スタニスラフ・スクロヴァチェフスキ指揮ザールブリュッケン放響他
○12月8日(金) 19:00〜21:15
○東京オペラシティ・コンサートホール「タケミツメモリアル」
○3階R2列16番(3階上手側バルコニー舞台側から10席目)
○ベートーヴェン「交響曲第8番へ長調」(約26分)(第1楽章提示部、第3楽章全て繰り返し)
(12-10-8-6-4)
 同「交響曲第9番ニ短調」(約66分)(第2楽章主部前後半及びトリオ繰り返し)(15-13-11-9-7)(下手から1V-Vc-Va-2V、CbはVcの後方)
 (S=ビルギッタ・シュライター、A=イヴォンヌ・フックス、T=マッツ・カールソン、B=アンドレアス・ルントマルク、スウェーデン放送合唱団(14-15))

次世代の老巨匠誕生
 
 3年前初来日し、ブルックナーで聴衆に感銘を与えたと言われるスクロヴァチェフスキとザールブリュッケン放響のコンビが、今年はベーレンライター社新全集によるベートーヴェン・チクルスで再来日。最終日に何とか駆けつける。ほぼ満席の入り。

 8番冒頭から快速テンポ。しばらくなんとなく聴いていたが、62小節(手元にベーレンライター版がないので便宜上ドーヴァー版ミニチュアスコアによる、以下同じ)以降第2ヴァイオリンとヴィオラがトレモロで盛り上げていくところなど、しばしばハッとさせられる。第2,3楽章も軽快に進む。ウキウキしてくる。第4楽章出だしこそわずかに乱れるが、音楽の勢いは止まらない。しかし、第2主題(48以降)でぐっとテンポを落とす。
 弦の響きは硬質だが編成が小さいので重くならない。管の響きもしっかりしている。特にクラリネットの骨太な音がいかにも「西ドイツの放送オケ」風で懐かしい。ティンパニは音に重量感があるのに芯がぼやけない。

 第9も全体的に速めのテンポ。弦の数が増えた分響きに厚みが増してくる。第1楽章499以降弦をあおって急激なクレッシェンド。第2楽章トリオ、454以降のオーボエソロが表情豊か。475におけるfpはスコアどおりしっかり付ける。第3楽章は少し落ち着いたテンポに。5,6あたりでも第2ヴァイオリン・ヴィオラが丁寧に歌い、メロディを引き立てる。64以降の木管(フルート、オーボエ、ファゴット)のアンサンブルも美しい。122と132の金管のファンファーレも引き締まっている。
 第4楽章では速めのテンポに戻る。ソリストは164以降オケが賑やかに鳴っている間に登場。187以降またも指揮者は弦をあおる。いよいよ歌が入る。
 この日のもう一つのお目当てはスウェーデン放送合唱団。前列に女声、後列に男声各1列ずつ、総勢30人もいない。指揮者は音量をほとんど落とさないのに、楽々とオケを越えて聴こえてくる。しかも力で越えるのでなく、やわらかで透明な響きがオケの上にふんわり乗っかる感じ。泣けてきた。654以降の二重フーガではぐんとテンポを落とす。同じメロディを演奏する合唱とオケのパートが三ツ星のカルボナーラのように絡み合う。ソリストたちも合唱団員、よくまとまっている。絶叫も悲鳴もうなりもない「第9」なんて初めて。気持ええなあ!

 オケを解散させた後も拍手は続き、スクロヴァチェフスキは一度はコンミスと、二度目は一人で登場して聴衆に応える。チェリビダッケ、ヴァント、朝比奈亡き後全国のコンサートホールをさまよい続けてきた日本の聴衆は、ようやく次世代の老巨匠を探し当てた。ただ、その演奏スタイルはこれまでの巨匠たちと異なり、元気溌剌としたもの。スクロヴァチェフスキは今年で83歳になるが、目をつぶって聴くと30代の指揮者が振っているように感じる。目を開けても指揮ぶりは30代。早くも次の来日が楽しみになってきた。

 オペラシティ・コンサートホールのバルコニー席に初めて座ったが、ステージ寄りの席だとオケの響きが天井から客席奥へ下り、それがさらに跳ね返ってくる感じ。アジア・ユース・オーケストラの時に座った、ステージを正面に見る席の方がはるかに音がいいことがわかった。

表紙に戻る