クリスティアン・ツィメルマン(P)+パーヴォ・ヤルヴィ指揮シンシナティ響
○2009年10月27日(火) 19:00〜21:25
○東京文化会館
○4階L3列9番(4階下手サイド3列目下手端近く)
○(バーンスタイン「ディヴェルティメント」)
 ガーシュイン「ラプソディ・イン・ブルー」(約17分)

 ラフマニノフ「交響曲第2番ホ短調」Op27(約56分、第1楽章提示部繰り返しなし)(16-12-11-9-8、下手から1V−2V-Va−Vc、CbはVcの後方)
+シベリウス「悲しいワルツ」、ブラームス「ハンガリー舞曲第6番ニ長調」

肥満アメリカ人に筋トレをさせてコルテオをやらせる

 シンシナティ交響楽団は1895年設立、アメリカでは5番目に設立されたオケではあるが、これまで日本での知名度はほとんどなかったと言ってよい。むしろエリック・カンゼルが指揮していた頃のポップス・オーケストラの方が知られていただろう。それが2003年にパーヴォ・ヤルヴィが音楽監督に就任して来日公演を行って以来、急速に評価が高まっているようだ。どれどれ、どんなもんやろ?9割以上の入り。

 1曲目バーンスタイン「ディヴェルティメント」は聴けませんでした。

 あのクラシックの中でも極端にレパートリーを厳選するツィメルマンが、まさかガーシュインを弾くとは。やや細めの音のClが長い上昇音階を吹いていくうちにこちらの気分も高まってくる。やや遅めのテンポ。ツィメルマンは最初のカデンツァでは途中までしっかり弾いていたが、終盤にかけて急にテンポを上げて盛り上げ、オケに受け渡す。2つ目のカデンツァでは、ピアノがメロディを弾く間はBClの合いの手を強調、その後Obソロの場面ではピアノが細やかに伴奏をこなす。その後のソロでも強弱のメリハリをはっきり付けているが、徐々に熱気を沈めてホ長調の中間部へつないでゆく。このあたりの語り口は、彼らしい計算し尽くされたもの。
 中間部ではオケもピアノもゆったりと歌う。その後左手がCisを連打する上下を右手がまたぎながら弾く所では1音もおろそかにせず輪郭をはっきり鳴らす。オケが加わってからも変わらない。速いフレーズでは十分勢いを付けて弾くが、終盤のソロなどでは、チャイコフスキーの協奏曲のように和音をしっかり響かせる。クラシックの様式を頑なに守る部分とかなり自由に弾く部分がバランスよく混ざっていて、なかなか面白い。ツィメルマンならではのガーシュインという感じ。
 カーテンコールでスコアを渡してサインをねだる不届き者約2名。

 ラフ2第1楽章、冒頭から丁寧に弾かせ、各パートの響きをだんだんただ大きくするだけでなく、エネルギーをためるように響きを充実させてゆく。序奏で早くも大きな音楽の山を築き上げる。それがひと段落すると、練習番号3(カルムスのスコアによる、以下同じ)から11小節目のV,Vaのトレモロを鋭く弾かせて主部につなげるが、Vaだけはその後もトレモロの伴奏を続け、脈を打つように音楽全体を引っ張る。その後も12ではVaがClとともに長い上昇+下降音階を奏でながら全体を盛り上げてゆく。それがひと段落し、冒頭の木管の和音が金管で再現されると、14の4小節手前からVaが再び脈を打ち始める。さらに一山越えると17の1小節手前からまたもVaのトレモロが現れ、第1主題の再現につなげる。このように、アメリカのオケではなかなか目立たないVaにオケ全体をリードさせている。最後の低弦は短めに切り上げる。
 第2楽章、今度はVに鋭くマルカートさせて音楽を勢いよく進める。これに対し、3小節目以降のHrの主題は音量的に控え目であるだけでなく、フレージングもやや平坦。29の8小節前からは一転して弦がたっぷり歌う。しかし、冒頭主題に戻る30手前2小節のアッチェルランドは強烈。トリオで再びVに鋭く刻ませる。35の4小節手前からVaがそれを受け継ぎ、主部へ戻る長いクレッシェンドのきっかけとなる。
 第3楽章、先に出たVaに覆いかぶさるように1Vが甘い歌を歌い始める。6小節目以降のClソロは終始控え目に吹かせる。49の4小節前から始まる息の長い盛り上がりも響きの密度が濃く、聴き応え十分。その後も極端なアクセントやトレモロは影を潜め、音楽の流れに安心して身を任せる。
 アタッカで第4楽章。弦の鋭いアクセントが復活し、5小節目以降のHrのメロディも勢いはあるが、音量的なバランスを失わない。しかし、59に入ってからの弱音器付きのHrは目立たせる。63の15小節目から始まるニ長調の第2主題ではまたも一転して弦にたっぷり歌わせる。その部分が終わる70の10小節前からは再びガラッと雰囲気を変える。第2主題がホ長調で再現される87に入っても、6〜7小節目などに加わるTpはあまり目立たせない。音楽的には終盤に向けて盛り上げてゆくのだが、決して金管の力に頼らず、アンサンブル全体の緊張を高めることで頂点へ。最後も生き生きしているが、音量的に圧倒されるわけではなく、むしろ軽い感じがしたほど。
 
 アンコール2曲もヤルヴィ節をオケが忠実に演奏している感じ。パワーに頼りがちなアメリカのオケを見事にアンサンブルとメリハリ重視のスタイルに変えている。ヤルヴィの信念と指導力の賜物だろう。今後のさらなる活躍に注目したい。