新国立劇場こどものためのオペラ劇場「ジークフリートの冒険〜指環を取り戻せ!」(6回公演の5回目)
○2008年7月27日(日) 11:30〜12:45
○新国立劇場中劇場
○1階8列52番(1階2列目上手端から5席目)
○ブリュンヒルデ=中村恵理、ジークフリート=経種廉彦、ヴォータン=米谷毅彦、森の小鳥=直野容子、ファフナー=峰茂樹、ローゲ=相ヶ瀬龍史(助演)他
○三澤洋史指揮新国立劇場こどもオペラ・アンサンブル(東フィルメンバー)(2-2-1-1-1)
○マティアス・フォン・シュテークマン演出

工夫満載の親子向けオペラ

 新国立劇場は子ども向けのオペラ入門プログラムを2004年以降毎夏行っているが、「ジークフリートの冒険」は04,05年に上演されたもの。当初はオケにエレクトーンを加えていたそうだが、今回はオケの楽器のみによる改訂版。ホワイエではスタンプラリーなど様々な子ども向けイベントも並行して開催され、親子連れで大賑わい。危うく開演時間を忘れるところだった。客席も9割以上の入り。

 舞台中央手前にノートゥングの置かれた台、その上に天井から吊るされた大看板、「さわるな!」と大書されている。その手前に人1人分通れるくらいのピットがある。オケは舞台の上手側で演奏。
 舞台下手端からまずトヨタ開発のロボットが登場、見事なトランペットの演奏を披露するとともに、客席の子どもたちに剣を見張るよう頼んで退場。続いて客席奥から薄緑のカタツムリのような殻を背中に付けたファフナーが登場、子どもたちの警告も聞かずにノートゥングを手にするが、すぐ折れてしまう。サイレンが鳴ってワルキューレたちとブリュンヒルデが現れ、ファフナーと戦う。ファフナーがワルキューレの1人を捕まえるので、それを助けるべくブリュンヒルデがノートゥングを振りかざすが、既に折れている。何とかファフナーを追い払った後現れたヴォータンは、ブリュンヒルデが剣を折ったものと思い込み、ワルキューレたちから槍を取り上げ、それらを用いて囲った中にブリュンヒルデを閉じ込め、火の神ローゲを呼ぶ。全身真っ赤で炎の形のヒラヒラを身体中に付けたローゲが現れて火を付ける。
 ヴォータンが立ち去るのと入れ替わりに森の小鳥が登場、携帯でブリュンヒルデの写真を撮る。そこへ暴れん坊のジークフリート(自動車事故を起こしたらしく、エンジンやパイプなどがつながった部品らしきものを持って登場。それまで人の言葉をしゃべっていた小鳥はジークフリートと会った時から鳴き声に変わる。携帯の写真を見て一目惚れした彼は、様々な楽器を試すうちに自動車の部品の先についていたラッパを吹いてようやく小鳥と話せるようになる。ブリュンヒルデに会いに行く前にプレゼントとしてラインの娘たちが守っている黄金の指環を取りに行くことにする。
 青い布が舞台一面に張られ、その下の岩場に黄金がある。一足早くやって来たファフナーが指環を奪って立ち去る。遅れてやって来たジークフリートと小鳥。小鳥は彼に戦うよう勧めるが武器がない。そこへ娘に罰を与えたことを後悔しているヴォータンが奥から登場、ジークフリートに折れたノートゥングを見せる。舞台手前から金床がせり上がり、奥から平たい家の形の壁にブレーカーや炉などが備えられた工房があっという間に現れる。ノートゥングを鋳直したジークフリートは金床と工房を真っ二つに切り、颯爽とファフナー退治に向かう。
 大蛇に化けたファフナーには薄緑の殻がいくつもつながっており、頭には牙をむいた大きな口。ジークフリートが殻を一つずつ斬っていくと、大きな口の後ろに化ける前のファフナーが現れる。指環を奪ったジークフリートはブリュンヒルデの眠る岩へ。最初はためらいがちの彼だったが、意を決して彼女にキスし、目覚めさせる。
 これでめでたしめでたしかと思いきやヴォータンは、ジークフリートが元々ラインの娘たちが指環を持っていたことを知りながらブリュンヒルデに贈ったことを非難し始める。一瞬不穏な空気になるが、ブリュンヒルデは指環などなくともジークフリートの愛は伝わると言って指環をラインの娘たちに返す。背中の殻もすっかり萎んで心を入れ替えたファフナーも加わり、最後は全員で記念撮影。

 「指環」のオリジナルのストーリーに基本的には従いつつもそれに囚われず、音楽も4部作のあちこちから自由につなぎ合わせるだけでなく、オリジナルとは異なる場面で使うこともしばしば。始めのうちはエド・はるみのギャグなどに子どもたちは受けているが、だんだん話が進んでワーグナーの音楽だけで聴かせるようになっても、ほとんどの子どもたちは静かに聴いている。親に感想を漏らす時にも自然と小声で話している。
 歌詞はもちろん日本語だが、西洋のメロディに日本語を乗せるのはどうしても不自然かつわかりにくくなることを考えてのことだろう、ここにも工夫が見られる。つまり、歌の前に歌詞の内容を先取りした台詞を入れることで、歌詞もより聴き取りやすくなっている。舞台装置は簡素だが想像力をかき立てる仕掛けが盛り込まれているし、衣裳はどれもメルヘンチックな淡い色合い。演奏時間は70分ほど、少し物足りないくらいでちょうどいい。親子向けのオペラ入門プログラムとしては実によくできている。
 歌手たちはみなよく歌っていたが、狂言回し的役割で人間の言葉と鳥の声を巧みに使い分けた直野と、悪役ファフナーを身軽な動きで歌い演じた峰が特によかった。オケの目の前の席だったので、小編成の各楽器が何を弾いているかもよくわかる。これもオリジナルの上演では味わえない。
 子ども向けのクラシック入門コンサートは数々あれど、オペラ入門プログラムは世界的に見ても決して多くない。是非地方の劇場でも上演し、全国の親子が楽しめるよう更なる工夫を期待したい。

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