アンドレ・プレヴィン指揮N響(2回公演の初回)
○2009年10月28日(水) 19:00〜20:55
○サントリーホール
○2階P2列16番(2階舞台後方最前列中央やや上手寄り)
○モーツァルト「交響曲第38番ニ長調」K.504(プラハ)(約28分、第1,3楽章提示部繰り返し実施)
 同「同第39番変ホ長調」K.543(約28分、第1,4楽章提示部、第3楽章主部1回目繰り返し実施)
 同「同第40番ト短調」K.550(約27分、第1楽章提示部、第3楽章主部1回目及びトリオ、第4楽章提示部繰り返し実施)
 (10-10-6-4-2、下手から1V-2V-Vc-Va、CbはVcの後方)
 
(首席奏者:コンマス=堀、Va=店村、Vc=藤森、Cb=西山、Fl=神田、Ob=茂木、Cl=横川、Hr=日高、Tp=津堅、ティンパニ=植松)

晩秋の庭に並べられた盆栽のようなモーツァルト

 今シーズンからN響の首席客演指揮者に就任したプレヴィンがモーツァルトの後期の交響曲3曲に挑む。昨シーズンには「リンツ」を演奏しているが、3つまとめてとなると彼の演奏スタイルがより鮮明に現れてくるに違いない。ほぼ満席。

 プレヴィンはゆっくりだがまずまずしっかりした足取りで登場。ただし座って指揮。
 「プラハ」第1楽章、序奏は恐る恐る音を出している感じで、指揮者もオケも互いに手探り状態。主部(37小節以降)に入るとだんだん音楽が流れるようになる。55以降のVはfだが圧倒する感じではない。なぜか66〜68で一旦音量を落とし、69でfに戻るが、70〜71でディミニエンドし、次の場面につなげる。114のVは1拍目で切って次のフレーズへ。129と282で全体的にクレッシェンド。
 第2楽章、速めのテンポ。8などに頻繁に出てくる8分音符4つのフレーズ、後の3つにはスタッカートが付いているが、最初の音には付いていない。その最初の音をテヌート気味に弾かせる。35のFg、Hrと低弦、スコアにはsfpと書かれているがあまり大きくしない。72以降fとpが交互に出てくる部分も音量の変化はさほど大きくない。途中で少し眠くなる。
 第3楽章、やや遅め。47以降スコア上はfだがmfくらいで、はじけるような雰囲気はない。82〜84などのVa以下の下降音型を丁寧に響かせる。106以降のpとfの対比もさほど強調しない。138以降の1Vもmfくらい。展開部に入る152以降や再現部の228以降なども、ジャーンと力づくで鳴らす感じは全くない。最後もインテンポのままさらりと終わる。

 39番第1楽章、一転して重量感のある充実した響きで始まる。10以降のFlソロはスコアどおりpで吹かせるのであまり目立たない。提示部に入っても悠揚迫らぬ足取りで進み、54でfになったと思ったらVが55〜56の下降音型でディミニエンドをかける。2回目はやらなかったので、ひょっとしたら「プラハ」の感覚が残っていたのかも。展開部でも流れを重視し、172などの2度音型の繰り返しもさらっと通り過ぎる。再現部の267で珍しく指揮者がVに向かってもっとヴィブラートを効かせるよう指示。「先月(ホグウッド指揮)のことは忘れろ!」と言わんばかり。
 第2楽章、速めのテンポ。短調に変わる30以降も淡々と進み、それほど深刻な雰囲気にならない。ただし、96以降は低弦が各小節の頭の音を強めに響かせるので、より緊迫した感じになる。そのため終盤の144以降もより落ち着いた流れに。
 第3楽章、スタッカートはあまり効かせない。トリオは終始mpくらいでClソロもやや抑えた歌いぶり。
 第4楽章、fになる8以降は豊かな響きの流れを作り、22〜23では珍しく水しぶきのようにHrを目立たせる。しかし、76,77でVは小節の頭にアクセントを付けない。最後はやはりインテンポ。

 40番の木管はFl,Ob,Fg。第1楽章、pと言うよりppに近いくらいの音量で始める。弦楽四重奏を聴いているような気分。有名な冒頭のメロディは、3回目のEs−D−Dで少しクレッシェンドをかけてD−Bにかけてディミニエンド。その小さな強弱の山を左手を横に動かすだけでオケに表現させる。16以降もmfくらい。34以降の低弦などのsfもほとんどかけない。展開部114以降のVaと低弦は軽めの音だがしっかり刻んでゆく。152以降もさほど激しくしない。第1主題が帰ってくる164は木管の響きの中からいつの間にかVの主題が浮き上がってくるような感じ。211以降の響きが凝縮されていて聴き応え十分。終盤の281以降はあまり切迫感を出さない。
 第2楽章、速めのテンポ。16以降頻繁に出てくる32分音符2つのフレーズは落ち着いていて、せわしない感じがない。その一方20などのfとpの対比はあまり付けず、気を付けないとメロディがどんどん頭の中を過ぎ去ってしまう。
 第3楽章、出だしのVのDがやや乱れる。16のVの高いEsなどを指揮者は左手を上げて目立たせるが、アクセントは付けない。34〜35の弦のスタッカートも控え目。トリオの26以降Hr2本のフレーズがバランスよく響く。
 第4楽章、ここでもpとfの差はあまり大きくない。提示部の途中でもVの音程がやや揃わない場面があった。85以降のObソロ、Clに比べると明るく幸福な雰囲気になる。展開部125以降のスタッカートも控え目。やはり最後はインテンポで終わる。

 プレヴィンの奏でるモーツァルトは晩秋の夕日の中で眺める盆栽のようだ。こじんまりしているが、よく見ると枝によって葉の刈り込み方を変えたり、枝の方向を無理なく曲げたりして見栄えのよい形を整えている。決してあざといことや強引なことはせず、ちょっとした工夫で音楽の流れに彩りを添えている。N響も彼の指示によく応えていたと思う。
 来シーズンは後期交響曲で残った「ハフナー」「ジュピター」が聴けるのを期待したい。