サロネン指揮フィルハーモニア管
○2017年5月19日(木)19:00〜21:00
○東京オペラシティ・コンサートホール
○2階C5列15番(2階最後列ほぼ中央)
○ストラヴィンスキー「葬送の歌」Op5(日本初演)
 マーラー「交響曲第6番イ短調」(悲劇的)(約82分、第1楽章繰り返し実施)
〇16-14-12-10-8(下手より1V-2V-Va-Vc,CbはVcの後方)

パワポのスライドのようなマーラー 

 日本のサロネン・ファンの永遠の願いは「プログラムに協奏曲を入れないでほしい」ということに尽きるようだ。彼の指揮と解釈を思う存分堪能したい。幸い今年はそんな演奏会が実現した。ほぼ満席の入り。

 ストラヴィンスキー「葬送の歌」は、彼が師のリムスキー・コルサコフの死を悼んで作曲し、初演もされたのだが、その後革命期の混乱で長らく楽譜が行方不明になっていた。2015年に発見され、昨年12月ゲルギエフ指揮マリインスキー劇場管で復活演奏されたという曰く付きの曲である。
「火の鳥」冒頭を思わせる低弦のA−Ais−H−D−Cis−Cという音型が繰り返される上を木管がE−ACG−−FE−というフレーズを次々に提示。弦が静かな行進曲を奏でる中でこのフレーズが何度も登場し、発展していく。頂点に達したところで全休止。最後は弦の静謐なハーモニーで閉じられる。
 平易なメロディを核にしつつも若書きらしい大胆な曲作りも垣間見える。マラ6と同じイ短調というのも、組み合わせるにふさわしい。サロネンはスコアを高く掲げて拍手に応える。

 そのまま休憩なしでマラ6へ。
 第1楽章、遅めのテンポ。冒頭の低弦の刻みは弾む感じ。6小節目以降の主題では輪郭をくっきり示す。53以降の1VからCbまで受け渡されるフレーズも明確。59〜60のTpが奏でる長調の和音の音量は控え目。76以降のVの第2楽章に木管の細かい動きがしっかり絡む。芝生の上に座るアルマの周りを娘たちが走り回る光景が目に浮かぶ。最初は堅めの表情のVも86あたりから柔らかに。91以降の管の行進曲風フレーズはマーラーのようにも聴こえる。111の頂点に向かってたっぷり盛り上げ、そこから走り疲れた娘たちがマーラーとアルマの元に戻ってきて、4人で青空を見上げる。
 展開部以降は生真面目な行進が続く。それが一段落つくと、再び芝生にくつろぐマーラー一家が現れる。
 その後再び行進に戻るが、マーラー家の団らんが徐々に盛り上がっていき、最後は幸福の頂点に。振り終わるとサロネンは気を付けの姿勢に。

 第2楽章、スケルツォから演奏。やはり遅めのテンポ。ティンパニの連打や10〜11のHrの装飾音付きフレーズは、きっちり鳴らしているが過激な感じは少ない。逆に12〜15のTbのフレーズを際立たせる。主部の締めくくりとなる87以降は通常速くするが、ほとんどテンポを変えない。
 トリオでは98と100で指示通り4拍目の前にルフトパウゼを入れ、ややぎこちない雰囲気に。しかしその間サロネンは主旋律を吹く木管の方でなくVの方を向いて振っている。メロディに被せるようにピツィカートが鳴らされるのだが、音楽之友社出版の楽譜には書かれていない。ひょっとしたら他にもサロネンなりの追加・修正があったのかも。
 主部に戻っても律儀なほどに遅めのテンポを変えない。

 第3楽章、標準的テンポだが、前の2楽章が遅めだったために、あまり変化を感じない。5の3拍目以降や10の頭など、間は置かないが新たに始まるようなフレージングにすることで音楽の流れを寸断し、この楽章の酔えなさをうまく表現している。ホ短調に転じる56以降で厳しい冬が訪れ、ホ長調に転じる84以降では春になり、舞台上のカウベルがガランガラン鳴って開放感を高める。
 その一方で、14のObと1V以降頻繁に登場する6度(所によって3〜5度)上がって下がるフレーズが、高揚する気持を落ち着かせるように響く。

 第4楽章、8までの序奏を受けた9以降の爆発だが、圧倒的な感じではない。むしろ、それが静まった後の16以降のTuソロとこれに合いの手を入れるHpの低音と低弦の下降音型が不気味。98以降の行進曲もあまりテンポを上げない。120のTpの上昇音型がやや乱れる。
 336(と479)のハンマーは頭部がドラム缶のような円筒形。残念ながら先週の「タモリ倶楽部」に登場した杉並区のレンタル店所蔵のものではなかった。それはともかく、打鍵後少しテンポが上がり、Tpのファンファーレがここぞとばかりの大音量で響かせ、金管が全体を引っ張ってゆく。364で転調し主旋律パートがVに移ると、一転して地平線を見渡すような悠揚迫らぬ響きに。
 その後も管主導の突撃と何とかそれをなだめようとする弦とのせめぎ合いが続く。
 820最後の一撃の後はあっさり終わる。指揮者がゆっくり腕を下ろし、肩の力を抜くまで沈黙が続く。聴衆にブラヴォー!

 サロネンはまずHr首席を立たせる。2回目のカーテンコールで弦以外の各パートを立たせて健闘を称える。弦の響きにもう少し色気が欲しいところだが、全体的に指揮者の要求にはほぼ万全に応えたと言っていいだろう。

 全てのパートの全てのフレーズを最後の一音まできっちり響かせ、パート毎のまとまりを重視するだけでなく、主旋律とそれに対応するフレーズなどをバランスよく響かせる。複雑なマーラーのスコアが整理整頓され、テンポや調が変わるたびに曲想も鮮やかに変わる。これらの解釈をゆったりめのテンポの中で誰にでも聴き取れるような形で示す。出来のいいパワポのスライドのような演奏。
 もちろんこのような演奏は相当な実力のある指揮者でないとできない。サロネンは正に自身の実力を聴衆に改めて示した。そのことに疑いの余地はないが、だからと言って団員を解散させた後に2度もステージに呼び出すほどのことだろうか?

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