ゼクステット魅生瑞(みゅうず)
○6月21日(木) 18:30〜20:30
○ルーテル市ヶ谷
○5列目1番(5列目下手端)
○ピアノ=大滝良江、Ob=富田和子、Hr=阪本正彦、Fl=青木美咲、Cl=山本靖子、Fg=大滝雄久
○イヴァノフ/山本靖子「コーカサスの風景」より「酋長の行進」、リャードフ/阪本正彦「8つのロシア民謡」
 6人の奏者、5分間リサイタル
 プロコフィエフ/大滝良江「3つのオレンジへの恋」より「行進曲」
 ムソルグスキー/大滝雄久「展覧会の絵」
+プロコフィエフ「ロメオとジュリエット」より「モンタギュー家とキャピュレット家」
  ショスタコヴィチ「ジャズ・ワルツ」

ピアノと木管楽器が切り開く無限の可能性
 
 最初にお断りしておく。この日は運悪く仕事が長引いてしまい、「空耳アワー」の安齋さんに負けないくらいの大遅刻をしてしまった。聴けたのは「展覧会の絵」の「ブイドロ」の途中から。本来ならこんなわずかしか聴いていないのにレポートを書くのは演奏者の皆さんに失礼なのだが、約20年ぶりに再会したファゴットの大滝さんに事情を快く了解していただいたので、お言葉に甘え聴いた範囲で書くことにする。客席は約7割の入り。
 
 「展覧会の絵」と言えばどうしてもラヴェルの編曲版が頭から離れないのだが、これをピアノと木管5人でどう演奏するのか?特に弦や金管や打楽器が担当するパートはどうするのか?まさかラヴェル版の木管パート以外を全てピアノでやるわけにもいかない。編曲の腕の見せ所である。
 この曲には主旋律に性格の異なる様々なフレーズがからむ箇所が多いが、ピアノ独奏だと同じ音色だし、オケ版ではいろんな楽器がいっぺんに演奏するので、いずれの場合もよほどの名手か名指揮者でないと識別が難しい。しかし、奏者が6人で各楽器の音色の違いが明白だと、誰がどこを演奏しているかがよくわかるだけでなく、フレーズ同士の絡み合いも簡略化、先鋭化されるのでとても面白い。
 ラヴェル版では省略される「サミュエル・ゴールデンベルクとシュミュイレ」の後の「プロムナード」も演奏され、遅刻者向けにサービスしてもらった気分。ラヴェル版と同じ楽器にメロディを吹かせるか、わざと違う楽器に吹かせるかによっても雰囲気の変化が出てくる。「カタコンブ」ではホルンより低い音をオーボエ、フルートに吹かせ、一味違ったハーモニーになる。「キエフの大門」の最初の主題はラヴェル版より1オクターブ下げて吹かせ、徐々に盛り上げていく。ああ、最初から聴きたかった…

 アンコールは2曲ともメンバーから曲目紹介の後演奏。「プロコフィエフの『ロメオとジュリエット』からあの曲です。」などとユーモアを交え、場が和む。「最後は楽しい曲で」と紹介された「ジャズ・ワルツ」はショスタコヴィチらしからぬ素朴な曲。

 実は僕は「織笛(おるふぇ)」時代からのファンである。LPしかないが彼らの演奏したプロコフィエフ「ピーターと狼」は、中学生3人の絶妙のナレーションと相まって、ムチャムチャ楽しい。あれに勝る「ピーターと狼」に僕はいまだに出会っていない。
 同じピアノ+木管五重奏の編成だがメンバーが変わって「魅生瑞」になってからもNHKFMなどの放送録音をときどきは聴いてきた。しかし、毎年6月の定期演奏会だけはいつも仕事の都合で来られなかった。今年は20年目の節目でもあり何とかしたかったが、やっぱりダメだった。
 最後にメンバーから「ピアノと木管による六重奏の可能性を追求してきた」との挨拶があったが、彼らはオリジナルの六重奏曲だけでなく、様々な曲を編曲してどれだけ豊かな音楽を創れるか、挑戦し続けている。
 また、6人が1人ずつ登場する「5分間リサイタル」や演奏の合い間のトークなど、クラシック音楽をより身近なものにするための工夫も重ねている。こうして、息の長い活動が難しくなっている室内楽の世界で、独特の存在感を見せ続けている。次の演奏会がもう今から待ち遠しい。

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