新国立劇場「ジークフリート」(6回公演の2回目)
○2017年6月4日(日)14:00〜19:50
○新国立劇場オペラパレス
○4階L8列3番(4階下手バルコニー、中央1列目の手前)
○ジークフリート=ステファン・グールド、ミーメ=アンドレアス・コンラッド、さすらい人=グリア・グリムスレイ、ブリュンヒルデ=リカルダ・メルベート、アルベリヒ=トーマス・ガゼリ、ファフナー=クリスティアン・ヒューブナー、エルダ=クリスタ・マイヤー他
○飯守泰次郎指揮東響
(16-14-12-10-8)
○ゲッツ・フリードリヒ演出


グールドのスタミナに脱帽

「飯守リング」第3弾、「ジークフリート」。オケが東響に変わる。ほぼ満席の入り。

 第1幕、上手手前にトタン屋根で町工場風のミーメの家。中央に入口があり、階段を上がると下手中央が踊り場風になっていて、折り畳み式の木のテーブルと1対の椅子。さらに奥へ階段が続き、舞台後方は電柱のような木が並ぶ森。森の地面とミーメの家の屋根が同じ高さ。
 入口すぐ右の一段高くなった所に赤い衣裳と青い衣裳の人形が金床を挟んで向き合っている。金床は半分に割れていてこの幕の結末を連想させる。入口に続く壁にはクリスマスのイルミネーション風の電球がぶら下がっている。
 下手端にはジークフリートの部屋らしき天井付きの小部屋。木馬などのおもちゃが中に置かれているようだ。
 ミーメの家の客席側を向いた壁はカーテンで仕切られている。序奏の間カーテンの下からミーメが顔を覗かせる。開けると中央に厨房兼火床、その上手側に水で冷やすところ、その上手側に剣を鍛える作業台、その奥に金床。
 森から帰ってきたジークフリートはまず屋根に乗って足を踏み鳴らしながらミーメを脅かす。肩ひもが片方外れたツナギ姿。本物の熊の代わりに毛皮を入口で見せて怖がらせる。
 折り畳み椅子に座ってミーメが言い聞かせようとしても、小部屋の前に寝転んでまともに聞こうとしない。
 ジークフリートの母の話を聞き出すあたりからさすらい人が森に近付き、木の陰に隠れている。
 ジークフリートがノートゥングを鋳直すよう命じて森の中へ入った後、ミーメは困り果ててカーテンを閉め、家に籠ってしまう。
 さすらい人もまず屋根の上からミーメに呼び掛ける。槍は布で覆われており、ロングコートにリュックを背負っている。
 ミーメは外へ出てきて、入口左の人形に毛皮を被せる。しばらくしてさすらい人はその中の様子を除く。
 首を賭けた3つの問答の場面、2人は折り畳みテーブルをはさんで向かい合い、ジークフリートのおもちゃだった積み木(青い立方体、赤い三角錐、黄色の球)を並べる。ミーメの第1問に正解すると、積み木を渡すが、2問目に正解するとさすらい人が自分から積み木を取る。さすらい人からの問いに対しては、1問目の解答からミーメは積み木を自分で取る。しかし、2問目では取らない。
 ジークフリートが戻り、ノートゥングの破片を手にすると、上手端の台の上で作業を始める。ミーメは入口外で煮汁を作り始める。鋳直す作業の途中でさすらい人が確認するかのように森を横切る。
 ファフナーから奪った指環をジークフリートからさらに奪う計略を思い付いたミーメは、ジークフリートの部屋から赤地に白い水玉模様のパラソルを取り出す。毛皮を着てパラソルを持って屋根に上がって王様気分。
 鋳直したノートゥングを手にしたジークフリート、切れ味を試すのは金床でなく、天井手前の軒を斬る。屋根がへこむ。

 第2幕、電柱状の木が舞台両側に並び、中央は通路のように空いている。数本の木は倒れており、立っている木には白い布が幹に貼られている。森の地面は上手側が高くなっていて、上手の森の地面と手前の床との段差のところにアルベリヒが座っている。
 さすらい人がファフナーを起こすと、ホリゾントの下の方が少し赤くなる。アルベリヒの誘いに乗らず、再び眠ると元通りに暗くなる。さすらい人は上手奥へ退場。
 下手から丸太の上を伝って毛皮を羽織り、パラソルを差してミーメ、続いてジークフリートが登場。ミーメは毛皮を脱いで上手の森と中央の通路の境目の手前側に敷く。ミーメを追い出したジークフリートはその上に寝転ぶ。
 葦笛を作って吹くがうまくできず、投げ捨てて舞台中央に寝転ぶ。
 角笛を吹いていると奥から大きな3本指の手が2本出てきて、空気で膨らまされながら前に出てくる。両手の間に生身のファフナーは上半身が見えている。
 ジークフリートは両手に包まれるような状態で戦い、生身のファフナーに剣を突き立てて倒す。手がしぼみ、ファフナーが全身を現して手前に倒れ込む。
 ジークフリートはファフナーの血を舐めた後、ノートゥングを下手の丸太の上に置く。小鳥は4羽登場。いずれも木の幹の裏(3mくらいの高さ)から羽根と片足を見せながら歌う。
 ジークフリートが宝探しに奥へ行っている間にアルベリヒとミーメが下手手前でいがみ合う。
 指環と頭巾を持って戻ってきたジークフリートは無造作に毛皮の上に置く。
 下手から戻ってきたミーメ、一瞬丸太の上のノートゥングを取るがすぐ置く。ジークフリート、小鳥たちの忠告を思い出して取り戻す。毛皮の上に座ってミーメの言葉を聞くジークフリート、最後は座ったままノートゥングをミーメの方に向けると、彼の方から近付いて刺される。
 ミーメとファフナーをの死体を洞窟ヘ戻す間、アルベリヒが舞台手前の床からこっそり近付き、手を伸ばして毛皮の上の指環を取ろうとするが、果たせない。
 ジークフリートが戻ってくると、舞台の後方半分が紗幕で隠される。
 小鳥がブリュンヒルデのことを知らせると紗幕が上がり、森の中を上手へ伸びる道が見え、ダンサーが扮した小鳥が待っている。さらに緑の小鳥が木から降りて彼を導く。ジークフリートは毛皮に指環も頭巾も包んで行こうとするが、剣を忘れてことに気付き、取りに戻ってから、ようやく奥の道へ向かう。

