ミンコフスキ指揮都響
○2017年7月10日(月)19:00〜21:00
○東京文化会館
○3階L2列28番(3階下手サイド中央やや下手寄り)
○ハイドン「交響曲第102番変ロ長調」(約23分、繰り返し全て実施)
12-10-8-6-4)
 ブルックナー「交響曲第3番二短調」(ノヴァーク版第1稿、約57分)
16-14-12-10-8)
〇下手より1V-Va-Vc-2V,CbはVcの後方)

第1稿へのあふれんばかりの愛情 

 気鋭の指揮者、マルク・ミンコフスキが約3年ぶりに都響に客演。ほぼ満席の入り。

 自家薬籠中のハイドンと最近手掛けているブルックナーの組合せ。しかもハイドンの中でもブルックナーっぽさが目立つ102番を選ぶところが憎い。
 その102番第1楽章、冒頭のBのフェルマータからたっぷり延ばし、息の長い<>を聴かせる。序奏のラルゴと提示部のヴィヴァーチェのコントラストも見事。その提示部は快速テンポで進むが、ヴィブラートは禁止していないので、fzの強調できびきびした手兵のレ・ミュジシャン・デュ・ルーヴルの演奏よりも、レガートが際立つ。ただ82,87小節のGPは普通に振った1回目が少し甘かったので、2回目以降は右腕を回してキュッと締めて直前の全音符をきっちり切らせる。
 第2楽章も速めのテンポ。Vcのソロがバロック風のひなびた雰囲気を醸し出す。Cb4人のうち2人はずっと休んでいて、終盤54のff以降のみ加わる。
 第3楽章も踊るような指揮ぶりで、fとpのコントラストやアクセントは控え目。トリオの途中でVcとCbがそれぞれ首席しか弾かない場面があった。
 第4楽章も速いテンポで一気に駆け抜けるが、166以降のfzの連続もさほど強調しない。ティンパニも全体的におとなしめでアンサンブルの中に収まっている。
 
 ブルックナーでは木管を指定の倍の4人ずつ配置。インバルなどごく少数の指揮者しか取り上げない3番のノヴァーク版第1稿に挑む。
 第1楽章、速めのテンポ。5以降のTpソロが安定した響き。
 対抗配置なので135以降の第2主題における2Vと1Vの掛け合いなどがよくわかって面白い。
「眠りの動機」が登場する479以降もさほどもったいぶった響かせ方はしないが、この版でしか聴けない独特の世界。これまでの興奮状態を眠りにつかせて落ち着かせ、冒頭の主題に戻る。巧いこと作ってるやん。
 第2楽章、ほぼ標準的テンポ。33以降のVaの第2主題をよく歌わせる。
 しばしば登場するGPでも音楽の流れは途切れない。Vcが第2主題を奏でる直前、160の休符のフェルマータもあまり長く取らない。逆に、冒頭の主題が戻ってくる直前の222〜224の休止で、時が止まったような感じに。
 第3楽章、速めのテンポ。ここでも踊るような指揮ぶり。縦のアクセントより横の音楽の流れを重視。
 第4楽章、さらに速くなり、アレグロの指定を無視して突進。69以降の第2主題も速い。209以降の弦・木管対金管の掛け合いはさらに速く。
 その後も猪突猛進の勢いだが、675以降前3楽章の主題が回帰するところだけは、それぞれの楽章のテンポが指定されているにもかかわらず、聴衆の脳裏に焼き付けるようにガクンとテンポを落とす。689以降また元に戻って突進再開。
 757以降Tbが全音符のDと付点2分音符+4分音符のAの音型を3回繰り返すが、3回目のAの音型(762)で他のパートの音が消えてパートソロのようになってから、最後の一撃。
 場内アナウンスが功を奏したか、拍手やブラヴォーのフライングなし。

 ミンコフスキはTp首席始め各パートを祝福した後、スコアを高々と持ち上げて拍手を求め、さらにスコアに抱きつく。よほど第1稿を愛しているようだ。
 とかく未整理の部分が多いと評価の低い第1稿だが、例えば第1楽章119以降の同じ音型のフレーズをあえて重ねるところなども未整理のまま忠実に聴かせる。「つべこべ言わずにまずは楽譜に書かれたとおりの響きを聴いてくれ」といった指揮者のメッセージが強烈に伝わってくる。主旋律と他のパートが入り乱れている部分もあえて旋律を浮き立たせず、混沌のまま聴かせる。
 しかし、聴き進んでいくと、「この部分はこのメロディが主導」といった構成上の位置付けが明確になされており、未整理どころかちゃんと整理された、完成度の高い作品に聞こえるから不思議。これぞミンコフスキの面目躍如と言えるだろう。

 その一方でオケも、超特急のテンポをこなしながらブルックナーに必要な分厚い響きも終始維持。

 オケを解散させた後も拍手が鳴り止まず、ミンコフスキ1人で再登場。おやすみの仕草で茶目っ気も見せる。いやはや、愛すべき指揮者である。

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