ワシントン・ナショナル交響楽団演奏会(3回公演の初回)
○ラン・ラン(P)+レナード・スラトキン指揮ワシントン・ナショナル交響楽団
○12月1日(木) 19:00〜22:00(演奏会後の質疑応答の終了時間)
○ケネディ・センター・コンサート・ホール(米国ワシントンDC)
○First Tier A406(3階上手サイド1列目、舞台側から5席目)
○シューベルト「ロザムンデ」D.797序曲(16-14-12-12-8)
 ショパン「ピアノ協奏曲第1番ホ短調」作品11(約39分)(12-10-8-6-4)
 +リスト「愛の夢」第3番変イ長調
 ウォルトン「交響曲第1番変ロ短調」(約43分)(16-14-12-12-8、下手から1V-Vc-Va-2V、CbはVcの後方)

埋もれた名曲の発掘

 12月に入り、急激に冷え込んだワシントンDC。この日はラン・ランが登場するとあって、9割近い入り。珍しくコンミスのヌリット・バー・ジョゼフはお休み、アシスタント・コンミスのエリザベス・アドキンスがチューニングの指示。
 スラトキンは登場するや、譜面台に広げてあるスコアをわざわざ閉じる。シューベルトにしては弦の編成が大きい。そのせいかいきなり分厚い響きが鳴り渡る。しかも終盤に「グレイト」の先取りのような箇所もあるので、前菜でいきなりカツ丼を食べたような気分に。

 ショパンについては、こちらをご覧下さい。

 ウォルトンはローレンス・オリヴィエ監督・主演によるシェークスピア映画の音楽の作曲者として知られているようだが、日本でも当地でもめったに演奏されない。交響曲第1番は1932年に着手され、3楽章による演奏などを経ていったん1935年に初演されたものの、作曲者自身満足せず、さらに改訂を加えて1968年に「修正版(Corrected Version)」を発表した。この日の演奏もこの修正版による。演奏会後スラトキンが説明するには、「イギリス音楽の流れを変えた、都会的感受性(urban sensitivity)を有する作品であり、不当にも過小評価されている」ので取り上げたとのこと。
 第1楽章はティンパニのppのトレモロから始まり、ブルックナー開始に少し似ている。弦のトレモロの上をオーボエ・ソロが変ロ短調にしては明るいメロディを奏でる。その後は弦の行進曲風メロディに金管が徐々に加わり、盛り上がっていく。雪の中を進む古代ローマ軍のようなイメージ。終わると早くも拍手。
 第2楽章は無窮動風のスケルツォ。弦や木管がせわしなく動き、無調のように聴こえるところも。終盤になってやっとホ長調とわかる。深夜のロンドンの街中をスパイが逃げ回っているような雰囲気。
 第3楽章、弦の弱音の上をフルート・ソロ(首席の河野俊子さん)が甘いメロディを奏でる。月夜のバルコニーにジュリエットが現れる。弦楽合奏がロメオとの逢瀬を盛り上げ、金管が入るとその後の2人の運命を予告。ショスタコーヴィチ似の部分もあるが、よりマイルドな曲風。拍手1名。
 第4楽章、変ロ長調の力強い上昇音型から始まる。戴冠式の朝みたい。日が昇り、従者たちが支度に走り回り、群衆があちこちから集まり、新しい王の登場を待ちわびている。弦のフーガ風アンサンブルに乗って貴族たちが入場、最後に王が冠をかぶったところでティンパニ2台、シンバルに銅鑼も加わり、式典は頂点に。最後はシベリウスの交響曲第5番のように、オケの全奏と全休止の繰り返しで曲を閉じる。
 木管は歌いがいがあるが、金管は分散和音風音型を繰り返すことが多く、弦は刻む場面が多く休憩が少いのでなかなか大変そう。しかし、親しみやすいメロディとしつこいリズムがうまくミックスされ、かと言って同時代のアメリカの作曲家(例えばコープランド)に比べると一ひねりした表現を聴かせる。埋もれた名曲をスラトキンとNSOが見事に発掘。

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