ファビオ・ルイジ指揮ドレスデン国立歌劇場管(6回公演の最終回)
○2009年5月1日(金) 19:00〜21:00
○サントリーホール
○2階P4列2番(2階ステージ後方3列目ほぼ中央)
○R.シュトラウス「ツァラトゥストラはこう語った」Op30(約32分)(16-14-12-10-7)
 同「アルプス交響曲」Op64(約49分)
(16-14-12-10-8)
 (下手から1V-2V-Vc-Va、CbはVaの後方)

いぶし銀を超合金へ鋳直す 

 ドレスデン国立歌劇場が久々に来日公演を行ったのがおととしの11月。ルイジは歌劇場及び管弦楽団の音楽総監督に就任したばかりだったが、早くも強固なリーダーシップを我々に示してくれた。彼らの来日はそれ以来となる。ゴールデンウィークの谷間の影響か、それとも新型インフルエンザの影響か、7割程度の入り。オルガンはステージ上手奥に遠隔操作用の鍵盤が据えられている。団員たちが登場すると客席から拍手が起こるが、まだ揃わないうちにコンマスを合図に大半の団員が座ってしまい、拍手も止む。おもろい。

 「ツァラ」の冒頭はやや大きめに始まる。テンポは速め。Tpのファンファーレは一つ一つ音を切りながら控え目に吹く。まだまだ大きくならないなあと思っていたら13小節目以降の3回目のファンファーレから一挙に盛り上がる。34以降の「信仰の歌」も抑え目に進むが59〜62にかけて締め上げるようなクレッシェンドになり頂点に達する。そして続く2VとVaのフレーズで少し緩める。「喜びと情熱について」(115〜)では再び速いテンポでぐんぐん進んでゆく。「学問について」(201〜)ではVcとCbがレンガを積み上げるようにもう一度音の建築を創り始める。251以降の木管はスタッカート控え目、レガート重視。「癒されてゆく者」(287〜)では再びオケ全体が猛スピードで走り出し、329以降の全奏では圧倒的な響きに押し潰されそうになる。「舞踏の歌」に入り、428以降のコンマスのソロもレガート重視。その後も緊張感に満ちた音楽が息長く盛り上がってゆき、857以降の頂点に向けてさらにオケを引き締めてゆく。917あたりから徐々に静まるが、946以降の1Vのフレーズで締め直し、954以降少しだけ緩めるので、またホッとする。972以降の木管は最後までそれほど小さくしない。

 「アルプス」もテンポは速い。ここでも「夜」の間は抑えているが「日の出」の直前で加速度的にクレッシェンド。雲間からもれた一筋の光が一気に雲を蹴散らし、燦然たる朝日となる。「登山」の低弦のテーマも土をしっかり踏みしめて堂々たる歩み。深い茂みに遮られようが石ころにつまずこうが構わずどんどん進んでゆく。「滝にて」では幅の広い推量豊富な滝が現れ、水しぶきが容赦なくかかる。花や牧場を眺めるのもそこそこに、道に迷っても頂上へ向かう意思は固い。「氷河にて」ではEs管のClが威勢よく飛び出す。「頂上」でObソロの渋い音色に聴き惚れていると、再び一気に頂上へ駆け上がり、太陽の光を全身に浴びる。続くVとVaの9度と10度の下降跳躍はあまりポルタメントをかけない。「霧が立ち込める」では星空を見るような美しい響きが続く。「嵐の前の静けさ」でObのDesのスタッカートが脳の奥に刻まれる。ポツ、ポツと雨を感じるなあと思っていたら一挙に豪雨がやってくる。ようやく収まった後の「日没」ではVの下降音型をたっぷり歌わせる。「1日の終わり」ではアルプスを征服した達成感に満ちあふれる。Pブロックだとオルガンとオケとのアンサンブルが実に心地よい。最後の和音は大きめ。指揮者がまだ両手を挙げているのにブラヴォーのフライング1名。

 元々このオケの持ち味であるいぶし銀のような音を損なうことなく、むしろさらに磨き上げ、フォルテでは響きを内に向かわせず、外に向かってまぶしいばかりの光線として発射する。盛り上がる場面ほどテンポを上げてオケを締め上げるが、一山越えたところで少し緊張を緩めると豊かで美しい響きに包まれ、聴いているこちらまで何とも言えない安堵感に支配される。
 老舗のオケと真っ向から立ち向かい、その個性を活かしながらさらなる高みに引き上げる。ここまでの芸当ができる若手指揮者はそういないのではないか。改めてルイジの実力に脱帽。
 盛大な拍手が鳴り止まないどころか、席を立つ聴衆がほとんどいない。団員を解散させても大半の聴衆は残り、若き巨匠にステージに呼び出す。ルイジはコンマスやヴァイオリンの奏者数名とともに再登場。演奏ぶりからすれば、今世界で最も幸福な指揮者とオケのコンビかもしれない。

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