にっかん飛切落語会第337夜
○2011年12月9日(金)18:30〜21:10
○イイノホール
○F列18番(6列目ほぼ中央)
○「新聞記事」(三遊亭小曲)
 「棒鱈」(古今亭菊之丞)
 「提灯屋」(三遊亭小遊三)
 「佐々木政談」(柳家三三)
 「らくだ」(桂文珍)

伝説の落語会が新ホールで復活

 東京霞ヶ関のイイノホールは、落語ファンには欠かせないホールである。古くは1960年代に「イイノ精選落語会」が開かれていたほか、1974年からは日刊スポーツ新聞社主催で「にっかん飛切落語会」が開かれ、数々の名人が出演するとともに、その中の選りすぐりの名演がCD化されている。2008年からは明治記念館と浜離宮朝日ホールで「新にっかん飛切落語会」として続いていたが、イイノビル建て替えとともにホールもリニューアル・オープンしたのを機会に、改めて元祖?の「飛切落語会」が復活することになった。
 と言いつつ、私自身旧イイノホールには学生時代に一度くらいしか入ったことがない。しかも確かコンサートだったはずだから、このホールで落語を聴くのは初めてである。
 それにしても、新しいホールに足を踏み入れるというのは、いいものである。ひとりでに気分が高ぶってくる。500席のプロセニアム型、落語会にはちょうどいい大きさである。音響も残響を抑え目にしてあるようだ。
 
 小遊三の弟子で大曲出身の小曲が「開口一番」として登場。
 菊之丞は、イイノホールにまつわる思い出など長めの枕の後に「棒鱈」。品のある声で芸者の話し方など心地よい。その一方で薩摩弁はムチャムチャ訛っているのにがさつな感じにならないのが不思議。
 小遊三は「新しくて暖かい」などと言って客の眠気を誘ってから「提灯屋」。学はないが悪知恵は回る若い男たちがたくさん登場。彼にぴったりのネタ。

 中入り後緞帳前に林家木久扇の八番弟子で元大関清国を父に持つ林家木りんが登場し、プレゼントの抽選。
 柳家三三は広瀬和生「落語評論はなぜ役に立たないのか」の中で評価が急上昇した落語家で、今日一番のお目当て。確かに語り口はなめらかだし、声の高さもちょうど聴きやすいのだが、この日の「佐々木政談」は手堅く進めて冒険がほとんどなかった。ただ次の演者を意識したのか、上方落語では「佐々木裁き」とも呼ばれるネタを持ってくるあたりが、彼なりの矜持なのだろうか。それにしても膝の柔軟な人だ。
 取りは今回唯一の上方落語の文珍。枕なしでいきなり「らくだ」を始める。やはり安心して聴ける。「かんかんのう」の踊りっぷりや屑屋と熊五郎の攻守が逆転する場面の切り替え方には亡き枝雀の影響を強く感じさせる一方で、年寄りの大家や漬物屋の語り口は間違いなく文珍独特の巧さを感じさせる。三三の挑発?を真正面から受けて立ち、横綱相撲で客を大いに沸かせる。

 しかし、この日何と言っても楽しかったのは、演者同士で他者のネタや話題を持ち出し合っては、いじったりくさしたりしながら場を盛り上げていったこと。この相乗効果こそテレビでは味わえない落語会の醍醐味である。

 ホール最後方にテレビ・カメラが置かれた影響があったのかもしれないが、7割程度の入り。ホール側に一言注文したいのは、イベント情報を積極的に広報宣伝してほしいこと。ロビーには今後のイベントに関するチラシなどはほとんどないし、イイノビルのウェブサイトにも情報は掲載されていない。せっかく伝説の落語会が復活したのに、知らずに行き損なった人も多かったのではないか。私も日刊スポーツのサイトでたまたま見つけなかったら、来れなかったかも知れない。
 次回はコンサートで来てみたいが、日頃からよほど気を付けてないと聴き逃しそうで心配である。

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