ミラノ・スカラ座「アイーダ」(4回公演の2回目)
○2009年9月6日(日) 15:00〜19:00
○NHKホール
○3階L16列27番(3階正面17列目下手寄り)
○アイーダ=ヴィオレッタ・ウルマーナ、ラダメス=ヨハン・ボータ、アムネリス=エカテリーナ・グバノヴァ、アモナズロ=フアン・ポンス、ランフィス=ジョルジョ・ジュゼッピーニ、エジプト国王=マルコ・スポッティ他
○ダニエル・バレンボイム指揮ミラノ・スカラ座管(14-12-10-8-6)、同合唱団、同バレエ団、東京バレエ学校
○ゼッフィレッリ演出

ワーグナーの混ざったヴェルディ

 早いものでミラノ・スカラ座の来日公演も4日に行われた「アイーダ」で通算100回になるそうだ。新しい芸術監督、バレンボイムとのコンビによる初公演、ゼッフィレッリの「決定版」と言われる演出など、何かと話題豊富、もちろん新シーズン最初にして最大の呼び物である。ほぼ満席の入り。

 序奏の間字幕に登場人物の紹介が映し出される。ムーティ時代には途中から確か字幕禁止になったと思うが、今回はめでたく復活ということか。
 第1幕第1場、舞台を前後に分ける階段が数段、その上は神殿の壁で中央に入口。幕が開くとそこからアムネリスがチラチラ姿を見せる。ランフィスがそこから中へ入るとアムネリスも付いて行く。ゼッフィレッリお得意の「アムネリスがランフィスにラダメスを指名するよう仕組んだ」との考えによる動きである。ラダメスが「清きアイーダ」を歌い終わる頃にアムネリスは現れ、徐々に階段を下りて彼に近付く。「戦の勝利の他に望みはないの?」ときかれ一度はアムネリスから離れるラダメス、思い直して彼女に近付き両手を取って額に当てた瞬間、上手奥の柱の影からアイーダが現れる。ラダメスはアムネリスの手を離してわざわざ彼女の前を通って下手端へ。
 合唱「勝って帰れ」が始まって間もなく舞台前面に並んでいた兵士たちが両端へ移動するが、タイミングがずれる。
 同第2場、壁が取り払われ階段がさらに奥へ続き中央に祭壇。その前に並ぶ僧侶たちの動きも左右対称になっていない場面があった。ランフィスは祭壇の上手側、ラダメスは下手から登場し、祭壇の下手側まで昇ってゆく。甲冑を着けて降りてきたラダメスに巫女が剣を授けると祭壇の扉が開いて御神体?が宙に浮くように前に出てくる。

 休憩なしで第2幕。第1場は舞台手前、衝立に囲まれた空間。アムネリス「私の顔をとくとご覧」で跪くアイーダのあごに手をやって自分の方へ向かせる。
 第2場、両側をくの字型の階段が挟む見物台の頂上中央に玉座、その両側にさらに階段が伸び、そこにアイーダ・トランペット奏者が並ぶ(僕の席からは見えなかったが3人ずつ計6人だそうだ。ただし、それ以外にも舞台裏で吹いている奏者が数人いるはず。ちなみにDVDでは8×2の16人。)。スカラ座の舞台ではそのさらに上に巨大な神像の頭が吊り下げられているはずだが、もちろん見えず。上手端にランフィス、下手端にアムネリスの席。いずれも階段を昇った高い位置にある。それらの前を行き交う民衆はランフィスやアムネリスが現れると物乞いに集まるが、そのたび兵士たちに追い払われる。「トゥーランドット」を思い出させる動き。行進自体は小規模で、終盤に見物台の中央の扉が開いて中から巫女が登場。上手から歩いて登場したラダメスが剣を巫女に返す。アムネリスが降りてラダメスに冠をかぶせる。彼が手前に戻ろうとするとすぐ横にアイーダが立っていて、二人は一瞬目を合わせ、アムネリスとの間に再び緊張が走る。
 国王にアムネリスと結婚するよう言われたラダメスは一応彼女の手を取る。近付こうとするアイーダをアモナズロが止める。その後ラダメスは手を離してアムネリスから離れる。終盤では国王も見物台中央の扉から出てきて中央に立つ。民衆が王の前に集まるうちに幕。

