「サンデー・イン・ザ・パーク・ウィズ・ジョージ」(42回公演の4回目)
○2009年7月8日(水)19:00〜21:35
○パルコ劇場
○F列27番(9列目上手端から4席目)
○ジョージ=石丸幹二、ドット/マリー=戸田恵子、老婦人/ブレアー・ダニエルズ=諏訪マリー、看護婦/ハリエット・ボーリング=花山佳子、ジュール/ボブ・グリーンバーグ=山路和弘、イヴォンヌ/ネイオミ・アイゼン=春風ひとみ、フランツ/デニス=畠中洋、フリーダ/ベティ=堂ノ脇恭子、ルイ/ビリー・ウェブスター=中西勝之、ボート屋/チャールズ・レイモンド=野仲イサオ、店員1/ウェイトレス=冨平安希子、店員2/イレイン=鈴木蘭々他
○吉住典洋/平田英夫指揮(V,Va,Vc,P,キーボード、管楽器各2、Hp1)
○宮本亜門演出


なぜ猿がいない? 

 「太平洋序曲」以来日本で唯一ソンドハイムのミュージカルに挑戦する宮本亜門が「イントゥー・ザ・ウッズ」「スウィーニー・トッド」に続いて「サンデー・イン・ザ・パーク・ウィズ・ジョージ」を取り上げる。原題をそのままカタカナにするのは能がないという気もするが、かつての邦訳「ジョージの恋人」よりはずっといい。なぜならこのミュージカルのキーワードは「サンデー」だから。9割以上の入り。

 第1幕、緞帳が開くと舞台全体が手前から奥に向かって狭くなる白い床、壁、天井で囲まれ、ホリゾントに白いキャンバス。遠近法の講義でも始まりそうな雰囲気。そのキャンバスを中央やや下手寄りからジョージが眺めている。上手手前から折りたたみ椅子とキャンバスが現れ、ジョージはそこに座る。下手手前にピンク地の衣裳のドットが立つ。両壁とホリゾントに「グランド・ジャット島の日曜日」の背景が映されている。老婦人と看護婦はジョージの指示で取り払われた木の根元に座る。
 ジョージとのやり取りに続くドットのソロの途中でジョージはストップモーションとなり、キャンバスが少し彼から離れ、ドットがそのキャンバスにからみながら歌い、下手手前に戻る。キャンバスも元の位置に戻る。再び動き始めたジョージはドットの後ろに回り、大胆にも彼女の胸を抱く。もちろんこれは彼女の頭の中で展開されていることだが。
 フランツが奥から現れ、一瞬看護婦と会話を交わした後、老婦人に呼ばれて戻る彼女を追いかけ、後ろから胸をまさぐりスカートをたくし上げて背後から突き上げる。下手の壁手前から「アシニェールの水浴」がスライドしてくる。奥からジュールとイヴォンヌ登場。水浴びする労働者たちの画像が動いてもイヴォンヌに水をかける。2人はジョージの絵をからかって上手手前から退場。フランツも呼ばれて退場。
 場面はジョージの家。下手手前に鏡台、上手の壁から透明の板に描きかけの「グランド・ジャット」がスライドして出てくる。ジョージは絵の奥の脚立に昇り、客席側を向きながら描いている。彼が歌う間絵の中では様々な色があちこちで輝く。
 公園の場面に戻る。下手手前端に座るボート屋を近くに座るジョージがスケッチ。ボート屋の犬も同様に下手の壁から出てきた小さいスクリーンに影絵のように映されている。パン屋と付き合い始めたドットは薄緑の服に。上手のベンチに座る。その様子を奥で老婦人と看護婦、店員2人、ジュールとイヴォンヌが遠巻きに眺めている。ジョージにたしなめられたボート屋が中央奥へ去り、なお犬をスケッチするジョージを見て店員たちも笑って退場した後、ジョージはベンチに座って文法の本で勉強しているドットに声をかけるが、シュークリームを作ってきたパン屋にさえぎられる。
 アメリカ人夫妻が通り過ぎた後、店員たちは下手手前で釣り。その様子を中央奥に現れた兵士2人(オリジナルでは無口な方は等身大の絵だが、ここでは人間に演じさせている)が見つけ、近づいてくる。先に声をかけた兵士と積極的に誘惑した店員が一緒に上手へ駆け出し、残った2人も後を追いかける。
 場面は再びジョージの家。ドットが化粧している絵がほしいと彼と言い争う中ジュールとイヴォンヌが現れる。ジョージがジュールに完成した絵を見せている間イヴォンヌとドットは鏡台の周囲でやり取り。
 ドットが去ると公園の場に戻る。上手手前で老婦人を座らせ、スケッチするジョージ。ドットは黒っぽい服で赤ちゃんを抱いている。やがて次々と人が現れ、舞台上でもみ合い、騒ぎ出す。下手手前に立つジョージが彼らを止め、絵の通り舞台上に配置していく。途中でスケッチブックをドットに持たせ、最後に彼女を配置。しかし、なぜか猿と犬が出てこない。緞帳が下りると「グランド・ジャット」が映されている。

