イルジー・コウト+N響(2回公演の初回)
○11月5日(水)19:00〜21:05
○サントリーホール
○2階RA5列27番(2階上手サイド5列目最奥)
○イルジー・コウト指揮
○イルジー・パウエル「ファゴット協奏曲」(Fg=岡崎耕治)
(12-10-8-6-4)
 ブルックナー「交響曲第4番変ホ長調」(ロマンティック)(ノヴァーク版、1878/80年稿)(約68分)(16-14-12-10-8)
 (下手から1V-2V-Vc-Va、CbはVcの後方)
 (首席奏者:コンマス=ペーター・ミリング、第2V=山口、Va=佐々木、Vc=木越、Cb=吉田、Fl=神田、Ob=青山、Cl=磯部、Fg=女性(エキストラ?)、Hr=今井、Tp=関山、Tb=栗田、ティンパニ=久保)

汁が染み出るようなブルックナー
 
 今シーズン初めてのN響定期。他の演奏会に比べるとやはり年配の方が多い。一瞬ワシントンのNSOの定期を思い出すが、「働く聴衆」らしき方も目立つところが異なる。9割程度の入り。サントリー定期にしてはやや寂しい。

 イルジー・パウエル(1919〜2007)は20世紀チェコの作曲家。ファゴット協奏曲はプラハ芸術アカデミーの卒業作品として49年に書かれた作品。彼のデビュー作と言っていい曲だそうだ。
 第1楽章、弦などがFis−G−G/Fis−G−Gの短い音型の繰り返しで緊迫した空気を作り、ファゴットがそれを受けて嬰へ短調風のややせわしないメロディを奏でる。第2主題は一転して三度進行で上下する変ホ長調風のくつろいだメロディ。これらの主題を軸に、伝統的なソナタ形式をほぼ踏襲した形で曲は進む。
 第2楽章はハ短調風の静かな音楽。なぜか「ロメオとジュリエット」夜のバルコニーの場面が一瞬頭をよぎる。こちらは2部形式。
 第3楽章は変ホ長調風の行進曲だが、音量は抑え目。形式はロンド風。明るい雰囲気だが、喜びの爆発は最後の最後まで取っておくといった感じ。中間部の静かな音楽がやや退屈。
 ファゴット協奏曲にしては20分を越える大曲。モーツァルトの作品より長い。岡崎さんのソロは終始落ち着いた音色で、速いフレーズも足取りがしっかりしている。

 「ロマンティック」第1楽章、テンポは遅め。冒頭3小節目以降のホルン・ソロは表情豊かだが、これに応える19以降のFl、Ob、Clの主題がやや単調。65以降低弦などのEs−Es(1オクターブ下)に始まる下降音型のアクセントをスコア通りしっかり付ける。75以降の第2主題もレガートでゆったり進むが、106〜107のVcのフレーズでテンポを落とす。121〜122などの弦の音階昇降(正確には降昇)もなめらか。153以降のVとVaの上昇音階の繰り返しではだんだん大きくするのでなく、154でGに降りたり156でHに降りたりすると音量を落として再びppから昇り直す。これを何回も繰り返した末に165でやっと頂点に達する。なかなか快感。305以降のコラール、Tpよりもこれに応えるHrパートの方が目立つ。コラールが一段落する325以降にティンパニを加える。
 再現部では409以降>をしっかりかけ、pppくらいにしてから全奏へ。ただここも爆発するような感じではなく、安定感と重量感を前面に出す感じ。485以降の全奏で盛り上げた後501〜502で興奮を鎮めるようにテンポを落とし、歩みを整える。521〜522、金管のAs−Gの繰り返しはごりごりやらずすぐ>をかける。ホ長調に転調する533から少しテンポを落とす。557以降Hrの五度音型の反復は堂々とした響き。

 第2楽章、テンポはほぼ標準的。3以降のVcの主題はレガート重視。Vaのパートソロ(51以降など)では、Vのピツィカートを含め極端な強弱の変化はなく、一見淡々と進むが安心して聴いていられる。83〜87のFlとHrのソロは同じフレーズの1回目より2回目を小さく吹かせる。92以降の弦楽合奏の響きが充実。霧がかかった森のような雰囲気。109以降の盛り上がりは少し控え目。209以降盛り上がる箇所でも突出してアンサンブルを乱す楽器はない。

 第3楽章、やや遅め。Hrの主題はあまりスタッカートを強調せず、ここでもレガート重視。75〜78のHrが聴き慣れたメロディ・ラインと少し違うような気がする(落ちたのかと思ったが2回目も同じような感じだったので、指揮者が手を入れたのかも)。131以降Vaのフレーズを強調し、150のHrの主題回帰へと息長くつなげてゆく。トリオの後の19以降、指揮者は両手を下ろした姿勢でオケの方を向き、2小節ごとに身体を揺らして少し前に出るような仕草のみで<をかける。

 第4楽章、やや遅め。43以降のユニゾンに至るまでここでも息の長い<を聴かせ、決して乱暴な響きにならない。105以降の木管と弦のスタッカートは控え目。237以降金管のコラールは控え目に吹かせ、これに応える245〜258の弦もずっしりしているがあまりスタッカートを付けない。316などの二分音符の三連符にもあまりスタッカートを付けない。337〜338ではスコア通りテンポを落とす。366以降や405以降の盛り上がりでは、あまり切迫した感じにならない。469〜470ではVaの三連符を丁寧に弾かせる。そうすることで473〜474のVcが生きる。517以降金管が上昇音階をリレーしていくところもスムーズに聴かせ、最後のクライマックスへ。指揮者が肩を下ろすまで拍手を待った聴衆に拍手。

 最初はいろいろ小細工をしているように聴こえたが、だんだん音楽の流れが太く豊かになってゆく。そして、指揮者の味付けがしだいにオケの響きになじんでゆく。何時間を掛けておでんを煮込んでいるような気分に。そうしてでき上がったブルックナーは、口に含むと汁が染み出すがんもどきのような響きがする(どんな響きや!)。
 コウトはドイツ国籍だがチェコ出身のせいか、重心を低く置きつつ強引さのないやわらかい響きで、終始レガート重視。指揮棒を左右に大きく振る仕草が目立つ。弦の響きがいつもよりやわらかい感じがしたのは、指揮者とゲスト・コンマスの影響か。Hrは第2楽章終盤(238以降)のソロなどわずかにミスはあったが、全体的な響きは立派で、生き生きしていた。
 聴衆の反応も上々。これまで聴いたサントリー定期の中では盛り上がった方だと思う。

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