ロッシーニ・オペラ・フェスティバル 特別コンサート「ロッシーニ・ナイト」
○2008年11月21日(金) 19:00〜21:05
○オーチャード・ホール
○2階6列8番(2階正面6列目下手側)
○ロッシーニ「セヴィリアの理髪師」序曲、「どろぼうかささぎ」序曲、「ウィリアム・テル」序曲
 グスタフ・クーン指揮

 同「テーティとペレオの結婚」(演奏会形式、日本初演)
 テーティ=ナターリア・ロマン(S)、ペレオ=フェルディナント・フォン・ボトナー(T)、ユピテル=エンリーコ・イヴィッリア(T)、ケレス=パオラ・アントヌッチ(S)、ユーノー=クリスティーナ・ファウス(MS)
 アルベルト・ゼッダ指揮
○ボルツァーノ・トレント・ハイドン・オーケストラ
(12-7-6-5-3)(下手から1V-Vc-Va-2V、CbはVcの後方)

○プラハ室内合唱団
(女声15、男声24)

ロッシーニお買い得コンサート
 
 ペーザロ・ロッシーニ・フェスティバルの出し物が初来日。「オテッロ」「マホメット2世」という珍しい演目を上演してくれるのだが、残念ながら都合がつかず、特別コンサートへ。9割程度の入り。小泉元総理の姿も。舞台後方は「オテッロ」の舞台がそのまま残っている。台形の長い辺を除いた3辺の形の白い壁、その上方に青空と白い雲が浮かんでいる。この関係でホルンはクラリネットの下手、トランペットはファゴットの上手、さらに上手にトロンボーン、そしてティンパニなど打楽器は上手端に配置。

 当初発表の曲順とは逆に、「セヴィリア」を先に演奏。最初の和音を聴いただけで昨夜のヤナーチェクが吹っ飛ぶ。細かいピースが複雑に絡み合うのもクラシックならば、単純なメロディがとにかくストレートに聴こえてくるのもクラシックに違いない。しかしよく見るとロッシーニ・クレッシェンドの2回目のフレーズまではシンバルをバチで叩くが、3回目は別の奏者が2枚のシンバルを合わせて叩くといった細かい工夫をしているのがわかる。演奏後クーンが客席を向いて「今のが『セヴィリア』です。曲順を入れ替えてすみません。周りの人たちに訳して教えてあげて下さい」「次が『どろぼうカササギ』」です」などとアナウンス。
 「どろぼうかささぎ」でも打楽器が大変なことがわかる。ティンパニ奏者は途中でトライアングルを担当しなければならないし、ティンパニと同時に叩かねばならない場面もある。その一方で東京海上火災日動のCMに出てくるオーボエのソロが流れると、思わずニヤけてくる。これだからロッシーニは止められない。
 ただ「ウィリアム・テル」になるといきなりチェロのソロから始まり、全く違うタイプの音楽が総集編風に次々と出てくる。この曲がロッシーニの中でいかに特殊な位置を占めているかがよくわかる。
 ここまではクーンの指揮。きびきびした演奏だが縦を揃えることに重きを置くせいか、弦が今ひとつ響いてくれない。

 後半はナポリ王の姪とアルトア伯(後のフランス国王シャルル10世)の次子との結婚式の祝宴用に作曲されたカンタータを演奏会形式で。オケの後方に合唱団が並び、テーティ、ペレオ、ユピテル役の3人が上手側に登場して演奏開始。ゼッダが振り始めると、前半とは弦の響きが一転してやわらかくなり、雄弁に歌うようになる。さすがロッシーニのスペシャリスト。小柄な身体全体を揺らしながら曲ごとのテンポ、リズム、雰囲気の違いを巧みに演奏者たちに伝えている。ペレオにはアリアがある一方、テーティのソロ部分が短いのが気の毒。
 ユピテルが不和の女神を追い払ってテーティとペレオの結婚を祝福した後、農業の神ケレスがユピテルの妻ユーノーを伴って下手側に登場。「セヴィリア」のアルマヴィーヴァ伯爵のアリアのメロディを転用したケレスのアリアが、一番の聴かせどころとなる。あとは全員で両家を祝福し、他愛なくめでたし、めでたしとなる。
 若いソリストたちはいずれもしっかり歌っていたが、特にユピテル役のイヴィッリアは広いおでこの中が完全に鳴り切っているような感じの声で、実に心地よい。また、ケレス役のアントナッチは胸を大胆に開けたセクシーな黒のドレス姿。オペラグラスから目が離せない。ルチア・アルベルティに少し似た細くて強い声だが、高音で声を転がす部分も難なくこなす。

 ロッシーニ・ファンとしては、通常のコンサートの時間で彼の音楽にたっぷり浸れるお得な一夜。

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