 第2幕、第1幕最後の状態から始まり、不平を言いながら徐々に体を動かす。ドットが動物を持たされた不満の一方で一番手前に描いたことに感謝する歌やジョージのソロは省略。人物たちは一度は元の位置に戻るが、やがて少しずつ舞台から退場していく。
 1984年、サウスカロライナの美術館。幕が閉じられ、下手端にTシャツ、ジャケットにジーンズ姿のジョージが現れ、作品紹介を始める。上手から車椅子に乗せられたマリーが登場し、ジョージの話をかき回す。館長は客席の下手手前の扉から登場。幕が開き、第1幕冒頭と同じ何もない舞台に白黒の格子状の模様が映し出されるがすぐにダウン。上手手前から煙を吹いた照明器具?が下ろされ、デニスとジョージが2人で修理。再開されると格子状の模様から様々な色の点が舞台一面に広がる。
 プレゼンが終了するとホリゾントに「グランド・ジャット」、その手前に客たちが三々五々入ってくる。客たちと相手をするジョージ、厄介な客と話して去った後に壁から小さいスクリーンが出てきてそこにジョージの映像が映され、引き続きその客の相手をしている。バックの音楽を作曲したネイオミは酔っ払って荒れている。
 黒のロングドレスのブレアーとジョージとのやり取りの後、客たちはディナー会場へ移動。残ったマリーとブレアーのやり取り。ジョージは下手手前で眺め、イレーンは上手からマリーの所へ行く。ブレアーが去った後、イレーンとジョージは一瞬抱き合うが、彼女は離れて下手へ退場。現れ、マリーとのやり取り。マリーが眠ると下手からイレーンが現れ、彼女を連れ出す。
 と両壁とホリゾントに現代のグランド・ジャット島周辺の風景が映し出され、上手から古びた鉄製のベンチと街灯、そして高層ビルの端っこが出てくる。技師とのやり取りの後1人残ったジョージが下手手前で悩んでいると奥から「グランド・ジャット」の格好をしたドットが現れる。続いて絵の中の人々が次々と現れ、ジョージを励まし、去ってゆく。舞台は真っ白になり、ジョージは最後に第1幕冒頭のポーズを取る。

 石丸は甘いテノールでしっかり歌えているが、なぜか音楽上・舞台上の存在感が薄い。他の人物に気を取られ過ぎたのかもしれないが。戸田はセリフ回し、演技についてはさすがの巧さを見せただけでなく、第1幕冒頭の早口ソングも見事だったし、第2幕後半ジョージとの二重唱でやや疲れを見せた以外は歌唱面の問題はほとんどなかった。ただ、第1幕後半赤ちゃんを抱いてジョージに迫るところでもっと腹から声を出してほしかった。歌の面では各幕の最後を飾る「サンデー」でテノール・パートがやや弱かった以外、俳優たちが歌うミュージカルとしてはほぼ文句の付けようのない出来だと思う。それだけに主役2人の歌う声がもっと目立ってもよかった。
 音楽上の存在感が薄いという意味ではオケにも責任がある。例えば第1幕冒頭、点描の1点を表す和音の響きがゆるい。もっと鋭く響かせないと、スッラの書法の革命性が出てこない。
 しかし、「ゆるい」という意味で最も問題があったのはやはり演出だろう。狭い舞台にスッラの大作を再現させるために苦労したとは思うが、オリジナルに忠実に見せたいのか、より革新的な舞台にしたいのかがよくわからない。第1幕前半でジョージが動物園で猿をスケッチしていた部分のドットのセリフをカットしなかったのに、また「アシニェールの水浴」を映像で見せて動かすなどの手法を取り入れておきながら、第1幕幕切れでドットに猿や犬を持たせないというのは、どうしても不完全燃焼に見えてしまう。

 それにしてもソンドハイムを40回以上公演するという劇場の英断には感謝したい。できればもう1回は観て上記の疑問を解消できればと思う。

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