下野竜也指揮読売日響
○2008年5月19日(月) 19:00〜21:00
○サントリーホール
○2階P5列8番(2階ステージ後方5列目上手端から4席目)
ワーグナー「ニュルンベルグのマイスタージンガー」前奏曲、山根明季子「ヒトガタ」(世界初演)
 コリリアーノ「マンハイム・ロケット」(日本初演)、同「ハーメルンの笛吹き幻想曲(フルート協奏曲)」(Fl=瀬尾和紀他)
 (14-12-10-8-7)(下手から1V-2V-Vc-Va、CbはVcの後方)
 (コンマス=ノーラン、第2V=清滝、Va=生沼、Vc=嶺田、Cb=星、Fl=倉田、Ob=蠣崎、Cl=藤井、Fg=井上、Hr=山岸、Tp=田島(前半)、長谷川(後半)、Tb=山下、ティンパニ=岡田)

「ゲテモノ音楽」の三ツ星シェフ
 
  まだ5月だというのに台風接近の影響で雲行きが怪しい中会場へ。現代物中心のプログラムのせいもあってか、半分程度の入り。

 「マイスタージンガー」前奏曲、前半の「タンタカターン」の連続が過ぎて最初の主題に戻り徐々に盛り上がっていくところで、指揮者はそれまでの4つ振りから2つ振りに変える。終わり方はティンパニのトレモロが入ったパターン。いつ聴いても元気になるねえ。

 山根の新作はチェレスタや鉄琴が「ドソミソ」風の音型を延々と続けるところへ弦や管が短いフレーズを絡ませる。それが一段落すると鯨の海中遊泳のようにコントラバスが低音域を上下したり、猛獣のうめき声のようにホルンが最弱音を伸ばしたり、鳥のさえずりのようにコンマスが高音域で激しく動いたりする。いずれもどこの音を出しているのかがよくわからない。微妙に音程をずらしているのだろう。
 やがて弦によるがい骨の踊りのようなフレーズと全休止(グラン・パウゼ)が何度か繰り返されて終わる。「ヒトガタ」というタイトルから想像されるような雰囲気はあまり伝わらなかった。ブーイング約1名。
 ただ、後半のプログラムの途中で指揮者が作曲家にインタビューし、曲の狙いが「違った時間の流れを見せる」ことにあったこと、そのために異なる速度のメトロノームを同時に動かしたりポリリズムを多用したりしたことなどを知る。そう言われてみれば、なるほどと思い当たるところも。やはりこういった話は演奏前に聴衆に聞かせるべき。

 「マンハイム・ロケット」はワシントンでスラトキン指揮NSOで聴いて以来、僕の好きな曲の一つ。マッチを擦るような冒頭のチェロからロケットが発射し宇宙へ飛んでいくがやがて落ちてくるまでをユーモラスに描く。宇宙の場面の音楽が美しい。落下を止めるべく「マイスタージンガー」の主題が登場。最後は堂々とした再発射。おもろい曲やねえ。
 ここで団員たちはいったん退場、下野がマイクを持って現れる。現代音楽など「ゲテモノ担当」指揮者と自己紹介するなど、客席は大受け。なかなかの話術だが、やはり演奏会冒頭にやった方が効果的だと思う。

 「ハーメルンの笛吹き幻想曲」は初めて聴く。スコアを照らすライト以外ホール内は暗転になり、指揮者は最初から台上にいる。オケが夜の闇から日の出に向かう。赤と黄色のマント姿の瀬尾がフルートを吹きながらゆっくり舞台に登場。ネズミとの戦いでは、激しい不協和音のオケにフルート1人で立ち向かう。カデンツァに入ると狭い音域の間をせわしなく行ったり来たりする。再びコントラバスを皮切りにねずみの大群が押し寄せるが、フルートのメロディが落ち着いたものに変わるとオケも静まってゆく。と思う間もなく今度は金管を中心にルネサンス風行進曲=市民の合唱がところ構わず鳴り響く。オケに邪魔されるばかりの笛吹きは、ついに縦型のティン・ホイッスルに持ち替える。彼のメロディに1階客席に現れた子供たちのフルートが応え、行進して舞台に上がってくる。笛吹きが舞台を降りると子供たちも付いてゆき、1回奥から退場。オケの音楽は冒頭の闇に戻り、力ないオケのフルート・ソロもやがて消えてゆく。舞台も次第に暗くなる。
 コリリアーノならではの描写力がすばらしく、絵本の中に入ったような気分。瀬尾は明るく軽い音色と小気味よいリズムが印象的。絵本に出てくる近寄りがたい雰囲気の笛吹きでなく、自然を愛する親しみやすい人物が思い浮かぶ。足立区の3つの小中学校と修徳高校の子供たちによるフルート演奏もかわいらしい。特に小太鼓と大太鼓のリズム感が見事。

 それにしても、下野はコリリアーノが大好きなようだ。おととし11月には彼の代表作である交響曲第1番も取り上げている。経歴を見る限り彼との接点は見当たらない。何がきっかけだったのだろう?
 いずれにせよ、日本のオケでコリリアーノの作品をこんなにじっくり聴けるとは思わなかった。それだけでも大収穫。他のアメリカ出身作曲家の作品もどしどし取り上げてほしい。

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