ゼクステット魅生瑞(みゅうず)第24回定期演奏会
○2015年9月24日(金)19:00〜21:10
○ルーテル市ヶ谷センター
○K列13番(11列目上手側)
○ヴェルナー、シューベルト/富田和子「野ばら」
 ブラームス/山本靖子「眠りの精〜子守歌」、ブラームス、タレガ/青木美咲「アルハンブラームスのワルツ」、ブラームス/阪本正彦「第3交響曲のアンダンテ」
 《6人の奏者、5分間リサイタル》
 J.シュミット「All of Me;私のすべて」(P=大滝良江)
 グノー「6つのメロディ」より第5番「アンダンテ」(Hr=阪本正彦)
 ダウランド/大滝雄久「涙のパヴァーヌ」(Fg=大滝雄久)
 カユザック「カンティレーヌ」(Cl=山本靖子)
 ヴェルディ「運命の力」より「神よ平和を与えたまえ」(Ob=富田和子)
 ロジャース「サウンド・オブ・ミュージック」より「私のお気に入り」(Fl=青木美咲)

 ベートーヴェン/大滝雄久「11のバガテル」Op119より第5番
 同/同「大セレナード」;七重奏曲Op20&三重奏曲Op38
+菅野よう子「花は咲く」

○P=大滝良江、Fl=青木美咲、Ob=富田和子、Cl=山本靖子、Hr=阪本正彦、Fg=大滝雄久


ベートーヴェンも思わず見直す新編曲 

 ピアノと管楽器5人の六重奏でどんな曲でも演奏してしまうスーパー・アンサンブル、魅生瑞の定期演奏会が2年ぶりに開かれる。7割程度の入り。

 まずは「わらべはみたり」で親しまれている「野ばら」。ヴェルナーの曲が2番まで演奏されると、今度はシューベルトの曲に変わる。こちらも2番まで行って、ヴェルナーに戻る。ヴェルナーのテンポが遅いのが不満だが、シューベルトのテンポと対比させたかったのかもしれない。
続いてブラームスの子守歌。これも途中で同じブラームスの歌曲「眠りの精」が挿入され、また元に戻る。精霊の力を借りてパワーアップ?した子守歌という感じ。
 次は、これまた有名なブラームスの第15番のワルツ。と思っていたら途中でしだいにけだるい雰囲気になり、何とタレガの「アルハンブラの思い出」に変身。これも再びワルツに戻るのだが、「どこでもドア」でハンブルクからアルハンブラへ行って帰ってきたような気分。プログラムをよく見ると「アルハンブラームスのワルツ」とある。油断も隙もあったものではない(笑)。
 親しみ深い名曲を、ひとひねりもふたひねりもした編曲が、何とも楽しい。
 ブラームス・シリーズの最後は交響曲第3番の第2楽章。元々管楽器のパートで書かれているメロディを生かしながら、オリジナルにない響きも加える。元々室内楽的に書かれている楽章なので、ピアノと管楽六重奏という編成がよく似合う。ただし終盤、オリジナルでは弦が「ドーーーシミラーーーソド#」と歌わせるところは、ピアノソロでなくどれか管楽器を重ねてほしかった。

 前半の後半は毎度おなじみ5分間リサイタル。トップバッターはピアノの大滝良江さん。ユーチューブの動画で人気を博するピアノ・ガイズのメンバー、ジョン・シュミットの曲。終盤肘でピアノを叩くなど、ジャズ風の快活な曲。ホルンの阪本さんは、グノーの素朴で愛らしい小品。ファゴットの大滝雄久さんは、シェイクスピア、徳川家康と同時代の作曲家ダウランドが、当時の流行歌を基に作った曲。ファゴットの奏でるメロディがなぜかリュートのように聴こえるから不思議。
 クラリネットの山本さんは、20世紀前半を中心に活躍したフランスの作曲家、カユザックの作品。ピアノの大滝さんが表現されたとおり、メリーゴーランドに乗っているようなウキウキする音楽。オーボエの富田さんはヴェルディのアリアの前半部分を演奏。「オペラ歌手かオーボエ奏者になりたかった」という、メンバーも知らない秘密が明かされる。並のオペラ歌手では適わない、雄弁な歌いぶり。この調子で後半も演奏したら大熱演になったかも。フルートの青木さんが前回に続き最後。事前発表の曲から「私のお気に入り」に変更。友人に教えてもらったアレンジが気に入って、自分でもやってみたくなったとのこと。そうだ、演奏会へ行こう!
 最後まで聴いて気付く。今回は管楽器奏者の曲が全てピアノ伴奏付だったので、大滝良江さんは先に自分の曲をやってしまいたかったのかも。お疲れ様でした!

 後半は、ベートーヴェンのバガテルに続き、初期の代表作、七重奏曲をピアノ六重奏に編曲。
 これまでオーケストラ作品、ピアノ・ソロや声楽作品の編曲は多かったが、元々室内楽、しかも魅生瑞より1人だけ多い7人編成の曲を6人用にアレンジするというのは珍しい。オリジナル編成と楽器が重なるのはクラリネット、ホルン、ファゴット。残る弦の4人(ヴァイオリン、ヴィオラ、チェロ、コントラバス)をピアノの右手、左手、フルート、オーボエに割り当てれば済む話ではない(当たり前や)。
 実はこの曲にはピアノ三重奏版があり、ピアノパートはこれを活用したとのこと。
 オリジナルの七重奏曲は平易なメロディが次々と出てくる一方で、オーケストラ風の重厚な響きも随所に登場する。次の作品番号は交響曲第1番だから、正に交響曲への助走と見ることもできる。ただ、メロディの大半はヴァイオリンが受け持ち、やや目立ち過ぎるようにも思っていた。
 今回の編曲では、第2楽章冒頭のクラリネットや第5楽章冒頭のホルンのように、原曲で目立つ管楽器のパートは活かしつつ、それ以外の楽器にも聴かせどころを設けてある。そして、ピアノが入ることで全体の響きが多彩かつ華やかになった。
 前半の5分間リサイタルで感じたのだが、管楽器の音の芯が以前より太くなってきている。5人の響きががっちり絡み合い、そのアンサンブルをピアノが支えたり、さらに絡んだりすることで、音楽がどんどん豊かに発展してゆく。
 当初曲の出来に満足していたベートーヴェンは、世間がいつまで経ってもこの曲ばかり評価するのでうんざりしていたそうだ。この編曲を聴けば「やはりこの曲も傑作だ!」と再評価するに違いない。

 アンコールは「花は咲く」。前奏と後奏で青木さんがピッコロに持ち替え。枯木ばかりの山々を見て寂しげに鳥が鳴くと、少しずつ色とりどりの花があちこちで咲き始め、やがて山は花で埋め尽くされる。これを見て、鳥も喜ぶ。そんな風景が目に浮かぶ。被災地の方々の前でぜひ演奏してほしい。

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