にっかん飛切落語会第338夜
○2012年2月9日(木)18:30〜21:15
○イイノホール
○M列25番(13列目上手側)
○「つる」(林家木りん)
 「時そば」(瀧川鯉橋)
 「だくだく」(三遊亭兼好)
 「薮入り」(三遊亭円楽)
 「松曳き」(桃月庵白酒)
 「妻の旅行」(桂三枝)

二人の六代目に挟まれた三代目が存在感発揮

 12月に続いて「にっかん飛切落語会」が開かれるイイノホールへ。少しは落語ファンに知られてきたのかもしれないが、それでも8割程度の入り。

 前回中入り後の懸賞抽選を務めた木りんが開口一番で登場。師匠に教えられたとおりにやるのかと思ったら、つるの名前の由来が覚えられず先生に聞き直すところで「つーーと飛んできて」まで聞いて飛び出す。今度こそきちんと教えてやろうとするが、先生に止まるところの音を再確認しないで出てきたので「る、と止まった」と言ってしまう。もう一度やり直して「つーー、ここまでは合ってんだけどな」、でもまた失敗。自分なりに伏線を張ったということか。少なくとも師匠の知恵ではなさそう。ただ、文の切れ目で声が低くなって聞き取りにくくなる癖を直す必要がある。

 鯉橋は二ツ目だが、5月に真打昇進予定とあって、さすがに前座とは格の違いを見せ付ける。実家のラーメン屋の話を枕にして、後半のまずい蕎麦屋の末裔と結び付けて落ちにする。まずさの表現だが、客に壁際へ立たせて、汁をすするとあまりのまずさに倒れそうになるのを壁に手を付いてこらえる、という設定。また、真似をする客が早めに出かけると紹介して、勘定の場面の伏線を張る。蕎麦をすする時のロングブレスが見事。

 兼好は好楽の二番弟子。2008年9月に真打昇進。軽めで品のある声。淀みない語り口だが、右の耳から左の耳へ抜けてしまい、終わってからなぜかあまり印象に残らず。

 円楽は「笑点」では飽きるほど観ているのに、生で落語を聴くのは初めて。枕で手の長い木りんの置いた茶碗が座布団から遠いのをくさし、お約束の笑点ネタを披露した後、さりげなく自分の襲名の正当性を主張。野太い声の父親、少し色気を感じさせる声の母親、そして若い頃を思わせる甲高い声の子ども、見事に使い分ける。しかも、一つ一つの言葉がしっかり腹に残る感じ。私の中に残っていた楽太郎のイメージが一掃される。

 中入り後今日一番のお目当て、白酒登場。自分でも枕で言っていたが、六代目ともうすぐ六代目で上方落語協会会長という2人の巨匠クラスに挟まれて、先代から間の空いた三代目が演じるのはかなりのプレッシャーだろう。しかし、そんな形式張ったことなど飛ばす勢いで、体型も語り口も堂々たるもの。植木屋の「奉り」連発はおかしかったし、屋敷内を走り回る家老が今どこにいるのかときどきわからなくなるほどの展開の速さ。

 取りの三枝は見台を使わない。後ろの席が空いているのを残念がる。東京の寿司屋の気風のいい「いらっしゃい!」に対し、関西の寿司屋は「いらっしゃ〜い!」になるかと思ったが不発。口うるさい女房に翻弄され続ける定年退職の男の愚痴を延々と。終盤でマンションの呼び鈴を効果音で使用。これぞ、いつの間にか聞かれなくなった「ペーソス」の最高級品。文枝襲名後も新作落語をかけ続けようという覚悟が伝わってくる。

 次回は柳亭市馬、立川談春の二人会で、談志を語る座談会付。今度は早めにチケットを押さえないと。

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