インバル指揮フィルハーモニア管
○7月5日(木) 19:00〜20:35
○東京芸術劇場大ホール
○3階H列46番(3階最後列から4列目、下手サイド中央から4席目)
○マーラー「交響曲第9番ニ長調」(約78分)

 (15-14-11-10-7)(下手から1V-2V-Va-Vc、CbはVcの後方)
 

手織りの音のじゅうたんに寝そべる
 
 インバル指揮フィルハーモニア管によるマーラー・シリーズの最終日だと言うのに半分程度の入り。合唱がいないせいか、この日はステージに団員がゆったり陣取っている。

 インバルは下手袖から登場。今日も指揮台前の椅子の上に水の入ったコップが2つ。
 この日も全体的にテンポは速い。第1楽章、聴衆に今どこを聴いてもらいたいか、明確に示しながら進む。これがベートーヴェンやブルックナーだったら「煉瓦を積み重ねるように」と言いたいところだが、マラ9ともなると、いろんな色の糸を縫い合わせながらじゅうたんを作っていく工程を見せられているような気分。例えば提示部が終わり、フルオケによる最初の盛り上がりの後第1主題に戻っていく108以降、「ミソラソ」の音型がティンパニからホルン→オーボエ+ヴィオラ+チェロ→ティンパニ→ヴィオラ→ハープ…と受け継がれていく。ただ、この楽章ではパート間の受渡しに少しぎこちない場面があった他、168のトランペットのファンファーレなど、不明瞭な箇所も見られた。
 第2楽章、弦のメロディは淡々と進む。ホルンの装飾音やトリルの音程が不安定。最後は消え入るように終わる。
 第3楽章、アンサンブルは整ってきたが、全体的に響きは明るく、手回しオルガンを連想させる刺激的な雰囲気があまりない。ただ、第4楽章を先取りする中間部から激しい主部に戻るプロセスは見事に組み立てる。
 第4楽章冒頭、ヴァイオリンのA−As−G−Asの音型を鋭く響かせるが、ヴィオラ以下が加わった途端にふっくらした響きに。アイスピックで砕いた角の鋭いかき氷にメロンシロップをかけて、氷の舌触りがいっぺんに滑らかになったような感じ。終始この音型を聴衆に印象付けながら進む。56以降、だんだん弦の響きに厚みが増してきて、思わずホロリとくる。
 ただずーっと気になっている楽器があった。シンバルである。この曲にはシンバルの一撃で曲想を変える場面がいくつかあるが、ここまで全くと言っていいほど目立たない。第4楽章後半のクライマックスにも2度ほど(121と130)出てくるが、どうなるのか注目。よく観察すると、ティンパニに溶け込むような鳴らし方をしている。指揮者の指示だろうが、それを忠実に守っているのだとしたら、この奏者ただ者ではない。
 159以降は最後の一音まですき間なくきっちり織りこむ。音のじゅうたんに寝そべっているような気分。

 カーテンコールの間何度かブーイングあり。どうやらホルン全員、オーボエ首席、ピッコロ奏者がご不満らしい。
 オケを解散した後インバルは2回登場。2回目はホルンの首席奏者とともに喝采を受ける。

 それにしても客の入りが悪いのが気になった。マーラー・ブームはもはや過去のことなのか、それとも指揮者とオケの組合せに魅力がなかったのか?もっともやっとしたマーラーが好みの方も多いかもしれないが、これだけスッキリ聴かせる指揮者もそうはいないはず。その意味では貴重な演奏。

表紙に戻る