エコルマ・アンサンブル コンサート vol.2
○2010年1月30日(土) 17:00〜19:05
○狛江エコルマホール
○R列19番(最後列から3列目ほぼ中央)
○ブラームス「ピアノ五重奏曲へ短調」Op34(約39分、第1楽章提示部繰り返し省略)
 ショパン「ポロネーズ第6番変イ長調」Op53(英雄)
 同「ピアノ協奏曲第1番ホ短調」Op.11(Bartromiej Kominek編曲によるピアノ六重奏版)(約39分)
+同/斎藤ネコ「幻想即興曲嬰ハ短調」Op66
○P=松本和将、V=小森谷巧、島田玲奈、Va=須田祥子、Vc=藤森亮一、Cb=市川雅典


わが街のホールで贅沢な室内楽

 現在僕が住む狛江市には駅前ビルに700席ほどの多目的ホールがある。回数こそさほど多くないが、内外の著名演奏家のコンサートもときどきあって、都心よりは格安の値段で聴くことができる。この「エコルマホール」を運営する狛江市文化振興事業団が、昨年から狛江市在住のピアニスト、松本和将さんを中心にしたメンバーによる「エコルマ・アンサンブル」のコンサートを開始。今回はその2回目。読響コンマスの小森谷さん、東フィル首席ヴィオラの須田さん、そしてN響首席チェロの藤森さんなど、豪華なメンバーが揃ったので急遽駆けつけることにする。ただ客の入りは半分弱と少々寂しい。

 ブラームスのピアノ五重奏第1楽章、やや速めのテンポ。4小節目のフェルマータの後fでピアノが走り出してもさらっとした響きでこちらまであまり音が届いてこない。弦は8〜9のfzが付いている音とそうでない音の区別をはっきりつける。11以降の全奏でも弦の響きがしっかりしていてピアノは陰に隠れている。27以降Vaがメロディを担当する場面がしばしば出てくるが、いずれも存在感たっぷりに歌っていて心地よい。展開部に入って96以降細い光が天に昇っていくように歌う1Vに対し、101〜104などのVcは、ピアノ線のように細くて張りのある音で支える。その後高まる情熱が収まる159で2VとVaが冒頭主題をくっきり浮き立たせる。終盤の283以降もピアノのパンチが弱く、弦の分厚い響きばかりが耳に残る。
 第2楽章、ほぼ標準的テンポ。冒頭のピアノのメロディに1VとVaがオクターヴのユニゾンで応えるのだが、両者のバランスが見事で聴き惚れる。34以降の2VとVa、それに続くVaソロも伸び伸びと歌う。冒頭主題を弦全員が奏でる95以降の響きも充実。
 第3楽章、やや速めのテンポ。全パートユニゾンで走る22以降、3連符のスタッカートより全体のレガートを重視。より細かい音符で刻む57以降もメロディの流れはスムーズ。67以降Vaから始まるフガートでは着実に緊張が高まるが、その後再び細かい音符が続く100以降ではやはりピアノの音が前に出てこない。125以降Vがレガートで上昇していくのに対し、VaとVcがスタッカートをしっかり付ける。このコントラストこそ室内楽の醍醐味。158以降も弦はだんだん響きが研ぎ澄まされてくるが、ピアノだけは音に鋭さがなく、取り残された感じ。熱を冷ますような穏やかなトリオの後、主部に戻って気分よく聴いていたら、150に入った所で1Vが154後半に跳んでしまい、157までのフレーズをもう一度繰り返す。聴いておかしい感じはなかったが、他の奏者がとっさによく合わせられたものだ。
 第4楽章、Vcが針の穴を通すような音で上昇音型を奏で始める。42以降の主題も落ち着いたテンポで歌う。80以降弦は緊張を高めて走り出すがやはりピアノの存在感が薄い。その後も4人の弦が全体を引っ張ってゆく。395で急激なクレッシェンドをかけてびっくりさせる。
 黒潮のように滔々と流れる弦の響きは終始聴き応えがあった。特にVaの須田さんがパートソロでしばしば存在感を示しただけでなく、V2人とVcの間を見事につないでいた。ピアノはその波間から時折跳ねるトビウオのような感じ。

 後半は生誕200年のショパンの作品を並べる。「英雄ポロネーズ」ではピアノの前の椅子を片付けてピアノを少し前に出したせいか、前半よりはよく鳴るようになった。ただ、速めのテンポで冒頭の和音を鳴らしきらないうちに次のフレーズに進むので、Maestoso(堂々とした)にしては軽い感じ。17以降の第1主題はfだが抑え目。30の1拍目の8分音符を鳴らすや否や間を入れずに次の細かい上昇音階を弾き切る。49以降はまずまずしっかり鳴らすが、57以降のfでまたかなり音量を落とす。73以降ときどきトリルが空回りしているような気がする。ホ長調に転じる81以降もかなり速いテンポで飛ばしていく。98以降など頂点に向かう所は2回とも迫力はあるが響きにややばらつきがある。変イ長調に戻る119以降は少しテンポが落ち着いて流れがスムーズに。終盤で盛り上げる171以降はさらにテンポを上げて突進するが、最後は少しテンポを落として終わる。

 再び弦楽奏者用の椅子を準備する間に松本さんのおしゃべり。途中から以前狛江に住んでいた島田さんも加わり、ケーキ屋「セジュール」などローカルな話題で会場をなごませる。
 ショパンのピアノ協奏曲第1番第1楽章、弦が5人に増えたとは言え、管楽器のパートも受け持つのでピアノ・ソロの部分以外は休みなく弾かねばならない。序奏も省略せずに演奏。Cbが加わってさらに響きに厚みが増す。ピアノが入る139〜140の和音は軽めだが、その後の流れは快適。ピアノの位置は前半と同じ場所に戻っているが、前半よりはるかに音が届くようになった。第2主題途中の230以降に絡むVaが美しい(ここはオケ版だとHrの担当)。
 第2楽章では弦は弱音器付だが響きの安定感は変わらない。その上をピアノが心地よさそうに自在に歌ってゆく。43〜44などのクレッシェンドは和音が積み上がっていく感じがあまりしない。また50〜51などの「ラーンタラリ」の音型が続く所もやや淡白。
 第3楽章、速めのテンポ。ここでも長い音階やフレーズはスムーズに流れるのだが、アクセントの鋭さや和音の厚みが今一つないので、やや変化に乏しい感じがする。ただ、ピアノ自体が全体的によく鳴るようになったのと、弦のパートがブラームスよりはるかに単純なフレーズが多いせいか、ピアノと弦とのバランスはよくなった。明るく軽めの音色もショパンには合っている。

 アンコールはやはり狛江市在住の作曲家斎藤ネコさんの編曲による「幻想即興曲」のピアノ六重奏版。主部の右手の主題を弦5人にユニゾンで弾かせて前衛音楽っぽい響きになったかと思うと、中間部では弦の各パートに交代で主題を受け持たせるなど心憎い配慮も。
 とにかくわが街で手頃なチケット代で一流演奏家による室内楽を聴ける。土曜の17時開演というのも、終演後ちょうど夕食の時間になって都合がよい。いろんな意味で贅沢なひととき。