仲道郁代(P)+パーヴォ・ヤルヴィ指揮ドイツ・カンマーフィル
○7月17日(火) 19:00〜21:15
○紀尾井ホール
○2階C5列5番(2階最後列下手端から5席目)
○ベートーヴェン「ピアノ協奏曲第2番変ロ長調」Op19(約27分)
 同「交響曲第8番ヘ長調」Op93(約25分)(第1楽章提示部、第3楽章全て繰り返し)(約24分)
 同「ピアノ協奏曲第5番変ホ長調」Op73(皇帝)(約36分)
+エルガー「愛の挨拶」、シベリウス「悲しいワルツ」
 (8-7-5-5-3)(下手から1V-Vc-Va-2V、Cbは1Vの後方)
 

バイアグラを飲んだベートーヴェン
 
 昨年ベートーヴェンの交響曲全曲演奏で日本の聴衆に大きな衝撃を与えたヤルヴィ指揮ドイツ・カンマーフィルが再来日。テレビでしか観れなかったので是非今回は生で聴こうと思っていた。東京・横浜の4回公演のうち3回は1,600席のオペラシティ・コンサートホールと2,000席の横浜みなとみらいホールで行われるが、この日だけは800席の紀尾井ホールが会場。室内オケを室内楽専用ホールで聴ける。こんな贅沢はない。迷わずこの日を選ぶ。もちろんほぼ満席。ジャパン・アーツの粋な企画にまずは感謝したい。

 仲道さんとのピアノ協奏曲2曲については、こちらをご覧下さい。

 足の長い奏者が多いのか、ヴァイオリン、ヴィオラ奏者の大半はスチール製の椅子を2つ重ねて座っている。トランペットとティンパニだけ当時の楽器を使用。弦のヴィブラートは抑え気味だが使っていないわけではない。
 ベト8、ヤルヴィは礼をして振り向きざま棒を下ろす。第1楽章3小節目、8分音符たった4つの上昇音型から炎が吹き上がる。アクセントやsfもこれでもか、というくらい強調。143以降第1主題の音型をしつこく繰り返していく所では、各パートの熱気が次第に指揮者の頭上に集まってきて竜巻のような盛り上がりに。
 第2楽章冒頭、木管のスタッカートは落ち着いているがppよりはpくらいの大きさ。第1ヴァイオリンの主題の歌わせ方は落ち着いているが、6のD→Bへの6度の跳躍などでは方向をはっきり示す。23や25の弦の32分音符のフレーズでまた小さな竜巻が起こる。
 第3楽章、2から3にかけて第1ヴァイオリン、Aが3度上のCに向かってしっかり跳躍。他の箇所の同じ音型でも同様。4〜6にかけてのクレッシェンドを最も強烈に聴かせるのはコントラバス。地下の洞窟へ我々を強引に引っ張りこもうとする。34以降の2度の音型(A→B、E→F)なども方向性が明確。トリオはまるでチェロ協奏曲のように、首席が3連符の長い伴奏音型を弾ききる。
 第4楽章も強弱の差をはっきり付け、途中で何度も竜巻を起こしながら、突き進む。元々快活な曲だが単に猛スピードで飛ばすのでなく、一音一音が<(クレッシェンド)か>(ディミニエンド)か<>(両者の組合せ)か、いずれかの推進力を持っていて平板な音が全くない。全編瞬発力と持続力に満ちあふれている。

 アンコールの「悲しいワルツ」でも弦の濃い歌いぶりが印象的。特に後半テンポを上げて盛り上げていくところは迫力満点。
 古楽奏法も参考にしてはいるが、古楽器オケがあまり重視しない「上昇音型=わずかにクレッシェンド、下降音型=わずかにディミニエンド」という西洋音楽お決まりのルールを極限まで強調しているところが面白い。だから、鮮烈だがアーノンクールなどの解釈よりはるかに自然に聴こえ、無理なく受け止めることができる。しかも小さいホールだから各楽器の動きもよくわかる。室内オケの醍醐味、ここに極まれりという感じ。

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