東京・春・音楽祭 ハイドン「天地創造」(2回公演の初回)
○2009年3月27日(金)19:00〜20:55
○東京文化会館
○5階R2列1番(5階上手サイド2列目最中央寄り)
○ハイドン オラトリオ「天地創造」(約100分)
○天使ガブリエル、エヴァ=タチアナ・リスニック(S)、天使ウリエル=セミール・ピルギュ(T)、天使ラファエル、アダム=アイン・アンガー(Bs)、東京オペラシンガーズ(39-31)、合唱指揮=ロベルト・ガッビアーニ
○レオポルド・ハーガー指揮N響
(12-10-8-6-4、下手から1V-Vc-Va-2V、CbはVcの後方)
 (首席奏者:コンマス=篠崎、第2V=永峰、Va=店村、Vc=藤森、Cb=吉田、Fl=甲斐、Ob=青山、Cl=横川、Fg=水谷、Hr=松崎、Tp=関山、Tb=栗田、ティンパニ=百瀬)

花冷えの「春・音楽祭」
 
  昨年まで「東京のオペラの森」と呼ばれていた音楽祭が、今年から規模を縮小し「東京・春・音楽祭」として再出発することになった。最も大きな違いはオペラ公演がなくなったことで、それに代わる目玉として今年没後200年のハイドンのオラトリオ「天地創造」を取り上げる。オケも「オペラの森管弦楽団」からN響に交代。合唱の東京オペラシンガーズは「オペラの森合唱団」として出演していたので、実質的に変更なし。
 建物に入ろうとすると「今日は休館日ですのでチケットをお見せ下さい」と言われる。確かに売店はお休みで音楽祭のパネルだけがずらっと並ぶ中をホール入口まで行かねばならない。どうも気分が盛り上がらない。客席も年度末のせいか6割程度と寂しい。

 第1部、ソリストは上手からラファエル(バス)、指揮者を挟んでガブリエル(ソプラノ)、ウリエル(テノール)の順に並ぶ。冒頭からハーガーの少し速めでかっちりした指揮ぶりに声もオケも忠実に従う。指揮者が神で他は全て天使たちのようだ。途中でテンポをほとんど揺らさず淡々と進む。最後の合唱の153小節以降テンポを上げたのが目立つくらい。
 第2部も同じような感じ。ただ、リスニックの声の響きが薄く、第16曲のアリアでいろんな鳥の鳴き声が出てくるところなど、表情が単調。よく見ると彼女のアリアの時だけ弦を1プルト休ませている。早起きしたせいかウリエルのアリア(第24曲)あたりは眠かった。第2部が終わると第3Flが加わり、バスとテノールが入れ替わる。
 第3部でようやく明るく楽しい雰囲気に。リスニックがエヴァになった途端色気のある声と歌いぶりに変わる。逆に天使役では堂々たる低音を響かせていたアンガーはアダムになると高音が苦しい。アーメンコーラスで合唱のアルトが1人ソリストが並ぶステージ前方まで移動。何とか最後は引き締まったアンサンブルで終わる。

 経費節減の影響はオペラをオラトリオに変えたことだけに止まらない。字幕も歌詞カードに変わった。単純なストーリーとは言えカードを見ながら聴くというのはやはり苦痛である。ページをめくる音も気になるし。ただゴルフ場のスコアカードに挟むタイプの鉛筆をアンケート用紙と共に配る経費はあるらしい。
 あくまで推測だが、歌手たちの経歴を見ていると、途中までオペラをやる予定で日程を押えていたがオラトリオに変更したのでそのまま来日してもらったという気がしてならない。3人ともすばらしい声をしているがこの曲はあまり歌ったことがないのではないか?細かい音符の歌い方など合唱との差が歴然。
 N響も12型の弦と2管編成にしてはしっかりした響きが出ていたと思うが、どこか教科書的演奏に終わっていて、興奮させられるものがない。確かにハイドンはティンパニ以外の打楽器を使わず、オペラ的手法でなく交響曲に近い手法で語らせているのだが、それにしてもおとなし過ぎる。元ティンパニ首席の百瀬さんが客演していて、豪快な音が健在だったのが耳に残った程度。
 合唱指揮のガッビアーニはミラノ・スカラ座合唱団の指揮者。各パートをよく揃えてはいたが、そのためにオペラ・シンガーズの持ち味であるパワーが抑えられた感じがする。こちらもオペラでなくオラトリオであることを意識し過ぎでは?

 不景気を吹き飛ばすような華やかな音楽祭を期待していただけに、あらゆる面で花冷え状態だったのが残念。

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