レナード・スラトキン指揮N響(Cプロ)(2回公演の初日)
○2016年4月22日(金)19:00〜20:55
○NHKホール
○3階C9列34番(3階9列目やや上手寄り)
○バッハ「アリア」
 ベルリオーズ「ベアトリスとベネディクト」序曲
 武満徹「系図(ファミリー・トゥリー)」(語り=山口まゆ、アコーディオン=大田智美)
 ブラームス「交響曲第1番ハ短調」Op.68(約46分、第1楽章提示部繰り返し)
 (16-14-12-10-8、武満のみ14-12-10-8-6、下手より1V-2V-Vc-Va、CbはVcの後方)
 (コンマス=篠崎、第2V=白井、Va=客演?、Vc=藤森、Cb=西山、Fl=神田、Ob=青山、Cl=松本、Fg=宇賀神、Hr=福川、Tp=菊本、Tb=客演?、Timp=久保)


武満の再発見

 スラトキン指揮のN響定期、2プログラム目。9割程度の入り。

 予定のプログラムに先立ち、熊本地方を中心とする地震で亡くなられた方々を追悼し、被災された方々への御見舞の意味を込めて、バッハのアリアが演奏される。

 ベルリオーズの「ベアトリスとベネディクト」はシェークスピアの「から騒ぎ」を元にした歌劇。冒頭の弦から木管へとフレーズを受け渡す場面が若干乱れる。オペラ本編のドタバタを連想させる明るく賑やかな曲想が続き、後半はベルリオーズ特有の金管のダイナミックな動きが楽しい。

 武満の「系図」は「若い人たちのための音楽詩」との副題が付いている。1995年、すなわち死の前年にニューヨーク・フィルにより初演。R.シュトラウスを思わせる甘美なハーモニーで始まり、オケをバックに谷川俊太郎の詩集「はだか」からの詩が10代半ばの少女によって順次語られる。少女自身と思われる野性的に生きる子供が語る「むかしむかし」、ゆっくり動く「おじいちゃん」、人生の終わりを迎える「おばあちゃん」、家族に無関心そうだが気になる「おとうさん」、キッチンドランカーで家出してしまった「おかあさん」、そして少女自身の自立願望を想起させる「とおく」。詩と詩の合間には親しみやすく懐かしさを感じさせるテーマが木管や弦で提示される。
 山口の低めで抑制の利いた声が素晴らしい。詩に込められた思いがじんわりと伝わってくる。そこに重なる大田のアコーディオンの響きも、かつて当たり前にあった家族のほのぼのとした人間関係を思い出させてくれる。
 我が国でも武満の作品が演奏されないわけではないが、生前に比べて少し脇に置かれているような気がしてならなかった。それだけに、「まだまだこんな魅力的な作品があるよ」と教えられたように思う。終演後スラトキンに話を聞いたら、彼にとって武満は極めて重要なレパートリーであり、まだ演奏したい作品が数曲あるそうだ。

 後半はブラ1。2年前の11月の定期を彼は振る予定だったが、病気のためキャンセルとなった。代わりに登場したネヴィル・マリナーが、当初のプログラムを変更して取り上げたのがこの曲だった。何か因縁を感じさせる。
 第1楽章冒頭からCbの方を向いて振り始める。ティンパニよりもCbの刻みを重視。序奏のテンポはやや速めだったが、主部に入るとさらに速くなる。59小節以降の低弦のフレーズをしっかり聴かせてから63以降のVとVaの同じ音型のフレーズへつなぐ。121以降のVc→1Vへのつなぎも同様。169以降のVa以下のフレーズも強調。
 展開部後半のクライマックスの始まりとなる293以降のCFgもたっぷり響かせる。
 コーダ直前の472で一旦音量を落としてからクレッシェンド。
 第2楽章、テンポはほぼ標準的。17以降のObソロ、同じフレーズが2回続くが2回目はより小さく聴かせる。そして21以降のクレッシェンドを朗々と響かせる。51以降、73以降も低弦を厚めに響かせる。90以降は艶やかな「まろ」の音色に聴き惚れる。
 第3楽章、テンポはほぼ標準的。ほのぼのとした雰囲気に主部に対し、中間部はより華やかになるのが通常だが、ほのぼのした感じが維持され、103〜104の1Vの高音のフレーズもぎらつかせず柔らかく響かせる。
 最後の音を少し長めに延ばす。アタッカにせず間を取る。
 第4楽章、冒頭の低弦とCFgをたっぷり響かせる。少し遅めのテンポ。6〜12のピツィカートの連続ではほとんどテンポを上げない。16〜19のピツィカートも最初のテンポを保つが、19に入ったくらいで急激に速める。20のCFgもよく響かせる。
 第1主題が始まる直前の61ではHrとTbの和音が鳴り終わった後に間を置く。
 1Vが弾く第1主題はためらいがち。77以降これを受け継ぐ木管は少しテンポを上げる。全奏で主題を提示する93以降でようやく堂々たる響きとなる。以降は息付く暇なくぐんぐん進む。
 257で少し落ち着いてVよりVa以下を強調し、再び緊迫感を強めながら285のクライマックスまで一気に。289以降や300、374以降もCFgと低弦がよく聴こえてくる。
 コーダも速いテンポのまま進み、407以降のコラールでもインテンポのまま。434などのティンパニが残るところで思い切りクレッシェンドを爆発させる。最後の音は短め。

 Va以下の中低弦を強調させる場面が目立ったが、和音の土台を支えるだけでなく、Vと中低弦を対等に扱い、あるときは対立させ、あるときは中低弦にリードをさせ、最後は一体的に響かせる。ドイツ風の重厚さとは一味違う、闘争から和解への希望を感じさせる演奏。

 カーテンコールでは、Hr、Cl、Obの首席、そしてまろを立たせる。この日も団員たちから2回祝福される。

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