ネーメ・ヤルヴィ指揮N響(Bプロ)(2回公演の2回目)
○2016年5月26日(木)19:00〜20:30
○サントリーホール
○2階P6列9番(2階舞台後方6列目上手側)
○シューベルト「交響曲第7番ロ短調」D.759(未完成)(約23分、第1楽章提示部繰り返し)
 プロコフィエフ「交響曲第6番変ホ短調」Op111(約36分)
 (16-14-12-10-8、下手より1V-2V-Vc-Va、CbはVcの後方)
 (コンマス=伊藤、第2V=田中、Va=佐々木、Vc=藤森、Cb=西山、Fl=神田、Ob=青山、Cl=松本、Fg=水谷、Hr=福川、Tp=菊本、Tb=客演?、Timp=久保)


この親にしてこの子あり

 今やN響首席指揮者パーヴォのお父さんというイメージが強くなったネーメ・ヤルヴィ。N響に初登場したのもパーヴォの2002年1月に対し、ネーメは2011年11月。しかも、イルジー・コウトの代役であった。意外とN響とは縁が薄かったのである。
 9割を超える入り。


「未完成」、第1楽章冒頭から快速テンポ。右手であまり拍子を取らず、3拍子の拍頭だけ示す場面が多い。振るときも腰より下で棒を動かすことが多い。後ろの奏者に見えるのか、心配になる。左手で出番や表情の指示をしながら、棒を持った右手でスコアのページをめくることもある。左手の動きもそれほど大きくはない。転調して第2主題が登場する54小節目以降や第1主題が再現される218以降では、全く振らず、目だけで指示。
 第2楽章、冒頭のCbのピツィカートに対して音量を抑える指示。そのため、2のA−Fisが急に小さくなる。テンポは速いが、自然に流れてゆく。ただならぬ雰囲気になる96以降の全奏などでも、整った響きが保たれる。最後の音もほとんどフェルマータをかけずに終わる。

 プロコフィエフは先月スラトキン指揮で有名な5番を聴いているが、今日ははるかにマイナーな6番。
 第1楽章、こちらも速いテンポ。8分の6だが1VとVaの提示する第1主題の雰囲気が、4分の3の「未完成」第1楽章の主題に似ている。それでこの曲を選んだのかも。陰鬱な主題が楽器や調を変えてしつこく繰り返される。練習番号10(Moderato)から始まるObソロが寂しく響く。イライラが頂点に達しかけて一度静まった後、15(a tempo)から低弦が第1主題を再び繰り返すが、ネーメは右肩を前に突き出すような仕草しかしない。17(Andante molto)以降の行進曲風の部分では、再びイライラが募り、今度は頂点まで達する。収まるとまたも第1主題が何度も奏でられる。最後はTpが伸ばすEsの音が眠りの合図のように他の楽器をなだめてゆく。
 第2楽章、少しテンポが落ち着く。破滅的なハーモニーの上に、タンタンタタタンのリズムがしつこく繰り返される。48(a tempo)以降などのHr4人のアンサンブルのバランスが良く、安心して聴いていられる。金管や打楽器がただならぬ響きで不安を掻き立てるが、最後はHpとチェレスタが「ロミオとジュリエット」風に鎮めてゆく。
 第3楽章、速いテンポに戻る。目まぐるしく動く1Vの主題に応える低弦と管の「タッタタ」における16分音符の刻みがしばしば不明瞭。ネーメは身体を左右に揺らしながら、ノリノリで振ってゆく。しかし、シューベルトより多少動きが大きくなったとは言え、必要最小限の指示しか出さないのは変わらない。95の5〜8小節目にかけてVとVaがポルタメントをかけるところでは、腰だけを振るお茶目な仕草も見せる。祭りが終わり、113(andante tenero)以降第1楽章のObソロが再現され、孤独感が甦る。117(Vivace, come prima)以降「タッタタ」の反復で盛り上がり、そのままのテンポで一気にフィナーレへなだれ込む。

 2曲とも迷いのない速いテンポを貫くところはパーヴォにも受け継がれているが、力づくでオケを引っ張っていくようなところは全くない。わずかな動きで最大限の表現を引き出すあたりは、やはり年の功か。
 かつてネーメは、日本の弦楽器奏者がフォルテになると弓を現に押し付けるように弾くのを悪い癖だと指摘したことがあった。おそらく日本のオケを振るたびにそこを直そうとしたに違いない。その効果がどう現れるかにも注目したが、確かに弦の響きは柔らかく、高音域でも無理に音を出している感じが全くと言っていいほどなかった。このあたりもパーヴォの弾かせ方とは異なるように思う。
 その一方で全体的に弦の響きがいつもより薄いようにも感じた。ただ、これはコンマスのせいかもしれない。

 ネーメは来月で79歳になる。ゆっくりだがしっかりした足取り。N響定期では珍しく、カーテンコールで花束を渡される。最後は自分で花束と楽譜を持って退場するという茶目っ気も。息子に遠慮せず、もっと客演してほしいものだ。

表紙に戻る