ゼクステット魅生瑞(みゅうず)第25回定期演奏会
○2017年3月6日(月)19:00〜20:50
○ルーテル市ヶ谷センター
○H列6番(8列目下手側)
○ビゼー/山本靖子「アルルの女」第1組曲より「カリヨン」
 ラヴェル/大滝雄久「マ・メール・ロア」

 《6人の奏者、5分間リサイタル》
 マンシーニ/山本靖子「子象の行進」(Cl=山本靖子)
 ハートレイ「メディテーション(瞑想)」(Hr=阪本正彦)
 フォスター/大滝雄久「夢路より」(Fg=大滝雄久)
 ヴァヴィロフ/大滝善久「カッチーニのアヴェ・マリア」(P=大滝良江)
 ピアソラ/野呂芳文「リベルタンゴ」(Ob=富田和子)
 松任谷由実/丸山和範「春よ、来い」(Fl=青木美咲)

 J.シュトラウス2世/大滝雄久「美しく青きドナウ」(繰り返し省略)
 アルヴェーン/阪本正彦「スウェーデン狂詩曲第1番」(夏至の徹夜祭)
+プーランク「パストラル」

○P=大滝良江、Fl=青木美咲、Ob=富田和子、Cl=山本靖子、Hr=阪本正彦、Fg=大滝雄久

30年の歴史を振り返る 

 ピアノと管楽器5人の六重奏でどんな曲でも演奏してしまうスーパー・アンサンブル、魅生瑞が結成されて今年で30年。定期演奏会も25回目の節目を迎えるとあっては、駆けつけないわけにはいかない。7割程度の入り。

 30年のお祝いということで再演曲が並び、魅生瑞の歴史を振り返るプログラムになっている。
 まずは、ビゼーの「アルルの女」から「カリヨン」。1990年の編曲。複数の鐘を組み合わせてメロディを奏でられる仕掛けがカリヨンだが、オリジナルの管弦楽曲と同じく、鐘のテーマはホルン中心。弦のメロディは主にフルートが受け持つ。開演を知らせる合図のような選曲が何とも心憎い。
「マ・メール・ロア」の3曲目の題名が「首飾り人形」になっていて、編曲者の大滝雄久さんが「首振り人形」に訂正。そこまでは普通のトークだが、そこでさらに首振りの物真似を青木さんにさせるところが、いかにも魅生瑞らしい。演奏は打楽器がなくてもリズミカルだし、華やかなアンサンブル。4曲目「美女と野獣の対話」ではファゴットが野獣のテーマを提示(オリジナルはコントラ・ファゴット)。こちらも不気味で武骨な雰囲気は十分。最後の「妖精の園」はオリジナルでは弦のアンサンブルが主導するが、木管5人の息の長いフレージングで夢のような世界が広がる。最後の場面が「カリヨン」の雰囲気に似ていると紹介。なるほど、それでこの2曲を並べたのね。

 恒例の5分間リサイタルも、毎回楽しみにしている「どうやって順番を決めたか」に関する話はなかったが、曲目紹介がいつも以上に楽しい。山本さんの「小僧の行進にならないように」との話には吹き出したし、ハートレイが娘のために作曲したとの阪本さんの紹介は心温まるエピソード。
 大滝雄久さんのおかげで久々にフォスターを生で聴けた。「夢路より」が彼の「白鳥の歌」とは知らなかった。普通は8分の6拍子をレガートで通すのだろうが、中間部で弾むようなフレージングに変え、最も音が上がるところでフェルマータをかけるなど、演奏にもこだわりを見せる。
 大滝良江さんの「カッチーニのアヴェ・マリア」に関する作曲者のエピソードも興味深かったが、ご子息の編曲にびっくり。変ホ短調に始まり、終盤で嬰ヘ短調に転調し、最後はイ長調で終わる。ダイナミックな伴奏からメロディがくっきり浮かんでくるし、17歳とは思えない本格的なアレンジ。次はいよいよピアノ六重奏に挑戦か?
 富田さんのオーボエによるピアソラというのが何ともなまめかしい。有名なヨー・ヨー・マのチェロとは全く違った魅力が伝わってくる。
 大寒生れなのに冬が苦手の青木さんの「春よ、来い」も、春への強烈な憧れが込められていた。
 いつもながら出ずっぱりの大滝良江さん、お疲れ様でした。

「美しく青きドナウ」は青木さんにとってご自身の名前の漢字が2つも入っているだけでなく、孤独なハンガリー留学時代を思い出させる曲とのこと。オリジナル通りホルンのソロに始まり、弦がメロディを奏でる部分も違和感なく音楽が流れる。ウィーンでなくブダペストで眺めるドナウは、かくも青く美しいに違いない。
 アルヴェーン「スウェーデン狂詩曲第1番」は、冒頭のメロディがNHK「きょうの料理」のテーマ音楽の題材になった(実際に作曲したのは冨田勲だそうだ)親しみやすいもの。阪本さんが1993年に編曲したが、凝り過ぎて今演奏するのは難し過ぎるので、少しシンプルにしたとのこと(編曲年が2つ示されている曲が多いのはそういうことか)。祭りの準備にいそしむ人々のワクワクした心持ち、暮れそうで暮れない黄昏の雰囲気、そしてプログラムの表紙にも描かれた全員で踊り明かす祭りの最高潮の様子が活き活きと演奏される。富田さんは途中でコール・アングレに持ち替え、青木さんは終盤でピッコロに持ち替えるなど、大忙し。

 アンコールはプーランクの「パストラル」。合作のバレエ音楽「ジャンヌの扇」の中の曲だろうか?プーランクにしては素朴なメロディだが、終わり方が唐突なところが彼らしい。

 魅生瑞の独自性と魅力を分析すると、3つの点が挙げられる。1つ目は、ピアノと木管のアンサンブルであること。弦楽四重奏や木管だけのアンサンブルは珍しくないが、そこにピアノが加わって恒常的に活動をしている例は世界的にも珍しいのではないか。
 2つ目は演奏とトークが一体化していること。演奏の合間に曲目紹介などを挟む演奏家は、近年徐々に増えてきたとは言え、まだまだ少数派である。魅生瑞は30年前に始めたこのスタイルを貫き通すことで、とかく敷居が高いと思われがちなクラシック音楽が、工夫次第でもっと身近に楽しめることを証明し続けてきた。
 3つ目は2つ目にも関連するが、かつてヨーロッパの家庭で当たり前に見られていた、アマチュアのアンサンブルを連想させることである。親子が様々な楽器を習って家庭で交響曲の編曲版などを演奏するといったスタイルを原点としつつ、それを技術面、芸術面でとことん突き詰めたのが魅生瑞なのではないか。だからこそ、一流の演奏家たちのアンサンブルでありながら、いつも温かく聴衆を包み込むような雰囲気を創り出すことができるのではないか。

 魅生瑞のような演奏団体が我が国のあちこちにできてほしいと、発足当初から願ってきた。今後も演奏活動を続けていただくとともに、より若い世代からこのようなアンサンブルが生まれるような働きかけを続けていただくことも期待したい。

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