インバル指揮フィルハーモニア管他
○7月5日(木) 19:00〜20:50
○東京芸術劇場大ホール
○3階K列46番(3階最後列上手サイドほぼ中央)
○マーラー「交響曲第2番ハ短調」(復活)(約79分)

 (16-13-12-9-8)(下手から1V-2V-Va-Vc、CbはVcの後方)
○S=佐藤美枝子、MS=エカテリーナ・セメンチュク、合唱=東京音楽大学(女声108、男声83)
 

プロセスが重要
 
 インバルがフィルハーモニア管を率いて4回にわたり得意中の得意、マーラーの交響曲を取り上げる。9割程度の入り。意外にも空席が目立つ。
 200人近い合唱をステージに乗せるせいか、オケの団員が少し窮屈そう。上手端のコントラバスは3プルト目までは2人ずつ並ぶが、その後ろはティンパニがあるので1人しか立てない。そこで残る1人は3プルト目の奏者の右に立つ。打楽器もティンパニだけ上手端、残りは下手端に分断されている。

 インバルは上手袖から登場。指揮台前の椅子の上に水の入ったコップが2つ。
 全体的にテンポは速い。第1楽章冒頭のチェロとコントラバスの響きに今一つ重みがない。25以降のヴァイオリンのメロディの響きも薄く、管楽器にかき消されがち。しかし、47までの木管アンサンブルから48の弦の夢見るようなメロディへ移るところなどは、鮮やかに雰囲気が変わる。325以降のクライマックスでトランペットのGの音がずり上がっているように聴こえる。冒頭メロディに戻る331以降、弦の響きが見違えるように豊かになる。
 第2楽章、インバルの鼻歌が最後列にも聞こえてくるが、オケの歌いぶりはあっさりしている。ただ最後のハープ→弦のピツィカートへ受け継がれて終わる部分の休符を長めに取る。終わるとソリスト登場。
 第3楽章、ハ短調の主部からニ長調のトリオ部分へ移行することで場違いな明るさが訪れる。主部に戻り、441以降今度はハ長調に転じたところで低弦の不安げなフレーズを強調し、465以降の破滅を予告する。
 第4楽章、間を置かずセメンチュクが歌い始める。朗々とした中にも陰のある声がホールいっぱいに響きわたる。若々しくストレートな歌いぶりが「原光」の雰囲気に合わないと感じる人もいるかもしれないが、スコアの"Sehr feierlich, aber schlicht"(とても荘重に、しかし素朴に)の指示にはぴったし。思わず聴き惚れる。
 第5楽章、速いテンポの中にも2の休符をしっかり入れるところがインバルらしい。彼女の声に目を覚ましたか、オケの音が俄然充実してくる。各パートが表情豊かに歌うが、互いに他のパートを邪魔することなくくっきり聴こえてくる。ここでも場面ごとの曲想の変化が明確。例えば310以降の盛り上がりが静まった後326以降のトロンボーン・ソロ、何かを訴えかけるような説得力がある。渋い音色のピッコロも耳に残る。
 472合唱の出だし、3分の1くらいは音を探していた。その後も特に男声がいま一息シャンとしてくれない。622〜623のテノールが弱いし、636〜637のバリトン・バスの音程が不安定。696以降のクライマックスのところでいくら頑張っても手遅れである。インバルがオケに対して終始働きかけてきたように、頂点に至るまでのプロセスをもう少し丁寧に歌ってほしい。佐藤も少し力んでいるのか、セメンチュクほどは声が伸びない。インバルは歌の入る箇所でも構わず鼻歌を続けている。

 演奏後インバルは上機嫌でカーテンコールに応えるが、なぜかソリストのうちセメンチュクとしか抱き合わなかった。途中からインバルとソリスト2人が交代で出入りし、最後もソリストがいない状態でインバルがオケを解散。一旦拍手が止むが、合唱団員がまだステージに残っていることに気付いた聴衆が再び手を叩き始める。そのうち自分を呼んでいると勘違い?したインバルも姿を見せ、思わぬ形で再度盛り上がる。
 インバル健在を確認できてよかった。来週の9番も楽しみ。

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