クリスティアン・ヤルヴィ指揮ウィーン・トーンキュンストラー管
○2008年10月8日(水) 19:00〜21:20
○東京オペラシティ・コンサートホール
○1階3列24番(1階最前列上手側)
○ベートーヴェン「交響曲第5番ハ短調」Op67(運命)(約30分、第1,3,4楽章の繰り返し実施)(14-12-10-6-6)(下手から1V-Va-Vc-2V、Cbはステージ最後列)
 グリーグ「ピアノ協奏曲イ短調」(P=上原彩子)(12-10-8-6-6)
 ドヴォルザーク「交響曲第9番ホ短調」Op95(新世界)(約39分、第3楽章のみ繰り返し実施)(14-12-10-8-6)(グリーグ以降は下手から1V-2V-Vc-Va、Cbはステージ最後列)
+ブラームス「ハンガリー舞曲第6番ニ長調」

オレの音楽を聴いてくれ
 
 ウィーン・トーンキュンストラー管と言えば、80年代半ばの来日公演をFM東京で聴いた覚えがあり、個人的には懐かしい名前である。来日は久々ではないかと思うが、残念ながらプログラムにそのあたりの情報が書かれていない。「ウィーン」のせいか、名曲盛りだくさんのプログラムのせいか、はたまた上原人気のせいか、ほぼ満席。今回は主催者であるジャパン・アーツの会員向け抽選で運よく招待券が当たった。行ってみたら何と最前列!ただほど安いものはない。

 開演前、プログラムの順序変更のアナウンスが入る。元々「新世界」→休憩→グリーグ→「運命」の順でプログラムには書かれていたのに、「新世界」と「運命」が入れ替わった。理由までは説明されなかったが、「運命」だけ弦が対抗配置になるからであろう。つまり当初の順序でやろうとすると、グリーグの後に第2ヴァイオリンとヴィオラが席を交代しなければならないのが煩わしかったのだろう。ただ、そんなことは本番のかなり前からわかっていたことではないかと思うが。
 というわけで、いきなり「ジャジャジャジャーン」である。ヤルヴィは黒のシャツ、ズボンに濃紺のハーフコートみたいなジャケットを着て登場。第1楽章、とにかくテンポが速い。しかもフェルマータをほとんど延ばさず、例えば6小節の出だしなど前の小節の音にかぶるくらいの感じで入る。第2楽章もテンポは落ちず、わき目も振らず進んでゆく。ただ10〜15など木管だけで演奏する部分は少しゆっくり。通常pで演奏される131以降の木管合奏を音が割れそうなくらいのfで吹かせる。第3楽章も速い。なぜかこの曲だけVcが6人しかおらず、しかもCbはステージ最後列、Vcから離れた所に立っているので、低弦の聴かせどころである122以降やトリオ出だしの部分(140以降)などが弱い。第4楽章も前楽章の勢いそのままに突進。72〜73などではfで入って少し音量を落とすが73の3拍目と4拍目で少しクレッシェンドして次につなげる。最後の音にもフェルマータをほとんどかけずに切る。

 グリーグについては、こちらをご覧下さい。

 「新世界」第1楽章序奏も速めのテンポ。ようやくチェロが8人になり、バランスがよくなる。提示部でさらに速くなる。繰り返しを実施しないのは終演時間を気にしたのかもしれないが、指揮者の方針としては首尾一貫していない。途中であまりテンポを変えず一気に進む。
 第2楽章はほぼ標準的テンポか。イングリッシュ・ホルンのソロを始め、メロディ担当パートが少し歌うようになってきた。第1主題が回帰する96以降の全奏はなかなか充実した響き。ただ最後のCbの和音は少々素っ気ない。
 第3楽章はまた快速テンポに戻る。76以降Clのパート・ソロだが第2の音程が不安定。トリオは少し軽快な感じに。指揮者も腰を左右に揺らしながら振る。
 第4楽章も出だしから猛進。21でホルンの主旋律に応える弦のフレーズを勢いよく聴かせるなど、彼独自の味付けがないわけではないが、前進エネルギーの方が強いので、注意して聴いていないと逃してしまう。200や202の弦のfzは楽譜どおり強調するがその後の下降音型はそれほどではない。ヤルヴィは最後振り終わると客席側を向く。管のフェルマータはほとんどなく一瞬にして消えてしまう。

 アンコールのハンガリー舞曲も主部前半の方が後半より速いくらいで、通常のテンポのバランスとは違う。最初のD−Aのフレーズを振ってまた客席を向くなど、茶目っ気を見せる。
 全般的には弦主導で音楽を進める感じで、席のせいもあるが管がメロディを奏でる部分でもかなり弦が出しゃばってくる。テンポが速いのは兄のパーヴォと共通しているが、フレージングについては兄ほど極端に細かい<>を入れないので、一本調子に聴こえる場面もしばしば。ベートーヴェンもドヴォルザークも聴いた印象にあまり変わりがなく、「作曲家のことよりオレの演奏を聴いてくれ」といったスタイル。せっかくのウィンナ・ホルンや木管の響きも、彼独自の表現のひらめきも、全て勢いに流されてしまった感じ。
 などと難しいことを考えているのはどうやら僕だけかも。聴衆の大半は彼らに盛大な拍手を送っている。「ウィーン」の名の付くオケが名曲中の名曲を演奏してくれるだけで客席が埋まり、多くの聴衆は満足して帰る。これでいいのだ。ホンマか?

表紙に戻る