ドレスデン国立歌劇場「サロメ」(2回公演の2回目)
○2007年11月26日(月) 19:30〜21:25
○東京文化会館
○5階R2列18番(5階上手サイド2列目ほぼ中央)
○サロメ=カミッラ・ニールンド、ヘロデ王=ヴォルフガング・シュミット、ヘロディアス=ガブリエレ・シュナウト、ヨカナーン=アラン・タイトス、ナラボート=マルティン・ホムリッヒ、小姓=エリーザベト・ヴィルケ他
○ファビオ・ルイジ指揮ドレスデン国立歌劇場管(14-12-10-8-6)
○ペーター・ムスバッハ演出

千秋楽にふさわしい大一番

 最初に断っときますが、これは大相撲の批評ではありません。
 ドレスデンの引越公演もあっという間に最終日。8割強の入り。
 
 V字型の舞台の先端が黒い緞帳からはみ出している。文化会館2階席以上の最前列の前に備えられているみたいな蛍光灯の帯が、V字の縁に沿って光る。月光のイメージだろう。その奥にはやはりV字型で天井まで伸びる白壁が迫る。歌手たちはその間の狭い空間で歌うが、立っているのもしんどそうな急傾斜。床は最初青く光っているが、場面に応じて色が変わる。
 登場人物たちの衣裳、サロメとヨカナーンのみ白で後は全員黒。しかも女性風のドレスを着るのはサロメとヘロディアスのみ。サロメは「3年目の浮気」のマリリン・モンロー風ドレス、顔も髪も白く塗っている。ヘロディアスはスカートの裾が足元まであるワンピース。ヨカナーンはつなぎ服、後は全員スーツ姿。ユダヤ人たちはネクタイを締めている。

 帯の中央やや上手寄りにプールにあるみたいな金属の梯子が下に伸びる。ヨカナーンは最初その手すりの間に座っている。ヨカナーンを穴から出すようサロメがナラボートを誘惑すると、ヨカナーンは一旦白壁の下手側奥に退場し、反対側から登場。サロメと向き合った状態で徐々に前に歩いてくる。彼女はヨカナーンに触れようとするが、彼はほとんど触れさせない。ナラボートが二人の間に割って入り、サロメの方を向いて剣を自分の胸に突き立てる。しかし自分で刺す前にヨカナーンが背中を押すので、その拍子に刺さってしまって倒れる。ヨカナーンは舞台中央で歌い続け、その影が床に映る。その後下手奥へ逃げ、追うサロメを拒絶。サロメは倒れて中央手前まで転がってくる。ヨカナーンが去ると起き上がって壁の中央やや下手寄りでうずくまる。
 ヘロデ王とヘロディアスは下手奥から登場。王はしばしば煙草入れから煙草を出して火をつけようとするが、ライターのガス切れでつけられない。ナザレ人たちがナラボートの死体を片付ける。王はワイングラスの代わりに携帯用ウイスキー入れ、果物として小粒のリンゴを取り出してそれぞれサロメに勧めるが相手にされない。ヨカナーンは下手奥から登場し、再び梯子の手すりの間に座る。
 「七つのヴェールの踊り」でサロメ自身はリボン1枚脱がない。踊りもずっとやるわけではなく、途中でヘロディアスがサロメの仕草を真似て踊るシーンも。その代わりサロメは王の上着とチョッキを脱がせ、蝶ネクタイや腰ひもを取ってヨカナーンの腕を手すりに縛り付ける。ヘロディアスも自分の?リボンで口を縛る。さらにサロメは王を誘惑、サスペンダーもはずさせ、仰向けに倒し、そこへ馬乗りになる。
 ヨカナーンの首を要求するサロメを何とか翻意させようと王は舞台上を所狭しと動き回る。その間サロメは縛られたヨカナーンを早くも抱いたり愛撫したりする。ヘロディアスも身体を手すりの下にくぐらせて彼の身体を愛撫。王がとうとうヨカナーンの首をはねるよう命令すると、兵士たちが縛りを解いて中央へ連行し、客席に背を向けて取り囲む。兵士の1人が斧を振り上げ、首の落ちる音楽に合わせて下ろすとヨカナーンは倒れ、白布で全身が覆われる。
 サロメはヨカナーンの顔の辺りにしゃがんでソロを歌い出すが、やがて彼の下手側に並んで座り、布をめくってベッドイン。最後の場面、王はサロメの殺害を命じ、自分で斧を振り上げる。兵士たちは出てこない。

 さすがにチェレスタとオルガンがピットに入らず、舞台下手端の通路に備えられている。オケはこの日も好調、例えばヨカナーンが穴に戻った後のクライマックスも充実しているが、それが収まったところで出てくるコントラファゴットのソロを芯の太い音でしっかり吹くなど、木管が弦や金管に負けない存在感を発揮。弦はコントラバスが中央に配置され、暗い音色の金管と相まって、地底から吹き上がってくるような不気味な音をしばしば演出。フォルテで全奏の場面になると備長炭がいこっているような感じ。こんな響きのするオケが他にあるだろうか?ルイジのテンポはほぼ標準的だが、ときどき少しテンポを落とし、各パートを弾き切らせ、吹き切らせ、打ち切らせることに重きを置く。
 しかしこの日は歌手たちも負けていない。ニールンドは新国「ばらの騎士」の元帥夫人からは想像できない激しい歌いぶりだが、決して音程が乱れずむしろ整った感じさえ受ける。シュミットのヘロデ王とは何とももったいないが、いつものように鋭い高音がよく伸びる。シュナウトのヘロディアスはさらにもったいないが、厚みのある響きで無駄なヴィブラートがなく、こちらも迫力十分。タイトスの明るく広がりのある声にも圧倒される。兵士の1人がアフリカ系でこれまた黒光りする立派な声。

 オケと歌手たちが正にがっぷり四つに組む。九州場所千秋楽で2分を越える大相撲を取った把瑠都・栃ノ洋戦が思わず頭の中に甦る。引越公演最終日にこれぞオペラの醍醐味と言うべき公演が観られ、大満足。

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