 第3幕、第1場は前方4分の1ほどのスペースで後方は壁で仕切られている。ヴォータンが覆いを取った槍を持って仁王立ち、帽子も取っている。エルダを呼ぶと壁の手前の舞台がせり上がる。
 階下中央に長い袖で顔を覆った姿のエルダが座っている。両側はたくさんの細い柱が林のように通されている。目覚めると手の覆いを取って顔を見せる。階上のヴォータンは彼女の声を腹這いになって聞く場面も。
 ヴォータンの身勝手な振る舞いに怒るエルダが立ち上がって前に出ようとすると、彼女の衣裳の両端が運命の糸となって柱の後方で両側へ放射状に伸びているのがわかる。
 エルダが再び眠りに陥ると舞台は最初の状態に戻る。
 ジークフリートが近付くのに気付いたヴォータンはー旦下手に下がってから帽子を被って再登場。上手からダンサー扮する鳥に続いてジークフリートが登場し、鳥はすぐに上手へ退場。
 ヴォータンは下手の扉を開けて中の炎を見せるが、ジークフリートは動じない。一撃で槍を折り、扉の中へ。
 ヴォータンはうなだれて上手端へと逃げていくが、そこで留まり、舞台転換してジークフリートが頂上に着いたのを見届けてから退場。
 壁が上がると、岩山の頂上が奥からせり出して来る。中央の丸い台の上にブリュンヒルデが眠り、「ワルキューレ」の最後ではそれを取り囲むように台形型の黄色と緑の炎の線が走っていたが、手前の1辺のみ。両端は白くごつごつした壁。白煙の中奥からジークフリートがよじ登ってくる。
 煙が消えると、上手の壁伝いに手前に移動し、下手手前の端からその先を眺めてグラーネを見つける。振り返ってブリュンヒルデを見つける。
 声を掛けても起きないので、まずー口だけキス。それでも起きないので、今度は長めにキス。すると、ブリュンヒルデの左手が動き始め、ジークフリートが慌てて飛びのくと、両手を胸の上に合わせて背伸びする。すると太陽の光が目に入ったか、素早く両手で顔を覆ってうつむく。それからようやく起き上がって客席の方を向く。その間ジークフリートは上手奥の壁にへたり込んでいる。
 ブリュンヒルデは自分を目覚めさせた勇者を呼び、台から降りて祝福。ブリュンヒルデの話が理解できないジークフリートは下手手前の壁の前で立ち尽くす。ブリュンヒルデも台の上の武具を見つけて不安になり、上手の壁に逃げる。そこから「ジークフリート牧歌」のテーマになり、徐々に2人の距離が近付く。
 前を向いて生きる決心が固まった2人は台の上に並び、槍、兜、楯、腕当てなどの武具を順番に後ろへ投げ捨てる。そしてついに抱き合うと、2人へのスポットライトが消え、ホリゾントからの照明だけになり、シルエットの状態で結ばれる。

 幕切れ後再び幕が上がる間に舞台横の枠が外れたらしく、逆L字型の木の長い破片が舞台の上に飛び出した状態。そのままカーテンコールは続けられたが、一番上手側に立っていたマイヤーは足元を終始気にしていて、他の人たちより前に出られず、窮屈そうだった。

 グールドの驚異的なスタミナに脱帽。張りのある美声と力強さが最後まで保たれる。コンラッドは古典的なキャラクター・テノールの声。こちらも過度にミーメのいやらしさを強調するより、スコアに忠実な安定した歌いぶり。グリムスレイは第1幕で少し響きが硬かったが、第3幕は堂々たる声でエルダを呼び出し、ジークフリートに立ちふさがる。メルベートは端正で気品のある声。ブリュンヒルデとしては上品過ぎるかもしれないが、この作品の役柄にはぴったし。マイヤーの深い低音にもしびれる。
 東響は全体的に重厚で暗めの響きがワーグナーに合っているだけでなく、弦と管とのバランスも終始適切に保たれ、充実の演奏。飯守の指揮は基本的に遅めのテンポで、特にグールドにとっては息継ぎが大変だったのではないか。一音ずつ念を押していくような音楽の運び。

 フリードリヒの演出は目まぐるしい動きや過激な見せ方こそないが、さりげない小道具や仕草を通じて人物の心情を効果的に伝えているところが面白い。「神々の黄昏」でどのような結末を見せてくれるのか、今から楽しみ。

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