スタニスラフ・スクロヴァチェフスキ読売日響第8代常任指揮者就任披露記念公演
○4月16日(月) 19:00〜21:00
○東京芸術劇場大ホール
○3階H列22番(3階8列目中央やや下手寄り)
○ベートーヴェン「大フーガ」Op133(約19分)

 ブルックナー「交響曲第4番変ホ長調」(ロマンティック)(ノヴァーク版)(約64分)
 (16-14-12-10-8)(下手から1V-Vc-Va-2V、CbはVcの後方)(Hr=5, Tp=4)
 (コンマス=藤原、第2V=清滝、Va=生沼、Vc=毛利、Cb=星、Fl=一戸、Ob=蠣崎、Cl=四戸、Fg=吉田、Hr=山岸、Tp=長谷川、Tb=山下、ティンパニ=菅原)

隠居を拒否した棟梁
 
 読売日響のレベルアップに貢献したとの高い評価を得て第7代常任指揮者ゲルト・アルブレヒトは3月退任した。後任には時計の針を戻すかのように、彼より一回り年上、83歳のスクロヴァチェフスキが就任。ドイツ物が得意という点で2人は共通するが、演奏スタイルはどう変わるのか?あるいは変わらないのか?サントリーホール改修の影響で久々に池袋の芸術劇場へ。ほぼ満席の入り。

 「大フーガ」、冒頭からずっしりした音が鳴り渡る。しかし17以降は一転してやわらかい響きに。このコントラストが全曲通して貫かれる。例えば、続く26〜29のppはふんわり、30以降のフーガの主題はがっちり、といった調子。コントラバスが時折ややぼやけるものの、暗めで渋い音色がなかなか心地よい。ただ、最後は意外とあっさり終わる。

 「ロマンティック」第1楽章、やや遅めのテンポ。35小節目以降第1Vのトレモロを少し目立たせて木管のメロディを補強。51以降金管は飛び出さず、整った、いやむしろおとなしい響き。75以降の第2主題、指揮者は主旋律の第1Vでなく第2Vの方ばかり見て振っている。209〜210のクラリネット、森の奥からかすかに聞こえる鳥の鳴き声のようで美しい。253以降ようやく金管も全開。fffとffをきっちり区別しているようだ。325以降ティンパニのトレモロ(G)を入れる。CDではいくつか聴いたことがあるが実演では初めてかも。517以降はまたfffだが、521〜522はごりごりやらずレガート。
 第2楽章、ほぼ標準的テンポか。51以降(及び155以降)ヴィオラのパート・ソロが存在感を示し、密度の濃いアンサンブルに。109以降の盛り上がりもffまでなので抑え目に聴こえる。221以降のfffでやっと全開。237以降のティンパニ、Gがやや低いように聴こえる。
 第3楽章、やや遅めに始まるが59あたりから徐々に加速。以下同様。トリオのテンポがかなり遅い。
 第4楽章、ここもやや遅めに始まる。76でシンバル一発!89〜90のティンパニのBも低めに聴こえる。93以降は速めのテンポで淡々と進む。329でもティンパニのトレモロ(C)が入る。
 それにしても気になるのはティンパニの下手側に置かれた銅鑼。いつ使うんだろう?いよいよフィナーレ(477以降)に入ったところで奏者がおもむろに立ち上がり、ハンマーを持ってスタンバイ。何と511と515で小さく2回叩いた!これまた実演では初めて見た。最後は中身の濃い響きに。

 N響の茂木大輔さんが「大工の棟梁」とたとえた緻密な音楽の組立てはまずまず団員に浸透していたと思う。その一方で、版の扱いについては先に書いたように他の指揮者とは違ったユニークな処理をしている。作曲家魂がそのようなアレンジをさせるのかもしれない。とにかく表現に枯れた感じが全くない。随所で鼻歌が聴こえてくるし、実に楽しそうに振っている。頑丈な木造の家の屋根に風見鶏、2階に出窓を付けるような感じ。読売日響とのコンビが今後どのように発展していくのか、楽しみである。
 この日の聴衆は演奏後も残響が完全に消えるまで沈黙を守る。最近東京でもこのような経験がときどきできるので、とても嬉しい。日本の聴衆もいよいよ世界最高水準に迫ってきたということか。テレビカメラが入っていたが、演奏だけでなく聴衆の「名演」も余すところなく放送してほしい。

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