ユンディ・リ ピアノ・リサイタル
○2014年11月10日(月)19:00〜21:10
○サントリーホール
○2階C7列25番(2階中央7列目ほぼ中央)
○ショパン「アンダンテ・スピアナートと華麗な大ポロネーズ」Op13、ベートーヴェン「ピアノ・ソナタ第23番ヘ短調」Op57(熱情)(約23分)
 シューマン「幻想曲ハ長調」Op19、リスト「巡礼の年第2年補遺 ヴェネツィアとナポリ」より「タランテラ」
+任光「彩雲」、ショパン「夜想曲第2番変ホ長調」Op9の2、ベートーヴェン「ピアノ・ソナタ第8番ハ短調」Op13(悲愴)より第2楽章、青海民謡「遥か遠くのそのまた彼方」

シューマンで新境地

  2000年にショパン国際コンクールで15年ぶりの1位を獲得して以来、繊細な演奏と甘いマスクで日本でも大人気のユンディ・リ。ほぼ満席の入りだが、女性や親子だけでなく、意外と私のような男性客も目立つ。全くの偶然だが、2年半ぶりの日中首脳会談が行われた夜のリサイタルとなったのも何かの縁か。

 当初発表のプログラムから、曲順を変更して演奏。
 まずショパン。「アンダンテ・スピアナート」では、25小節目で転調するメロディを丁寧に歌わせる。静かと言うより、まだ十分ピアノが温まっていない感じの響き。67以降少しせわしない。ポロネーズが始まる最初のGの連打でわずかなミス。徐々に響きが豊かになっていく感じで最後に全開、という音楽作りだが、楽器がまだ鳴り切らない。可憐だが華麗ではない。

 舞台袖に下がらず続けてベートーヴェンへ。第1楽章、手を膝に置いた状態から無造作とも言えるくらい唐突に引き始める。17や19で上昇する部分、最初からffでなく小さめに始めて<をかける。他の箇所でもしばしばそのような弾き方が見られ、彼の個性と言うか癖なのかもしれない。53〜54などの左手の上昇音階も響きが軽めで、追い込まれるような感じがない。78でホ短調に転調する場面もあまり曲想の変化が伝わってこない。終盤、238のpiu allegroあたりからようやく力強い響きに。
 第2楽章、1音ずつ丁寧に弾いてはいるが、メロディの線としてつながらない。33以降スラーが付いているところから流れるようになる。
 第3楽章、36以降の主題部、右手の伴奏の方が大きくて左手の主題が消されがち。176以降のアルペジオの連続、通常であれば最初の2回それぞれの後にある1小節の休符で時が止まるような感じになるのだが、止まらないまま第3楽章冒頭に戻るまで流れてゆく。308のprestoに入ってから2段階くらいテンポを上げるが、324以降は右手のメロディより左手の伴奏の方が大きい。
 終始美音が保たれているところが魅力でもあり、物足りないところでもある。

 後半はまずシューマン、拍手が鳴りやまぬうちに座って弾き始める。第1楽章、波のような左手の伴奏に右手のオクターブが、突如空に現れた天馬のように鳴り響く。ピアノの鳴りが格段に良くなり、表現の幅も広がる。小さなエピソードが次々と登場し、テンポや調性の変化で各エピソードを印象付け、最後は元のハ長調に落ち着いていく。
 第2楽章、変ホ長調の明るい行進曲が、漂っていた雲を吹き払う。変イ長調中間部は、正に幻想的で美しい。
 第3楽章、一転して静かな雰囲気に。34〜35の変イ長調のフレーズがヘ長調、変イ長調を経て最終的にハ長調に落ち着くまで、ゆっくりと興奮を鎮めてゆく。
 今の彼の演奏スタイルにはシューマンがよく合っている。

 リストでは、自由奔放な弾きぶり。早くもアンコールを聴いているような気分。

 アンコールでは中国の2曲が心に残る。技巧を凝らしたアレンジが大陸の広大さを感じさせる一方、元のメロディが有する素朴さ、親しみやすさも保たれていた。
 花束嬢が殺到するかと思ったが、1名だけだった。

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