新国立劇場「アイーダ」(6回公演の2回目)
○2008年3月16日(日) 14:00〜18:10
○新国立劇場オペラパレス
○4階1列7番(4階正面1列目下手端から7席目)
○アイーダ=ノルマ・ファンティーニ、ラダメス=マルコ・ベルティ、アムネリス=マリアンナ・タラソワ、アモナズロ=堀内康雄、ランフィス=アルチュン・コチニアン、エジプト国王=斉木健詞他
○リッカルド・フリッツァ指揮東響(14-12-10-8-6)、新国合唱団、東京シティ・バレエ団、ティアラこうとう・ジュニアバレエ団
○ゼッフィレッリ演出

5年ごとでは待ちきれない

 今のところ新国を代表するレパートリーと言えば、ドイツ物なら「トーキョー・リング」、イタリア物ならゼッフィレッリ演出の「アイーダ」であろう。開幕記念公演として上演された98年、03年に続き3回目。要は5年ごとに上演しているわけだが相変わらず人気は高く、チケットはあっという間に売り切れ。僕自身は98年以来である。
 この日中劇場ではオペラ研修所の「フィガロの結婚」、小劇場では貸し公演だが東京室内歌劇場の「流刑地にて」(フィリップ・グラス作曲)が同じ時刻に開演。新国の全ての劇場で同じ日にオペラが上演されるとは、偶然にしても、開幕当時には想像できなかったことである。

 第1幕第1場、ランフィスが来るエチオピア戦の総司令官のお告げを国王に知らせるため中央の階段を上がろうとすると、上の出入口に青い衣裳のアムネリスが現れ、ラダメスを一瞥した後ランフィスと一緒に国王の元へ向かう。「清きアイーダ」の後アムネリスは再び中央の出入口に現れ、アイーダは上手から早足で階段を昇ろうとしたところラダメスに気付いて立ち止まる。アイーダが頭から羽織るマントは赤と黒の柄だがラメ入りでキラキラ輝いている。奴隷の服装にしては派手。
 同第2場、戦勝祈願の合唱の最後で祭壇の中からフタファの神像が現れる。
 第2幕第1場、下手端にベッド。アムネリスは中央の衝立の奥で着替えているが、女官長が手をパンパンパンと叩くと衝立が取り払われ、白い衣裳で出てくる。ムーア人の子どもたちの踊りでは、しばらくの間思い思いにはしゃいでいるが女官長の合図でアムネリスにひれ伏す。アイーダとアムネリスの二重唱、ラダメスへの愛を悟られたアイーダは立ち去ろうとするがアムネリスはその腕をつかみ、「私の顔をとくとごらん」と迫る。
 同第2場、馬は行進の途中で勢いよく出てきてすぐ走り去る2頭とラダメスを乗せて歩んでくる1頭の計3頭。舞台手前両端に群衆。行進を近くで見ようと子どもたちがしばしば飛び出しては、衛兵に群衆の中へ押し戻される。アイーダが勝利を祝う冠をラダメスの前まで運び、アムネリスが彼に与える。エチオピアの捕虜たちもアイーダと同じような赤と黒の衣裳。国王が褒美にアムネリスと結婚するよう告げると、ラダメスは国王の方を向かずに群衆の差し出す手を取って賞賛に応えている。幕切れの場面、国王とアムネリスは下手奥の玉座から降りて中央手前に進む。国王を中心に下手側に手を取り合うアムネリスとラダメス、上手側に抱き合うアモナズロとアイーダ。空いた後ろのスペースには行進に登場した旗指物を持った従者たちやアイーダ・トランペットを持つ兵士たちがぎっしり並び、群衆は国王に向かって一斉に手を差し出す。

 第3幕、上手端が神殿の入口。ホリゾントに月の光に照らされたようなスフィンクスの顔。その手前はナイル川。アムネリスは船で到着。アムネリスが神殿に入った後下手から現れたアイーダ、紺の衣裳にマント。アリア「わが故郷」を歌い始めるとナイル川の水を手ですくってしぶきを飛ばす。アモナズロも下手から登場。エジプト軍の機密情報を探り出すよう命じられたアイーダ、ラダメスが上手奥から登場すると、左手でマントを垂らした格好で徐々に彼に近付き、途中で落として彼の元へ歩み寄る。アモナズロ、アイーダと3人でいるところを神殿から出てきた衛兵が気付くと急ぎ中へ。入れ代わりに出てきたアムネリスが「裏切り者!」と叫ぶとアモナズロは剣を抜くが、ラダメスはそれを取り上げてランフィスたちに向け、その隙にアモナズロとアイーダを逃がす。
 第4幕第1場、上手から登場したアムネリスは付いて来る従者たちを追い払う。ラダメスの死刑判決が出た後奴隷たちが中央手前の石棺の入口を開けると彼は淡々と自分で中へ入っていく。
 同第2場、暗転の中舞台全体がせり上がって地下牢が現れる。アイーダは上手から登場。2人が死を迎える二重唱を歌う間、地上では女官たちが火を持って追悼の合唱。やがてアムネリスも下手から現れ、石棺の扉の上に座って追悼の火を捧げる。幕切れでは舞台全体が下がって第1場と同じ状態に。

 ファンティーニは主役クラスの中では唯一3回とも出演しているはず。98年の時に聴いたグレギナよりも軽くみずみずしい声だが、力強さも備えている。アリアを歌い終わった後の大きなため息がやや気になるし、高音のピアニシモをもう一段階絞り込んでほしいが、アイーダの苦悩はよく表現できている。ベルティは「清きアイーダ」でほとんど棒立ちで歌うなど演技は少し物足りないが、声は最高音も余裕で伸ばし、ただ聴き惚れるのみ。タラソワは中低音の迫力が今ひとつで、敵役としては少し弱い。堀内は03年に続いてのアモナズロだが、存在感十分の声でファンティーニともしっかり渡り合う。コチニアンもややおとなしめの声色だが低音はよく響く。エジプト国王役の斉木がこの日も豊かな低音できっちり脇を固める。カーテンコールの機会を与えるべき。
 フリッツァは落ち着いた流れで進めながら、時折大胆にテンポを落としてオケを歌わせる。また第2幕第1場では、アイーダを攻めるアムネリスに低音を強調して加勢。東響の暗めの音色がこの日も効果的に舞台を盛り上げる。おかげで久々にたっぷり泣かせてもらう。

 今度この舞台が観られるのはまた5年後だろうか?毎シーズンが難しいならせめてオリンピック並みにならないものだろうか?
 

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