第168回NTT東日本N響コンサート
○2012年1月23日(月)19:00〜20:55
○東京オペラシティコンサートホール
○3階R2列18番(3階上手サイド2列目指揮台のほぼ真上)
○ブラームス「ハイドンの主題による変奏曲」Op56a(繰り返し全て実施)、モーツァルト「フルート協奏曲第1番ト長調」K.313(Fl=高木綾子)、ベートーヴェン「交響曲第7番イ長調」Op92(約35分、第3楽章主部及びトリオの各1回目繰り返し実施、第4楽章提示部繰り返さず)
+バッハ「管弦楽組曲第3番」より「アリア」
レナード・スラトキン指揮N響
(14-12-10-8-6、モーツァルトのみ8-8-6-4-2、下手から1V-2V-Vc-Va、CbはVcの後方)(コンマス=堀、2V=山口、Va=飛澤、Vc=木越、Cb=佐川、Fl=神田、Ob=茂木、Cl=松本、Hr=日高、Tp=栃本、ティンパニ=植松)

こだわりの名曲を親しみやすく

 NTT東日本がスポンサーとなるN響のコンサートは、電電公社が民営化された1985年4月に第1回が行われている。会場はNHKホールで大友直人が指揮し、ピアノの中村紘子とヴァイオリンの漆原朝子がソリストで共演するという豪華なものだった。その後全国各地で開かれている。9割程度の入り。
 この日のスラトキンの選曲も面白い。ブラームスの新古典主義をまず聴かせてから古典の名曲へ続けるようにも見えるし、主題を書いたハイドンに着目すれば古典派の3大作曲家でまとめたようにも見える。

 スラトキンは黒の上下、黒シャツに臙脂のネクタイ姿。
 「ハイドンの主題による変奏曲」、譜面台にスコアは置いてあるが開かない。ほぼ標準的テンポ。主題の15〜18小節のピアニシモと19以降のフォルティシモffの差をはっきり付ける。第1変奏、通常ならVの上昇音型を聴かせるところだが、あえて抑えてVa以下の下降音型を聴かせる。するとそれと同じフレーズをVが続けて弾いていくことがわかる。第2変奏はあまり爆発的に鳴らさず、フォルテの範囲で演奏。第5変奏終盤のVcのフレーズをしっかり聴かせる。終曲ではパッサカリアの主題をそれとなく耳に印象付けながら着実にクライマックスを築いていく。

 モーツァルト、スラトキンは棒を持たず、スコアを見ながら指揮。高木さんは肩を出した紺のドレスで登場。低音が時折不明瞭になることはあるが、高音の伸びが実に美しい。節回しも軽やかで、あっという間に終わる。それにしても、フルート協奏曲ってどうしてこうもはかなく聴こえるのだろう?

 ベト7第1楽章、最初の音を太めにずっしり響かせる。テンポはほぼ標準的。主部に入って88のフェルマータの後切らずにVとVaは上昇音階を続ける。展開部の189以降の2VとVaのメロディをしっかり聴かせることで、低弦→1Vと続いた同じメロディを受け継いで次のObにバトンタッチしているのがよくわかる。
 第2楽章、短調部分のテンポはほぼ標準的だが、あまり暗い雰囲気ではない。イ長調に転じる101以降かなり速くなる。213のティンパニのクレッシェンドが強烈。
 第3楽章、主部はほぼ標準的テンポ。軽快に進める。トリオはやや速めに始めるが、205からrit.をかけてTpが加わる207以降は遅めに。ただ、重くはならない。
 第4楽章、ほぼ標準的テンポ。これまで以上に低弦がしっかり支える。展開部の129〜132や136〜145ではVとVa以下ががっぷり四つの対決。325〜326のティンパニのフォルティシモも強烈。終盤は低弦がオケ全体をリードしながら、インテンポのまま響きの密度を上げて盛り上げる。最後はティンパニの一撃で決める。
 全体的に無理のない解釈を取りつつも、14型とややコンパクトな編成で弦の響きを凝縮させた上で管楽器を生き生きと歌わせ、時折打楽器を暴れさせる。見事な手綱さばき。

 スラトキンは「どうもありがとう」と日本語で挨拶の後、少しcalm(穏やか)な曲をお届けしましょう、と紹介してから「G線上のアリア」を演奏。それ以上の説明はなかったが、彼なりの鎮魂の意味合いを込めたのかもしれない。

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