アヴェ・ヴェルム・コルプス」をアレンジしたチャイコフスキーの愛らしい小品。弦と木管、Hrだけの演奏だが、終わるとティンパニ奏者も立ち上がるので、座ったままのTb奏者たちから突っ込まれる。

 広上はベストのタイミングで京響に来たと言っていいだろう。もっと若い頃だったら団員たちと衝突していたかもしれない。京響のメンバーが持っている高い能力を存分に引き出すとともに、スケールの大きなアンサンブルとしてまとめ上げることに成功している。
 その一方で、本拠としている京都市のコンサートホールは音響が今ひとつなので、サントリーホールで思いっきり鳴らしてみたという事情もあるようだ。
 とは言え、とにもかくにも、いつも以上に楽しそうに、幸せそうに踊っている広上の姿が何とも微笑ましい。両者の蜜月関係が一目でわかる。この調子でこれからも在京オケにどんどんプレッシャーをかけてほしい。京都へも聴きに行かないと。

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