ウィーン少年合唱団(Bプロ)(32回公演の31回目)
○6月17日(土) 14:00〜16:10
○東京オペラシティ・コンサートホール
○2階L1列2番(2階下手サイド1列目、ステージ側から2席目)
○指揮・ピアノ=マルティン・シェベスタ
○シュッツ「全地よ、神をたたえよ」、ダ・ヴィットーリア「アヴェ・マリア」、ハイドン「栄光にふさわしい主よ」、モーツァルト「イドメネオ」K.366より「平和の神」、メンデルスゾーン「主をほめたたえよ」Op39の2、フランク「天使のパン」、シューベルト「反抗」D.865、モーツァルト「汝、宇宙の魂に」K.429、ブリッカス/ニューリー「オン・ア・ワンダフル・デイ」、アーレン/ケラー「ストーミー・ウェザー」、フリード/ブラウン「雨に唄えば」、ホーナー/ウェイル「サムウェア・アウト・ゼア」、アメリカ民謡「アメイジング・グレイス」、イーレン/エイジャー「エイント・シー・スウィート」
J.シュトラウス2世「雷鳴と稲妻」Op324、ウィドマン「みなさま、お元気で」、ベートーヴェン「同盟の歌」Op122、メンデルスゾーン「スズランと小さな花」Op63の6、アプト「夜」、エルガー「踊り」Op27の1、コダーイ「2つの子どもの合唱」より「ヴィロー」、成田為三「浜辺の歌」、滝廉太郎「花」、村井邦彦「翼をください」、オーストリア民謡「高い牧草地で」「わたしは森の若人」、J.シュトラウス2世「浮気心」Op319、「皇帝円舞曲」Op437
+J.シュトラウス2世「観光列車」Op281、岡野貞一「ふるさと」、ロシア民謡「カリンカ」、J.シュトラウス2世「美しき青きドナウ」Op314、ロジャース/ハマースタイン「エーデルワイス」

忘れていた快感を思い出す
 
 梅雨入りした途端に梅雨明けしてしまったみたいな暑い土曜の昼下がり、久々にウィーン少年合唱団の演奏会へ。私事だが息子に一度聴かせてやりたいと思ったからだ。もちろんほぼ満席の入り。聴衆の9割以上は女性か未成年である。
 舞台中央にピアノが置かれ、総勢24人の団員たちが二手に分かれて両サイドから出入りする。僕の席は舞台の後方から彼らを眺める位置にあるので彼らの顔はよく見えないが、声はよく聴こえる。むしろ後方の席まで届いているか少々心配。

 1曲目が終わった後、指揮兼ピアノのシェベスタが日本語で挨拶。数少ないアカペラの曲、ダ・ヴィットーリア「アヴェ・マリア」、「サムウェア・アウト・ゼア」などが何と言っても心にしみる。少年期特有の澄み切った声そのものが美しいのはもちろんだが、それが低音から高音へ積み重なり、和音が変化していくところがたまらない。大人の女声とも男声とも異なる響き。長らくこの快感を忘れていた。
 前半ではハイドン「栄光にふさわしい主よ」が「ウルトラセブン」の主題歌そっくりなので、すっかり気に入ってしまった。演奏としてはメンデルスゾーン「主をほめたたえよ」が豊かなハーモニーを創り上げていてよかった。前半の後半ではアメリカのポピュラーソングを並べる。「エイント・シー・スウィート」で指を口に入れてポンッと鳴らしたり口笛を吹いたりするのだが、どことなく上品に響くのが面白い。
 後半はまず「雷鳴と稲妻」が歌詞の内容も相まって断然楽しい。逆にアプト「夜」は初めて聴いたが独特の重さと暗さがあってこれもいい曲。コダーイ「ヴィロー」はアカペラのハーモニーが美しいだけでなく、ハンガリー臭さ十分。日本の歌もすっかり彼らには馴染んでいるが、「翼をください」だけは新鮮だった。最後の「皇帝円舞曲」がオケのオリジナルとは違い、気品を保ちながらも意外と明るく元気に響く。
 アンコールを5曲も。合唱団のテーマソングとも言うべき「ドナウ」と「エーデルワイス」で締めるというのは、ウィーン・フィルのニューイヤー・コンサートにおける「ドナウ」「ラデツキー行進曲」と同じ役割を連想させる。
 プログラムに歌詞の大意しか載っていない、あるいは大意すら紹介されていない曲があるのは残念。曲目が多いので大変な作業かもしれないが、やはり原語と日本語で歌詞カードがほしい。マイナーな曲ほどあとでどんな歌だったが思い出す上で役立つからだ。

 シマダ・カイ君が日本人として初めて団員になって来日したことが報道されたのがGWの時だった。それから1ヵ月半以上、彼らは全国津々浦々をめぐってきた。この日の演奏でさすがに疲れを感じさせる場面がなかったと言えば嘘になる。しかし、彼らの声はこの日の空のように澄みわたり、この日の風のように爽やかで、この日の太陽のように情熱あふれるものだった。シェベスタは演奏水準の維持とレパートリー拡大によるマンネリの打破という、時には相反する目標をいずれも十二分に達成しているように思う。
 いよいよ明日が最終日。もう一息がんばって下さい。そしてまた来年も来て下さい。

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