井上喜惟指揮ジャパン・グスタフ・マーラー・オーケストラ
○2010年6月13日(日) 14:00〜15:55
○ミューザ川崎シンフォニーホール
○3階C5列34番(3階5列目ほぼ中央)
○マーラー「交響曲第7番ホ短調」(夜の歌)(約96分)
(14-12-11-10-7)

どこまでも粘るマーラー

 ジャパン・グスタフ・マーラー・オーケストラ(JMO)は指揮者井上喜惟を中心に2001年結成され、マーラーの交響曲をほぼ毎年1曲のペースで演奏している。第8回に当たる今回は、井上さんの師匠でもあるガリー・ベルティーニの没後5周年によせて、大曲の7番を取り上げる。

 第1楽章、やや遅め。2小節目から始まるテナー・チューバのソロをかなり大きな音で吹かせる。Hrの第1主題が始まる50以降もあまり速くならない。最初の行進曲が収まる118以降のVを丁寧に歌わせる。その後は各パートが提示する符点のリズムと2分音符の音型(ターンタターー)をさり気なく浮き立たせながら、喧騒と静寂の間を行き来する。終盤に弦が何度も高く跳躍して歌うところはR.シュトラウスを思わせるし、行進曲風の音楽に小太鼓の刻みが加わるところなどは明らかにショスタコーヴィチを予感させる。最後は546で十分エネルギーをためてから一気に火の玉を落とす。
 ここでマンドリン、ギターを含め念入りにチューニング。
 第2楽章、Hrのソロを合図に起き出したお化けたちがゆっくり行進を始めるが、あまりおどろおどろしい感じではなく、楽しそうな雰囲気。28〜29の素早い下降音型はさほど強調しない。お化けたちはいつもの表情で墓場を行進し、どこへともなく消えていく。人間たちが勝手に怖がっているだけなのだ。
 第3楽章、様々な楽器が拍を刻み、1Vの主題が断片から完全な形へ移行していく。確かに「ワルキューレ」冒頭の嵐の音楽を連想させるが、空中にさまよう人玉がだんだん集まってきて大きなお化けが現れるようなスリルも感じさせる。テンポは遅めだが、主部からトリオ(あるいはその逆)への曲想の変化は素早い。
 ここでもう一度チューニング。
 第4楽章、月明かりに照らされた小川のせせらぎのように音楽が流れてゆく。ギターやマンドリンをことさらに強調させず、全体の流れに溶け込ませている。奏者たちが順繰りに室内楽を弾いているような感じで、オケの演奏会に来ていることを一瞬忘れさせる。
 第5楽章、かなり遅いテンポ。指揮者によれば、この曲のシンメトリー構造を演奏時間についても徹底させるためということらしい。静かな部分ではかなり音量を落として、室内楽的な響きを聴かせる。終盤盛り上がる所では舞台両端と3階両サイドに計4人の奏者がカウベルを景気よく鳴らす。589のクレッシェンドを十二分に利かせてから最後の一撃。

 師匠譲りの遅いテンポと粘るリズム。しかし、それは井上さんが同じく師事したバーンスタインほどの強引さはない。各パートの響きがしっかり揃えられているので、大植のような重苦しさや停滞感もない。遅いけれど着実に前に進んでいる。細かいミスは多々あれど、音楽の芯が通っているので気にならない。
 第2楽章などで大太鼓の胴をバチで叩いたり、第5楽章終盤のグロッケンゲロイテは大きさの異なる3枚の金属板を叩いたり、視覚的にも大いに楽しむ。

 惜しむらくは客の入り。半分も入ってなかったかも。来年の9番が今から楽しみ。

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