 第3幕、下手端上方が明るいが僕の席から月は見えない。上手端が神殿の入口。アリア「わが祖国」終盤に下手からアモナズロが現れる。
 軍事機密を漏らしたラダメスは短剣を抜いて自殺しようとするが、アモナズロが取り上げる。ラダメス、アモナズロ、アイーダの三重唱の途中で神殿から兵士が1人現れ、あわてて中へ入るとしばらくしてアムネリスが登場し「裏切り者!」と叫ぶ。今度はアモナズロが短剣を振り上げるが、ラダメスがそれを奪い、逃げるよう歌う。しかし、兵士たちが追ってくるので、ラダメスは短剣を投げ捨てて兵士たちの注意を自分に向ける。その隙にアイーダとアモナズロは逃げる(歩いてだが)。アムネリスはショックで近くの岩に倒れこむ。

 第4幕、第1幕第2場とほぼ同じ。ただし、舞台全体のせりがないので中央に牢が置かれている。第1場、助命を拒否するラダメスは、第1幕第1場と同じようにアムネリスの両手を額に当てて退場。判決が下って舞台前面に出てきたランフィスと僧侶たちはアムネリスの慈悲の願いも聞かず立ち去ろうとするが、彼女が「神を畏れぬ者たちよ」と歌い出すと、立ち止まって彼女の方へ振り返る。しかし、彼女が歌い終わると退場。後奏で上手後方から奴隷たちがラダメスを連れて牢へ入れる。
 第2場、牢の両側から僧侶2人が正面の扉を観音開きにすると、中にラダメスがいる。上手側の壁の奥からアイーダは出てくる。2人はしばらく扉の前まで出てきて歌うが、歌い終わると再び中へ入り、僧侶たちが扉を閉める。アムネリスはその上に跪いて鎮魂の歌を歌う。天井から鳥は出てこない。

 細部でスカラ座プレミエの時の舞台(DVDやBDで入手可能)と異なる部分はあるが、舞台装置や衣裳の豪華さは十分味わえる。
 しかし演出以上に目立ったのはオケ。ムーティ時代の鉄の規律?からバレンボイムはオケの団員を解放し、特にオケだけで演奏する部分では自由にやらせている。そこで主旋律以外のフレーズもどんどん主張してくるし、低弦・管楽器・打楽器もわれ先に目立とうする。それを指揮者はあえて調整しようとしない。だから、しばしばワーグナーのような重厚かつ複雑な響きになる。
 その一方でアリアなど歌が入ると途端におとなしい響きになり、忠実に伴奏に徹するようになる。その両者のコントラストがときどき笑っちゃうくらい何とも面白い。第4幕第1場だけ例に取っても、アムネリスがラダメスを呼んで彼が出てくるまでの間とか、ラダメスが去った後の間奏とかにワーグナー風響きが入ってくる。
 ただ、この日両者の響きがうまく融合した場面が少なくとも1ヶ所だけあった。それは第1幕第1場のアイーダ、ラダメス、アムネリスの三重唱。ここは泣かせてもらった。これぞバレンボイム時代のスカラ座を特徴付ける演奏スタイルと言えるかもしれない。

 ウルマーナはアイーダとしては軽めの声質かもしれないが、高音から低音まで無理のない発声で歌いぶりも丁寧で安定している。ボータは「清きアイーダ」の最後の高いBのディミニエンドで声がかすれるなど前半は不安定だったが、第3幕以降は俄然力強い声に。グバノヴァは当初予定されたディンティーノの代役で頑張っていたが、やはり先の2人に比べると声の存在感が弱い。ポンスは気品の高い声質に円熟味が増し、迫力も十分。ジュゼッピーニとスポッティも手堅く脇を固める。巫女(サエ・キュン・リム)も使者(アントネッロ・チェロン)も彼らに負けじと頑張っていた。バレエも見応え十分。

 11月に教育テレビで放送されるようなので、今から待ち遠しい。

表紙に戻る