広上淳一指揮京都市交響楽団
○2014年3月16日(日)14:00〜16:30
○サントリーホール
○1階8列13番(1階8列目下手側)
○ラフマニノフ「ピアノ協奏曲第2番ハ短調」Op18(約35分)
(10-10-8-6-4)+メトネル「カンツォーナ・セレナータ」(P=ルガンスキー)
マーラー「交響曲第1番ニ長調」(巨人)(約56分、繰り返し全て実施)+R.シュトラウス「カプリッチョ」より「月光の音楽」
(16-14-12-10-8)

京都から春来る

 京都市交響楽団が5年ぶりに東京公演。駅のポスターには「今日、京響?」などとベタなコピーが。ただ、2008年から常任を務める広上がこのオケをどう変えてきたかを見るには格好の演奏会。ほぼ満席の入り。

 客席に入るとラフマニノフにしては弦の編成が小さいことに気付く。まるでモーツァルトの協奏曲をやる時のような小規模である。
 ルガンスキーは黒のカッターシャツ、黒ズボン姿。第1楽章冒頭の鐘のカデンツァを始めは小さく柔らかく、だんだん大きく頑健な響きに。これだけで鳥肌が立ってくる。テンポはやや遅め。席のせいもあるが、オケが加わってもピアノの一音一音がくっきり聴こえてくる。それでいて横の流れはレガートを保っている。その大きな流れの上に、テンポを揺らしたり、練習番号8の17小節目以降(ドーバー版による、以下同じ)の右手の高音の連打などをバランスよく飾り付けたりする。そして9以降徐々に盛り上がるところでは強さと豊かさを兼ね備えた和音で惜しみなく繰り出して突進。再び第2主題でたっぷり盛り上げた後、12以降少しずつ潮が引いていくように静めていくところも実にフレージングの息が長い。思わずホロリと来る。13以降のHrソロはあまり遅くしない。
 第2楽章、ほぼ標準的テンポなので第1楽章に比べると少し速めに聴こえる。18以降のピアノが奏でる主題も淡々と弾いているのに表情豊か。21の9以降細かい音符が続くところも丁寧かつ確実に響かせ、25のカデンツァまで息を抜かない。トリルも鋭いが決してアンサンブルの枠から飛び出さない。27以降のVは引き締まった響き。
 第3楽章、やや遅め。短調の第1主題は力強く、長調の第2主題は変ロ長調の1回目はあっさりに、変ニ長調の2回目は少し抑揚を大きくし、そしてハ長調の3回目で喜びを爆発させる。最後はオケともども畳み掛けていくが、決して音楽の枠は崩れない。
 豪快さと繊細さを併せ持つ、正にロシア正統派の名演。厳選メンバーの弦がアンサンブルを引き締め、管は遠慮なく鳴らすので迫力も十分。

 「巨人」第1楽章、ほぼ標準的なテンポ。冒頭の弦はかなりはっきりした出だし。レンガを1個1個積み上げていくような音楽造り。163以降の弦の音程がやや不安定。312以降頻繁に登場するVの<>を律儀なくらいに丁寧に弾かせる。そして352以降のクライマックスへ。切れの良い爽快な爆発。
 第2楽章、広上は一転して身体をくねらせながら弦を踊らせようとする。弦は第1楽章同様きっちり決めながら弾いていくが、もう一息遊びがほしい。
 第3楽章、Cbソロは骨太の音でよく歌っている。ト長調に転じる83以降の弦も美しい。これに対して管が主導する39以降、139以降はあまり退廃的な雰囲気にならない。
 第4楽章、一転してかなり遅いテンポに。速いフレーズも1音ずつ確かめていくかのように弾かせる。冒頭の嵐が収まりかける149以降でさらに遅くなり、2小節ずつのp>fffの繰り返しをしつこく念を押すかのように弾かせる。ようやく収まると166以降は丁寧に、息長く歌わせる。嵐に戻る直前の352の<fffの後をきっちり切ってから次へ。ハ長調からニ長調へ強引に転調する374〜375にかけても、過去に決別して未来に向かうような雰囲気。656以降Hr全員に加えTpも1人立つ。
 弦はどんなフレーズでも出だしの音をはっきりさせ、最後の音符を伸ばし切るまで弾かせるスタイルが徹底されている。管楽器も充実した響きで、特に金管は敢闘賞もの。

 広上の指揮ぶりは昔から個性的だったが、この日も両腕を広げて小柄の身体を大きく見せ、指揮台の上を所狭しと動き、目立たせたいパートにはオーバーなくらいの指示を出す。相当幅の広い表現を要求しながら、決して雑な響きにならないよう細心の注意を払っている。
 ところで、体型と言い指揮ぶりと言い声や話しぶりと言い、だんだん山田一雄に似てきているように感じるのは私だけだろうか?

 この日ようやく暖かくなった東京で、厳しい冬から一気に春爛漫が訪れるかのような演奏に出会い、満足。

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