エリソ・ヴィルサラーゼ(P)他+ユーリー・テミルカーノフ指揮サンクトペテルブルグ・フィル
○11月22日(水) 19:00〜21:00
○サントリー・ホール
○2階RA3列13番(2階ステージ上手側3列目ほぼ中央)
○リャードフ「キキモラー民話」
 チャイコフスキー「ピアノ協奏曲第1番変ロ短調」(約33分)
 ショスタコーヴィチ「森の歌」Op81(B=セルゲイ・レイフェルクス、T=アウグスト・アモノフ、東京オペラシンガーズ
(男女各36)、東京少年少女合唱団(34))(約36分)
 (
チャイコフスキーは14-12-10-8-6、それ以外は17-15-13-11-10)(下手から1V−Vc−Va−2V、Cbは1Vの後方)

進むべき道はどこに
 
 サンクトペテルブルグ・フィルはたびたび来日しているが、なかなか行けるチャンスがなかった。生を聴くのは15年ぶりになる。9割以上の入り。
 「キキモラー民話」は、地下の暗黒世界に住む妖女を描いたもの。民謡風メロディやオケの鳴らし方のせいか、1909年の作品とは思えないほど古びた響きがする。「デビルマン」のBGMに使えそう。

 チャイコフスキーについては、こちらをご覧下さい。

 「森の歌」はソビエト共産主義賛歌の最たるものと語られてきた一方、60年代の日本では「うたごえ運動」に乗ってよく歌われていたらしい。ムラヴィンスキーやスヴェトラーノフ指揮のレコードのFM放送でしか聴いたことのない僕にはぴんと来ないが、それはともかくソ連崩壊後この曲が演奏される機会はなくなるだろうと誰もが思っていた。それが21世紀になって日本で聴けるとは。しかもスターリンを賛美する初演当時の歌詞で。
 ステージ両端にはPブロックや僕が座るAブロックでも見られるように字幕表示機を4つも設置。ロシアから来日するオケがどこも同じような曲ばかり演奏する中にあって、テミルカーノフのこだわりとジャパン・アーツの企画力に感謝したい。
 実はヴィルサラーゼの名演のおかげで、休憩中は半分腑抜け状態だった。でも、第1曲冒頭レイフェルクスの渋く光る声を聴くうちだんだん正気を取り戻す。合唱は声がよく出ている上しっかりハモってくれて心地よい。しばしば苦笑したくなるような歌詞が出てくるし、ショスタコーヴィチの音楽も他の曲に比べると響きはマイルド、メロディは単純で、物足りなさがないわけではない。しかし、人々に明るい未来と希望を抱かせるのに十分過ぎるほどのエネルギーに満ちた曲であることは疑う余地がない。
 東京少年少女合唱団の歌いぶりも初々しいし、アウグスト・アモノフの明るく張りのあるテノールも聴き応え十分。オケの音はがっちりと声を支え、第5曲の行進曲など速い部分になっても一糸乱れず突進するところなど、以前と全く変わらない。懐かしい気分にすらなる。
 
 この曲を国家が自らの体制賛美のために利用するのが間違っているのは明らかである。逆にこの曲に「権力に屈した駄作」というレッテルを貼って音楽史上抹殺するのも間違っている。我々が進むべき道は、おそらくその間のどこかにある。そんなことを考えさせられた。

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