レナード・スラトキン指揮N響(Bプロ)(2回公演の2回目)
○2016年4月28日(木)19:00〜21:05
○サントリーホール
○2階LA6列19番(2階下手側6列目ほぼ中央)
○バーンスタイン「キャンディード」序曲、「オン・ザ・タウン」より「3つのダンス・エピソード」、「ウェストサイド物語」より「シンフォニック・ダンス」
 マーラー「交響曲第4番ト長調」(約55分)(S=安井陽子)
 (16-14-12-10-8、下手より1V-2V-Vc-Va、CbはVcの後方)
 (コンマス=伊藤、第2V=白井、Va=佐々木、Vc=藤森、Cb=布川、Fl=甲斐、Ob=茂木、Cl=伊藤、Fg=水谷、Hr=福川、Tp=客演?、Tb=新田、Timp=久保)


天上の音楽に酔う

 スラトキン指揮のN響定期、3プログラム目。チケットは完売なのだが、天候のせいもあるのか、9割を超える程度の入り。

 今回も"Very Slatkin"なプログラム。バーンスタインの作品をプログラムの一部に入れて「ちゃんと自分のレパートリーに入れてますよ」とアピールする指揮者は数多いが、前半のプログラムを全てバーンスタインで埋め尽くせるだけの力量を持った指揮者は、アメリカ人と言えどもそうはいないだろう。
「キャンディード」序曲は、置いてあるスコアを裏向けて振り始める。冒頭からエンジン全開の溌剌とした演奏。
「オン・ザ・タウン」はめったに日本では演奏されない。ニューヨークを舞台に3人の水兵と3人の女性との間で繰り広げられるラブ・コメディである。大都市の喧騒をホールへ持ち込んだような「グレート・ラヴァー」、Saxの物悲しいソロが素敵な「ロンリー・タウン:パ・ド・ドゥー」、そして再び賑やかな「タイムズ・スクエア」。短い中にもエネルギーが凝縮された演奏。カーテンコールでSax奏者を立たせる。
「シンフォニック・ダンス」は「ウェストサイド物語」からの名曲メドレー。「プロローグ」などでしばしば団員たちが指を鳴らす。「サムホエア」の弦のアンサンブルが美しい。「マンボ」では客席に向かって2度叫ばせる。私の周りの客は私も含めみな黙っていたが、1階からはそれなりに声が飛んでいた。「ランブル」(格闘)の激しい音楽の後のFl独奏も印象的。指揮者は一応スコアを開いてはいるが、時折めくる程度で、飛ばしたり戻したりする場面も。ほとんど頭の中に入った状態で振っている。カーテンコールでは打楽器奏者たちを立たせる。
 ノリノリで演奏するSaxや打楽器群とクラシカルに隙なく音楽を進める弦と管が、迫力十分のアンサンブルを作り上げる。ただ、どちらかと言えば「ダンス」的より「シンフォニック」な演奏。

 後半のマラ4は2002年だったか、ワシントンでNSOによる演奏を聴いたことがある。確かあのときマエストロと久々に再会したはず。
 第1楽章、テンポはほぼ標準的。3小節目の1Vの主題の出だしが1拍早かったかも?15以降しばしば登場するE−Dの音型では、Eではfpが付いている弦を、Dではfpが付いているFlとFgを強調することで、スコア通りの受け渡しを聴かせる。前半に比べて音楽の進み方も軽快に。
 5番の葬送行進曲のテーマが顔を出し、不吉な雰囲気になりかけたところで元の主題に戻る238〜239にかけてのポーズはほとんど取らず、突如曲想が元に戻る。
 323以降頻繁に登場するVcのポルタメントが色っぽい。
 第2楽章、テンポはほぼ標準的。夜の森に迷い込んだような雰囲気。ヴァイオリン・ソロの線が少し細い。fffのピツィカートももう少し力強さがほしい。
 終了後安井さんが登場するが、ほとんど拍手が起きない。さすがN響定期会員。
 第3楽章、少し速めだが、丁寧にハーモニーを積み上げてゆく。17から加わる2Vも控え目だが美しいし、25から1Vが入って31から最初のクライマックスを迎えるところで、じんわりと幸せな気分に。その幸福感に水を差すように62以降のObソロが入ってくる。
 あまりテンポをいじらずに進むが素っ気ない雰囲気はない。314以降の最後のクライマックスは重厚な響き。
 そのまま第4楽章へ。かなり速いテンポ。安井のソロはレガート重視、13の"himm"の付点のリズムもあまり強調しない。60以降、"Wir fuhren ein geduldig's"などのFisの8分音符も切らずに続ける。終盤142以降の低音もしっかり響かせる。
 弦管ともに終始安定した響きで、そこに加わるスラトキン特有の気品と温かさを備えた音楽づくりがこの曲にはよく合っている。正に天上の音楽。
 カーテンコールではHr全員、木管全員、そしてコンマスを立たせる。

 これで「スラトキン月間」も終わりとは少々寂しいが、今年は5週間後フランス国立リヨン管とともに再来日の予定。楽しみはまだ続く。

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