新国立劇場「サロメ」(4回公演の2回目)
○2007年2月6日(水) 19:30〜21:40
○新国立劇場オペラパレス
○4階3列25番(4階正面3列目ほぼ中央)
○サロメ=ナターリア・ウシャコワ、ヨカナーン=ジョン・ヴェーグナー、ヘロデ王=ヴォルフガング・シュミット、ヘロディアス=小山由美、ナラボート=水口聡、小姓=山下牧子他
○トーマス・レスナー指揮東響(16-14-12-10-8)
○アウグスト・エヴァーディング演出

4回ではもったいない

 新国の「サロメ」は畑中芸術監督時代の2000年に初演、その後02年、04年に続いて4度目の上演となる。新国のレパートリーとして定着しつつある貴重なプロダクションの一つ。

 劇場全体が暗転になってしばらくしてから演奏が始まる。舞台が明るくなると奥に巨大なテント=ヘロデ王の宴会場。屋根は金色の風船をつなげたような感じ。その手前にヨカナーンを閉じ込めた古井戸。円形に格子の入ったガラスのふたが被せられている。これらをはさむように両端に蛍光灯色した「松明」が並んでいる。兵士たちは現代風の軍服。
 サロメは黒のワンピース姿でテントから飛び出してくる。ヨカナーンに会わせるようナラボートに命じると、兵士たちはテントから伸びる縄2本を円形のふたに結び付け、正面後方に向かって引っ張り上げる。ヨカナーンは両手を紐で縛られ、その先は穴の奥につながれている。サロメがヨカナーンの肌の白さを称えて拒絶されると、彼の後ろから縄を引っ張って動けないようにする。ナラボートはサロメの視線に全く入らない状態で穴の下手側で自殺し、倒れる。サロメの度重なる誘惑を拒絶したヨカナーンは腕の縄をちぎり捨ててから穴の中へ消えてゆく。振られたサロメは上手前方に座り込む。
 ヘロデ王とヘロディアスは赤を基調とした古代風の衣裳で登場。王が奴隷たちにソファやワインや果物を持って来させるところでいちいち儀典長がパンパン!と手を叩く。ときどきオケの演奏にかぶるのが、気になると言えば気になる。

 サロメの踊りは、最初のうちはテントの中のシルエットでしか見えない。踊りの間ヘロディアスはテントの上手側で愛人たちと遊興にふける。そのうち小姓をも誘惑してソファで愛し合う場面も。サロメは赤いヴェールを次々と脱いでいくが、最後はビキニ模様のボディスーツ止まり。
 サロメがヨカナーンの首を求めると、ヘロディアスは果物を並べた銀皿の一つを取り上げて果物を投げ捨て、ヘロデ王に突き出して約束の実行を迫る。王は怒って皿を投げ捨てるが、結局サロメの言いなりになるしかない。背丈の半分くらいありそうなナイフを持った首切り人が皿を持って穴の奥へ。やがて血まみれの皿にヨカナーンの首を乗せ、血で染まった布を被せて持って上がってくる。それを見たヘロデ王は顔を背け、やがてテントの中に引っ込んでしまう。ヘロディアスはサロメが首に向かって歌い続ける様子をソファに座って眺めている。
 サロメがヨカナーンの口にキスしているとヘロデ王は再登場。王は開いたままの古井戸のふたに昇り、そこからサロメを殺すよう命じる。兵士たちが彼女の両腕をつかみ、それまでずっと舞台上にいてナラボートの剣で自殺しようとするも決心が付かなかった小姓が彼女の前に立ち、短剣を振り下ろす。ナラボートの恨みを晴らすかのように。

 ウシャコワはウズベキスタンの首都タシュケントで祖父母に育てられた後サンクト・ペテルブルグ音楽院で学んだという若手。これまではミミ、ヴィオレッタ、デズデモナなどリリックや役が多かったせいか、サロメとしては少し線が細く中低音にもう少し厚みがほしい感じがする。ヴェーグナーはバイロイトでクリングゾルなどを歌っているようだが、迫力十分の声に圧倒される。シュミットも声、歌いぶりとも申し分ないが、日本ではヘロデ王ばかり聴いているみたいでもったいない。小山の声もよく伸び、口うるさい王妃役にぴったし。いつもながら衣裳の着こなしもおしゃれ。水口も立派な歌いぶりだが、最近ドイツ・オペラの脇役でばかり聴いているみたいで、やはりもったいない。兵士役の斉木健詞がこの日も声で存在感を示す。
 レスナーは73年ウィーン生まれ。まだ若手と言っていいが、声に遠慮せずオケを鳴らす一方で、ヨカナーンとサロメとのやり取りでは、早くもスタミナが切れかけたサロメのパートはテンポを上げ、ヨカナーンのパートでは元に戻してたっぷり歌わせる。サロメがヨカナーンの首にキスする場面では調子が戻ってきたのでテンポを速めずたっぷり歌わせる。などなど、なかなか手馴れたところを見せる。東響も16型の弦が厚く響く一方、東フィルに比べて音色が暗いのでこのオペラにはよく合っている。途中ホルンに少し危なっかしいところがあった以外、管・打楽器も迫力ある響き。

 この日は平日でしかも雪がちらつく中、ほぼ満席の入り。あとの3回はいずれも日曜・祝日だが、7時半という開演時間も働く聴衆には優しい時間設定だし、平日公演をもう1回やってもいいくらい。これまたもったいない。
 

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