オッコ・カム指揮アジア・ユース・オーケストラ
○8月25日(金) 19:00〜21:00
○東京オペラ・シティ・コンサート・ホール
○2階C2列19番(2階中央2列目、下手端から8席目)
○モーツァルト「交響曲第25番ト短調」K.183(12-12-8-6-4)(約15分)
  同「ツァイーデ」K.344より「安らかにお休み下さい」
  同「ああ、私の思ったとおり〜どこかへ消えておしまい」K.272(
以上2曲、10-10-6-4-2)
 マーラー「交響曲第4番ト長調」(16-16-14-12-8)(約52分)
 (下手から1V−2V−Vc−Va、CbはVcとVaの後方)
○S=イダ・フォーク・ウィンランド(モーツァルトのアリアおよびマーラー)

高校球児に負けない情熱

 1990年ユーディ・メニューインらが始めたアジア・ユース・オーケストラは、毎年アジア諸国の若い音楽家たち約100名を厳しいオーディションで選び、各3週間のリハーサル・キャンプとコンサート・ツアーを行っている。存在自体はもちろん知っていたし、以前の演奏もテレビで観たことはあったが、今回は知り合いが関係者という縁もあって、初めて生で聴くこととなった。しかも、2階中央、音響も最高。

 オッコ・カムは82年ヘルシンキ・フィルを率いてシベリウスの交響曲を全曲演奏して以来、しばしば来日してはいるが、生で聴くのは初めて。右手のひじを曲げずに振り、あまりスマートとは言えないが素朴な雰囲気がどこか懐かしい。

 団員はグレーのシャツに黒のズボンまたはスカート姿。モーツァルトの交響曲は各パートが100メートル競走のようにゴールへ向かって猛ダッシュ。第3楽章5小節目、弦の4分音符3つを次の小節の頭を目指して歌わせたり、第4楽章41〜48などでテンポを落とすなど指揮者がコントロールする場面もあるが、あっという間に終わってしまう。

 モーツァルトのアリアを歌うウィンランドはスウェーデン出身、ロンドンの王立音楽院在籍中。この日が日本デビュー。長身で人魚のように膝元がすぼまった黒のワンピース姿。中低音が少し不明瞭になることがあるが、高音はみずみずしく伸びて美しい。

 マーラーでは団員たちの出番を考えて木管は各4名(フルートはスコア通り)、ホルンは5名、トランペットは4名に増員。ここでもテンポは速い。どのパートも「私たちのフレーズを聴いて下さい!」と強烈に主張するのが伝わってくる。第1楽章252から始まるトランペットのファンファーレに他の楽器も負けじと加わって大騒ぎとなるが先生に怒られてシュンとなる。239から「ちぇっ、つまんないの」みたいな感じで第1主題が戻ってくるが、間もなく次のいたずらが始まる。顔だけベルアップ(楽器の先端を客席へ向ける奏法)している木管の奏者がいたり、最後の音が止んでもコントラバスの余韻だけいつまでも残っていたり、といった光景も実にほほえましい。
 第2楽章のコンマスのソロは優等生的演奏。第3楽章もあまりテンポを落とさずどんどん進む。もう少したっぷり歌わせてもいいのではないかと思うところもある。しかし、315以降の爆発を聴いていると、なぜかこの前の高校野球の決勝戦が思い出されて胸が熱くなる。その間にソプラノ歌手登場。
 切れ目なく第4楽章へ。前半よりウィンランドの声がさらに伸びるようになる。さわやかな後味の残る演奏。カーテンコールで指揮者が首席奏者やパートを立たせるごとに歓声が上がるのもユース・オケならでは。

 団員の多くは中国、台湾、香港、韓国、日本出身だがフィリピン出身のフルート、ベトナム出身のオーボエもいる。月並みだが、彼らがここでの経験を将来に生かし、世界中で活躍することを祈って止まない。
 客席は7割程度。関係者や団員の親族・友人がいることを考えれば、もう少し一般の聴衆に足を運んでほしいものだ。

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