ピエール・ロラン・エマール(P)+ジョナサン・ノット指揮バンベルク響
○2009年10月20日(火) 19:00〜21:20
○サントリーホール
○2階RA5列12番(2階舞台上手サイド5列目ほぼ中央)
○ブラームス「大学祝典序曲」Op80
 同「交響曲第3番ヘ長調」Op90(約39分、第1楽章提示部繰り返し実施)
(以上16-14-12-10-8)
 同「ピアノ協奏曲第1番ニ短調」Op15(約50分)(14-12-10-8-6、下手から1V−Va−Vc−2V、CbはVcの後方)

もう「バンベルク」にブランド力はないのか?

 ヨッフムやシュタインなどドイツの名指揮者たちとたびたび来日し、日本にもファンの多いバンベルク響が、作曲家としても注目されているイギリスの気鋭の指揮者、ジョナサン・ノットに率いられて来日。ブラームスの交響曲チクルスが今回のプログラムの中心だが、最終日のこの日は、バッハからメシアンまで幅広いレパートリーに冴えた演奏を聴かせるフランスのピアニスト、ピエール・ロラン・エマールが加わる。実に面白い組合せとなった。客席には世界文化賞を受賞したブレンデルの姿も。

 最初の「大学祝典序曲」なんて、特にいじるような所もないだろうと高をくくっていたら、後半のハ短調で盛り上がる部分をかなり激しく鳴らしたり、その後のHrの弱音をきつめに吹かせたり、終盤「ガウデアームス」のメロディが出てきて盛り上げる部分を意外とあっさり処理したり、なかなか一筋縄では行かない。

 3番第1楽章、冒頭の和音は軽めに鳴らし、Vが下降音型を繰り返した後7小節目からいよいよ昇っていくぞ、と思った途端8のB−E−Dのフレーズでガクンと音量を落とす。確かにその前に>があるのだが、聴いている方は肩透かしを食らったような気分。そうかと思うと、30で2本のObがEとDでぶつかる不協和音を強調。38〜39のClのメロディもスコアのpp以上に落として消え入りそうなくらい。右手で8分の6をきっちり刻みながら左手で表情を付けるので、指揮ぶりはかなりせわしない感じ。
 第2楽章、速めのテンポ。24に2Vが加わるまでは木管とVa以下の弦だけ、すなわちステージ中央に座っている奏者たちだけで演奏される。この楽章の室内楽的雰囲気が視覚的にも明らかになる。
 第3楽章、Vcが奏でる悲歌を1Vが受け継ぐが表現は抑え目。中間部、73〜75の低弦はしっかり響かせる。110以降のObソロ、高音が弱く他の楽器に消されがち。終盤156〜159の山でようやく大きな感情の高まりを感じる。
 第4楽章、ほぼ標準的テンポで淡々と進むが、中盤で盛り上がる169〜170にかけてなぜか低弦を強調。嵐が収まりヘ長調に解決する271以降少しテンポを上げる。最後の和音も短めに切る。

 エマールはいつもの顔を出した黒子のような、黒の長袖シャツ、黒ズボン姿。ピアノ協奏曲第1番第1楽章、ティンパニが最初の2音をスローモーションのようにゆっくり叩いてからトレモロへ。序奏はかなり遅いテンポ、弦がだんだん焦れてきたのか、76でフライング気味に入ってくるのでややアンサンブルが乱れる。ピアノが入ると少し速めに。91〜95までピアノに応えるTpの短い音もきっちり聴かせる。157以降のカデンツァは淡々と始めるが、171以降右手の上の音でつなげていくメロディが実になめらか。3本目の手が弾いているみたい。199以降3番HrのC−G−Cの音型はノン・レガートなのに、434以降1番HrのA−E−Aの音型はレガート。1V1プルトのソロがオクターブの音型を繰り返す箇所では208のピアノは右手のF−Dis−E→E−Cis−Dと続く音型を浮き立たせる。255以降はVaの「タタタタータ」の音型をそれとなく耳に残してゆく。その後徐々に盛り上がっていくが、301〜302あたりの弦はまだ抑え目でその後一気に頂点へ。その直後の311以降のピアノの和音、重量感こそ少ないが密度の濃い響き。
 第2楽章、やや速めのテンポだがオケもピアノも丁寧に、一音一音確認するように響かせてゆく。特に27〜28などの弦の響きは美しい。最初の主題に戻る58でClが大きいのかObが弱いのか、木管の和音のバランスがやや乱れる。演奏が終わった後のわずかな間にブラヴォーマン約1名。
 第3楽章、4の右手のメロディに応える左手のA−G−Eのフレーズが鋭い。速めのテンポで隙を見せない弾きぶり。119〜122のHrとTpの上昇音型も見事。カデンツァ直前の375の和音はほとんどフェルマータをかけず、カデンツァ最後のA−G−Eの後も間髪を入れずHrのニ長調の分散和音を吹かせる。最後のカデンツァ後半、510以降のアッチェルランドも緊迫感十分。最後の和音は短め。
 エマールは弾きながら鼻をすするような音がしばしば聞こえてくる。ひょっとして風邪?そのせいかどうかわからないが、第1楽章はエマールらしくないミスがしばしばあって少々不安に。しかし、第2楽章で最初の主題が戻ってくる71以降俄然キレが戻ってきた。第3楽章ではたたみかけるようなメロディや感情が爆発するような和音を鮮やかに弾ききる。
 ノットはスコアの中に隠れた意外なフレーズや不協和音を強調して音楽全体のスパイスにしようとしているが、まだ曲全体に徹底し切れていない感じ。

 それにしても客の入りが悪いのには驚いた。半分埋まっていたかどうか。気鋭の指揮者とピアニストを揃えても魅力がないのか?それとも「バンベルク響」のブランドはもう通用しないのか?オケ自体は過去の栄光に頼らず新しい響きを求めようとしているのに、それが日本のクラシック・ファンの多くに届かないのだとしたら、主催者は今後のコンサートのあり方を再検討すべきではなかろうか?