ネルロ・サンティ指揮N響(2回公演の初回)
○2009年11月25日(水) 19:00〜21:00
○サントリーホール
○2階P3列29番(2階舞台後方2列目最前列中央やや上手寄り)
○ベートーヴェン「フィデリオ」序曲
 同「交響曲第4番変ロ長調」Op.60(約33分、第1,4楽章提示部、第3楽章主部1回目繰り返し実施)
 同「同第6番ヘ長調」Op.68(田園)(約43分、第1楽章提示部、第3楽章主部繰り返し実施)
 (14-12-10-8-7、下手から1V-Vc-Va-2V、CbはVcの後方)
 
(首席奏者:コンマス=堀、第2V=山口、Va=店村、Vc=木越、Cb=吉田、Fl=不明(女性)、Ob=茂木、Cl=横川、Fg=不明(男性)、Hr=松崎、Tp=関山、Tb=栗田、ティンパニ=久保)

じんわりと心に響く「田園」

 サンティはおととし11月にもN響定期に登場し、サントリーではオール・ベートーヴェン・プロを組んだ。その時は「レオノーレ」序曲第1番、交響曲第8,7番を取り上げた。あの時残念ながら行けなかったので、ようやくリベンジ達成である。9割弱の入り。

 サンティはいつも暗譜で振るはずだが、この日は指揮台の上にミニチュア・スコアが置かれている。たださすがに「フィデリオ」序曲は暗譜で振る。冒頭の総奏に続くHrソロの部分でかなりテンポを落とす。終盤はあおらず最初のテンポを保つ。1曲目でまだ弦が鳴り切っていないようで、席のせいもあるが管楽器の音が目立つ。

 袖に下がって出てくると早くもベト4を振らんと構える。慌てて降り番の奏者たちが退場。そんな調子で第1楽章の序奏を始めるので、しばらくハーモニーが落ち着かない感じ。36小節以降などで頻繁に出てくるティンパニのF(ヘ音記号の一番下)がややぼやける。
 サンティは最初暗譜で振っていたが、展開部に入ったところで急にスコアを開き始めた。そこでまた演奏がざわつくが、221以降の1Vを歌わせるあたりからようやく落ち着く。第1主題に戻る直前の312以降しつこく繰り返される弦の16分音符のフレーズがやや重い。終盤の461以降、がたつかない代わりに今ひとつ盛り上がらない。
 第2楽章、少し速め。26〜27で低弦→Va→2V→1Vと受け継がれる上昇音型を丁寧に歌わせる。64のHrがやや乱れる。
 第3楽章、ほとんど間を置かず始めるので冒頭のアンサンブルがまた少し乱れる。その後もなかなか流れがスムーズに行かず、35以降主題に戻るまで停滞気味に。トリオに入ってもテンポを変えない。最後から2小節目、393のHrの4分音符2つをはっきり聴かせる。
 第4楽章、やはり間を置かず、棒を指揮台にちょんと当てて振り始める。速めのテンポで進むが、66〜69などのsfの連続はかなり重く響かせる。終盤344の全休止をかなり長めに取り、347〜350の休符もスコア通りフェルマータをかける。アンサンブルが全体的にどこかぎくしゃくしたまま終わってしまう。
 木管の首席、Hr2人に続いてTpとティンパニも立たせる。関山さんは「オレたちまでいいのに…」といった表情で戸惑いつつ立ち上がる。

 後半、サンティが登場すると早くも「ブラヴォー」の声。これに気をよくしたのかどうかわからんが、「田園」が始まると見違えるように弦の響きが揃っている。冒頭4小節だけで1楽章終わったように感じるくらい演奏がまとまっている。冷え込む秋の夜、家に帰り囲炉裏の火に当たってホッと一息ついた感じ。66などで少し遅くしてから次へ進む。展開部に入る139以降の木管を厚めに響かせる。275以降の1Vの>も夕日のように美しい。終盤の448以降もテンポを上げることなく、じんわりと響きを充実させることで盛り上げる。
 第2楽章冒頭の弦もよくまとまっている。静謐な雰囲気が広がる。47〜48など木管が歌い終わった後に続くVaとVcのフレーズが、それぞれの歌い手をねぎらうかのように優しく響く。
 第3楽章、91以降のOb→Cl→Hrのソロもそれぞれ安定した歌いぶりで、聴き応え十分。165以降はややテンポを落とし、重心を低めに置いて響かせる。
 第4楽章、盛り上がるが爆発的な感じはなく、各パートがアンサンブルの枠の中にきっちり収まっている。
 第5楽章、9以降1Vが村の娘たちのように優しく歌うと、32以降VaとVcが男たちのように勇ましく応える。最後の音は短く切る。
 サンティは終始スコアを見ながらの指揮だったが、音楽の流れに淀みがなく、各パートが緊密に絡み合う。久しぶりにアンサンブルの醍醐味を堪能。
 カーテンコールでは管だけでなく弦もパートごとに立たせてねぎらう。再度出てきて2Vの山口さんから順に最前列の奏者たちと握手。握手しながら堀さんがしきりにCbにも合図するよう促すが、サンティは袖に下がる途中で吉田さんなどと握手。その時既に他の団員は引き上げ始めていた。名演の後では、そんな舞台上のやり取りもほほえましい。