ヘルベルト・ブロムシュテット指揮N響(2回公演の初回)
○1月23日(水) 19:00〜20:45
○サントリー・ホール
○2階P4列13番(2階ステージ後方3列目上手寄り)
○マーラー「さすらう若人の歌」(B=クリスティアン・ゲルハーヘル)
(12-12-8-6-4)
 シューベルト「交響曲第8番ハ長調」D.944(グレイト)(約57分)(第1楽章提示部、第3楽章主部1回目及びトリオ、第4楽章提示部の繰り返し実施)(15-16-12-10-8)
 (下手から1V-Vc-Va-2V、CbはVcの後方)
 (首席奏者:コンマス=堀、第2V=山口、Va=店村、Vc=藤森、Cb=西田、Fl=甲斐、Ob=茂木、Cl=磯部、Fg=岡崎、Hr=松崎、Tp=関山、Tb=新田)

まだまだ若人の歌
 
 この日は東京でこの冬初の積雪を観測し、昼過ぎから雨に変わったものの開演前もずっと降り続く。そんな天気のせいか、客席はテレビカメラ用スペースを別にしても9割くらいしか埋まっていない。

 ゲルハーヘルはここ数年オペラ・リートの両方で活躍するバリトン。2002年「ポリーニ・プロジェクト」に出演して以来の来日だそうだ。歌手を背中から見る位置なので、声が届きにくいのはしょうがない。
 第1曲「彼女の婚礼の日は」では、"Zikuth!"(小鳥の鳴き声)を3回歌う。第2曲「朝の野べを歩けば」最後の"mir nimmer bluhen kann"(もう二度と咲きはしない)や、第4曲「彼女の青い目が」後半の"da hab'ich zum ersten Mal im Schlaf geruht!"(わたしははじめて眠りについた!)といった、高音域を弱音で歌う部分が美しく、聴き惚れる。その一方で第3曲「燃えるような短剣で」では力強さも見せる。明るく澄みわたった声が、ガラスのように壊れやすい青年の心を見事に表現。他方ブロムシュテットは棒を持たずにその声にオケをきっちり付けさせ、曲の終わりの音もあまり余韻を残さずに切る。

 後半は「グレイト」。本来ならヴァイオリンは第1、第2共に16人にしたかったのだろうが、第1で誰かダウンしたのだろう。第2の方が多いという珍しい編成。第3ホルンに首席の樋口さんが座るという豪華メンバー。ブロムシュテットは早足で登場して指揮台に飛び乗る。ほんまに80歳か?
 指揮ぶりも若々しく力がみなぎっている。第1楽章序奏(アンダンテ)から快速テンポでサクサク進み、そのまま第78小節以降の提示部(アレグロ・マ・ノン・トロッポ)に突入。あまりに速いので弦の付点のリズムもなめらかに聴こえる。急流を昇ろうとする鮭が川底の岩に引っかかる術もなく下流へ流されているみたい。繰り返しの後は余計速くなっているような錯覚さえ感じる。そのテンポを維持させたまま228以降のffでオケをあおり、236〜237のfffでさらに大きく腕を上げて盛り上げる。その時の何とも嬉しそうな顔!570以降のコーダ(ピウ・モート)でもスピードは落ちず、672以降もほとんどテンポを落とさぬままゴールイン。
 第2楽章、一瞬少しテンポが落ちたかと思ったが、8でオーボエのソロが入った途端これまた思い違いだったことに気付く。木管がこのテンポで歌うのはさぞ大変だろう。しかし30以降しばしば登場するffzの全奏があっても、音楽の流れは止まらない。ヘ長調に転調する89以降もテンポに変化なし。249の破局まで一気に突き進む。その後やっと少し落ち着いた流れになり、特に267以降の第2Vとヴィオラの16分音符のフレーズを丁寧に弾かせることで立体的な響きになる。
 第3楽章、前半ほど強引ではないが速いテンポに変わりはない。113でpになるが、119でほんの少しだけ音量を落としてから127以降クレッシェンドをかける。194の木管にテヌートをかけ、クレッシェンドさせて第1Vのメロディへ受け渡す。トリオは淡々と進む。
 第4楽章、15以降の全奏でも粘らずに快速テンポを維持。36以降しばしば出てくるヴィオラ以下のアクセントはそれなりに付いているが、165以降頻繁に登場する2分音符4連打のアクセントはあまり強調されない。382〜384の冒頭に戻るフレーズが演奏されるのは珍しいが、強引でなかなか面白い。433以降各パートに出てくるアクセントもほとんど感じないが、499〜500のヴァイオリンのスタッカートはくっきり聴こえる。その後もサクサク進み、1057〜1060などのCのユニゾンもすんなり通過。最後の音はディミニエンドせず短めに切る。
 1時間弱の一筆書きを見るような演奏。
 
 カーテンコールでブロムシュテットは第1、第2ホルンとオーボエ、クラリネット、フルートの首席を立たせる。その後トランペットの関山さんが後ろのトロンボーンの新田さんに向かって拍手を送っていた。確かにこの日の金管は力強く鳴るだけでなく安定した響き。
 名誉指揮者3人中唯一現役のブロムシュテットの健在ぶりを確認できてホッとした。

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