ゼクステット魅生瑞(みゅうず)第23回定期演奏会
○2013年11月8日(金)19:00〜21:15
○ルーテル市ヶ谷センター
○F列17番(6列目上手端)
○R.ヴォーン・ウィリアムズ/山本靖子「イギリス民謡組曲」より「日曜日には17才」
 F.ブリッジ/阪本正彦「ミニチュア集」より「メヌエット」「ガヴォット」「ロマンス」「サルタレッロ」「ロシアのワルツ」「軍隊行進曲」
 《6人の奏者、5分間リサイタル》
 G.バルボト 4つの小品「四季」より「夏」(Hr=阪本正彦)
 長野民謡/大滝雄久「小諸馬子唄」(Fg=大滝雄久)
 プーランク「即興曲第7番」(P=大滝良江)
 ドビュッシー/S.ジョリス、H.ルカテッリ「アラベスク第2番」(Ob=富田和子)
 レーガー「アルバムの一葉」(Cl=山本靖子)
 ビュッセル「プレリュードとスケルツォ」Op35(Fl=青木美咲)

 グルック/青木美咲「オルフェウスとエルリディケ」より「精霊の踊り」
 モーツァルト/大滝雄久「協奏交響曲変ホ長調」K.297b

○P=大滝良江、Fl=青木美咲、Ob=富田和子、Cl=山本靖子、Hr=阪本正彦、Fg=大滝雄久


モーツァルトが夢見た協奏交響曲 

 魅生瑞の演奏を聴きに行くのは約4年ぶり。8割程度の入り。
 最初の曲は吹奏楽の定番「イギリス民謡組曲」からの1曲。いつぞやのN響ほっとコンサートでも演奏していたはず。親しみやすいメロディでまずは聴衆の緊張をほぐす。
 そしていつものように曲目紹介。編曲した阪本さんによると、フランク・ブリッジはイギリスの作曲家で唯一とった弟子がベンジャミン・ブリテンなのだそうだ。「ミニチュア集」は9曲から成り、元々の編成はピアノとVとVcのトリオ。作風としては調性破壊直前まで行ったと言われるそうだが、「メヌエット」「ガヴォット」にはいかにもイギリスらしい素朴で美しいメロディが出てくる。「ロマンス」は憂鬱な雰囲気で始まり、だんだん盛り上がっていき、頂点に達したところでパタッと音楽が止まる。このあたりがブリッジらしいところか。一転して「サルタレッロ」は細かいフレーズが繰り返される情熱的な舞曲。「ロシアのワルツ」はチャイコフスキー風。最後の「軍隊行進曲」はおもちゃの兵隊の行進をイメージしたようで、勇ましさよりもむしろほのぼのとした雰囲気。オリジナルでは全員ユニゾンで始まる「メヌエット」をピアノだけで始めて後から5人が加わるようにするなど、編曲も凝っている。しかも、弦2人より管5人の方が響きに厚みが出るし、色彩感もより豊かに。ブリッジ自身がこの編曲を聴いたら意外と気に入りそう。
 魅生瑞名物、5分間リサイタルでは、奇しくも女性奏者4人の話題は視力のことだった。みなさんの名誉のためこれ以上は深入りしないでおこう。演奏順をどう決めたかについては、青木さんが遅刻したため最後になった以外は不明。大滝雄久さんの小諸馬子唄ではピアノで鈴や鶯を表現する編曲が面白かったし、山本さんの演奏したレーガーの曲は心洗われる、しかしそれでもちょっぴりメロディラインが複雑かなあなどと、短い中でいろんな感情が湧いてきた。それにしても、大滝良江さんの選ぶプーランクはいつもいい曲だなあ。

 後半最初の曲はFl奏者の定番、グルックの「精霊の踊り」。青木さんがFlを習い始めた頃に買った練習曲集の一番最初に載っていた曲だそうだ。そう聞くだけで、聴衆がみんなそのときの彼女の気持ちを想像しながら演奏に耳を傾けるから不思議。

 さて、本日のメインはモーツァルトの管楽器のための協奏交響曲。これには大滝雄久さんのこだわりが込められている。当初Fl,Ob,Fg,Hrのために書くはずだったのが、初演の時にはFlがClに差し替わっていた。その原因を定説で言われる「モーツァルトはFlが大嫌いだったから」ではなく、当時の父との手紙のやり取りから読み解いて、マンハイムで知り合ったヴェントリスというFl奏者と喧嘩したからではないか、との新説を披露。そこで、この夜はFlもソロとして加わるだけでなく、Pもオケパートに終わるのでなく、全体を一つの室内楽として編曲したとのこと。
 Ob他オリジナルのソロ奏者4人がソロパートの一部をFlのために提供し、Pが担うオケパートの一部も分担する。そうするとどうなるかと言うと、全員ほとんど休みなく吹き続け、引き続けるということになる。これはめちゃくちゃ大変なことだが、他の管楽器に絡むFlのソロはとても幸福な響きがするし、他の4人にもオリジナルの聞かせどころのソロは残っているし、ピアノも管楽器5人とより緊密にやり取りしている。聴いているうちにピアニストがモーツァルトでFl奏者がヴェントリスに見えてきて、モーツァルトは本当はこんな曲を書きたかったのではないかと勝手な妄想がどんどん膨らんでゆく。是非CD化してほしいなあ。

 今回は盛りだくさんだったので、会場の都合で残念ながらアンコールは次回回しに。でも今夜はこれでいいではないか。モーツァルトとヴェントリスが和解したのだから。

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